年月に関守なし…… 

古稀を過ぎると年月の流れが速まり、人生の終焉にむかう。

清明<5>シデの木

2010-04-23 | フォトエッセイ&短歌
 毛虫の嫌いな人は毛虫を想像してゾクゾクと虫酸(むしず)が走るかも知れない。イヌシデの雄の花穂の末路である。
 春風に乗って冬芽が大きくふくらみ葉が開くのだが、その前に小さな雄花をたくさん付けた花穂がぶら下がる。そのぶら下がった花穂の様子が四手(シデ)に似ているところからシデの木と云われる。四手(シデ)は玉串(たまぐし)や注連縄(しめなわ)などにつける白い紙で作った短冊状の飾りで神事の供え物を清める稲穂を象徴したもの。
 枝の先に上向きにつく雌花に雄花の花粉を飛ばして受粉する。いわゆる風媒花である。その後。雌花はミノムシのように実をぶら下げて、秋には褐色の果穂となって垂れ下がる。

<雄花は花粉を飛ばすとその任務を終わり、地面に散ってその生涯を終わる>

 秋には紅葉を彩る落葉高木。樹皮は灰白色でなめらか。本州、四国、九州の山野に自生する。比較的成長が早くかつては炭材として利用されていた。その他、建築材・床柱・器具材・ステッキにも利用され、シイタケの原木としても利用される。

<アカシデ、クマシデなど類似の木があり、葉で見分けるらしい>

 25度の夏日が来たかと思えば6度の冬の気温。寒暖の差ではすまない。異常気象という事で野菜は値上がり「野菜戦争」が始まるか。
 イヌシデの根元には寒暖の差で色合いが鮮やかなテッセン“鉄扇”が咲いている。つるが鉄のように固いということで「鉄線」と呼ばれる。クレマチスはその仲間のようだ。

<暖の陽射しを受けた鮮やかな若緑と淡い紫が目に眩しい>

清明<4>競 演

2010-04-18 | フォトエッセイ&短歌
 桜前線が通過し春本番になるはずであるが、なかなか冬物コートが手放せない事態である。北からの寒気と南からの暖気が日本列島を境にせめぎ合っているのだ。今年は北の勢力が強く4月の「低温に関する全般気象情報」が14年ぶりに出るなど、関東一円にも雪が舞った。
 東京都心では1969年以来、41年ぶりの最も遅い降雪記録と並んだという。梅が発育不全で実にならないとか、茶葉の若芽が凍って変色したとか、農作物の雪や霜の被害がはっきりするのはこれからだ。
 すでにキャベツ、ネギ、キュウリ、コマツナなどの野菜の出荷が止まって高騰をはじめている。赤松広隆農林水産大臣は野菜の前倒し出荷と規格外野菜の出荷を農民に要請している。

<寒暖のせめぎ合いの間隙をぬって豪華絢爛に競演する花桃と桜の艶景>

 影響は思わぬ所にも出ている。3月中旬からの暖気の影響で桜は予想以上の早咲き、ところが開花した後の寒気の逆襲で「花咲じいさんのようにパッ」と満開にならない。花吹雪の機会を逸したのだ。
 結局、開花から花吹雪までの期間が延々と続き「桜長持ち最長」を各地で記録している。四国では19日間、横浜でも11日間「花見」が出来た。
 当然、この開花~満開期間の長引く傾向はサクラばかりではない。

<いつまでも瑞々しい色合いで寒暖の冬風・春風に揺れる真っ赤なハナモモ>

 冬物復活、異例の影響もある。コート・上着・毛布類が再び売れはじめ春物と並んで店頭を飾っている。「気温の低下が幸いしている。嬉しい誤算だ」と張り切っている高島屋の談をニュースが伝えている。景気浮揚の切り札になるかって……

<花一輪。威厳を感じさせる老木に若芽もすくすくと伸び始めている>

清明<3>スズカケノキ

2010-04-13 | フォトエッセイ&短歌
 サクラが終わるとプラタナスの新芽が大きく膨らんでくる。萌えるような若緑の芽はパット外気に触れれば掌を広げるようにグングン大きくなり新緑のもみじ葉となって陽を照り返す。この頃になるといがいがの玉となった蕾がぶら下がり、やがてうっすらとピンク色の花を咲かせる。落葉広葉樹。葉が散ると鈴をぶら下げている様が良くわかり「鈴懸」に納得する。
 花の状態が、楽器の鈴(すず)に似ていることから「鈴懸の木」と一般的に呼ばれている。
が由来の本来は、垂れ下がる実の姿が、山伏(やまぶし)が着る「篠懸(すずかけ)」についている房に似ていることからだという。そういえば、義経の都落ちに従う武蔵坊弁慶の篠懸は見事なものです。

<花はそのまま実となり冬を越す。膨らんだ若芽に越冬した実が下がっている>

 スズカケノキ(鈴掛の木、篠懸の木)は成長が早いため、街路樹や庭園樹として利用されてきた。枝が横に張る性質があるうえに、成長が早すぎるので、毎年、枝をバサバサと切り落として、幹だけに刈り込まれる。そのため近年では植栽が敬遠されているとか。幹の上部がコブコブになったものがよく見られるのはそのためである。
 「風」 プラタナスの枯れ葉舞う 冬の道で プラタナスの散る音に 振り返る
      帰ってお出でよと 振り返っても  そこにはただ風が 吹いているだけ
       人は誰も恋をした 切なさに 人は誰も耐え切れず 振り返る
      <1969年 北山 修 作詞>

<はしだのりひことシューベルツの「風」であるが、歌詞の感じではないな~> 

 日本では街路樹として、モミジバスズカケが多く使われているが本種(スズカケノキ)とアメリカスズカケノキ との雑種であるとか。原産地はヨーロッパ南東部からアジア西部で、日本への導入は明治年間とされる。新宿御苑のスズカケノキが日本の原木と聞いたが?

<やがて「鈴」も萌葱色の若葉に隠れてしまう事だろう>

清明<2>陽 炎

2010-04-08 | フォトエッセイ&短歌
 晴れた日に地表のものが揺らいで見える陽炎(かげろう)の季節になる。陽射しで地面の空気が暖められ上昇するとき、そこを通る光るが複雑に屈折して風景を揺らいで見せるのだ。陽炎が現れると春本番ということで季語にもなっている。『かれ芝やまだかげろうふの一二寸』早春の陽炎を詠んだ芭蕉の句である。まだ野芝は枯れていて緑にはならないが、日溜まりの春の陽にチョロッと陽炎がたった、そんな風景が見えてくる。
 春の陽を突き破って上昇したのは陽炎だけではない。米フロリダ州の米航空宇宙局、ケネディ宇宙センターから打ち上げられたスペースシャトル・ディスカバリーの山崎直子宇宙飛行士も無事に飛び立っていった。行き先は国際宇宙ステーション(ISS)である。ここでレオナルド(多目的補給モジュール)をISSに取り付け、荷物を移動させた後、レオナルドを取り外しISSに格納するのだいう。私の脳みそではとても想像も出来ない世界の出来事なのだ。

<小川の緑も色づき、長閑に流れに身を任せたミズモが揺らいでいる>

 山崎直子宇宙飛行士。向井千秋さん以来の2人目の女性日本人宙飛行士で、7歳の娘さんがいるママさん飛行士である。優しげな顔立ちで手を振って宇宙の彼方に旅たったが、岩をも砕く強靱な心の持ち主であったという。宇宙飛行士を目指したきっかけが凄い。1986年に起きたスペースシャトル・チャレンジャー事故で乗組員7名が宇宙に散った。
 犠牲者の中に女性教師がいる事を知って「彼女の遺志を継ぎたい」と山崎直子さんは宇宙飛行士を決意したという。順調にいけば帰還は18日である。無事であることを祈る。
一回の打ち上げが1千億円という膨大な経費がかかるスペースシャトルも今年で退役だとも言う。宇宙ステーション内の日本の実験棟「きぼう」も毎年400億円の経費がかかる。今後、どうするのか議論が始まったところだ。宇宙開発の難しさでもある。
 宇宙から桜は見えるのか。ソメイヨシノは今が満開である。花のトンネルでも潜ってと宇宙への思いを馳せるか。


 国際宇宙ステーションまでは遠いが、阪神甲子園もまた遙かに遠い。いよいよ春の地区大会が始まった。一つでも勝ち上がってシード権を獲得して10センチでも夏の甲子園に近づくのが当面の戦いなのだ。ガンバレ高校球児!

清明<1>老木の形

2010-04-03 | フォトエッセイ&短歌
 春本番、4月5日は春分後15日目にあたる清明である。清浄明潔(せいじょうめいけつ)の略で春先の清らかで生き生きした様子をいったものである。美しく澄み切った晴朗の陽に草木は芽吹き、花が咲きはじめ万物みな清々しい季節を迎える、そんな意味あいであろうか。
 入学式を迎えた学校には清々しいピカピカの1年生が入ってくる。人の世も清明の季節を迎えた。ガキ大将に引き連れられ広場だの路地だので遊び回っていた生活から窮屈な教室の生活に変わっていく。大きなストレスであるが、遊びのルールの中で人間関係を学んでいるからケンカやイタズラやイジメもその関係の中で克服されていく。
 が、それはもう昔話だ。大将もミソッカスもいないし、そもそも公園での遊びはうるさいといって禁止、ボール蹴りは危ないと言って禁止と遊びようがないのだ。あったとしても、塾通いでそんな時間がないのが実情だ。遊び方も人間関係もしらない。うるさいガサツナ奴がいると足がすくんで登校出来なくなってしまう子も出てくる。

<清明の夕刻、陽が静かに落ちた。五重塔のシルエットが凛として佇んでいる>

 今年から、教科書が厚くなって授業内容の増加が進められテストが強化されようとしている。ゆとり教育の批判を背景に学習指導要領が改められた。教科書の内容を全部教えようとすれば授業時間が足りない。7時間授業とならざるを得ないともいう。ついて行かれない子は悪い得点の答案用紙を抱えてじっとうずくまっているしかなかろう。
 春、清明はいつまで続くのか…葉桜の頃には5月病症候群が待っている。登校拒否が問題になる第1段階である。対策は大丈夫か。抱えるような歳を喰った老木に花一輪が揺らいでいる。落ちこぼれないようにしっかりと根付いて欲しいものだ。

<ひび割れた老木の威厳。ジージィの背に乗る孫のような姿が微笑ましい>

 黄色い見事な絨毯。菜の花の見納めである。アブラナとかナタネとか呼ばれたが、第二次世界大戦後は輸入されたセイヨウアブラナが主流で、菜種油用として水田の裏作作物として栽培されてきた。しかし現在では安価な輸入品に太刀(たち)打ちできず、「菜の花」は観賞植物として「お花畑」の王様となっている。