時折、ゴルフ(Golf)で一緒になるMさんは大男であった。学生時代にラクビーをやっていたと自称する巨漢体躯で赤ら顔で揉上(もみあげ)も結構様になっている。彼がティーグラウンド(Tee-ground)で伸びをしてドライバーを握ると、Driverが小ぶりに感じられてボールも小さく見える。
彼が渾身の力でドライバー(Driver)を振り抜くのだからボールの勢いもありプロも顔負けの飛距離が出る。が、ゴルフの飛距離はフェアウェー(Fairway)を外したら正規距離にならないし、OB線を越えてしまえば飛距離0mとなる。MさんのDriver Shotは安定性がなく、OB連発となる。でも4回に一度くらいはFairwayに収まりバーディ(Birdy)で上がる事がある。
Mさんはそれが楽しく、Driver Shotを加減してにFairwayに置きに行くような事はしない。それがMさんGolfの流儀である。300ヤード(yard)も10インチ(inch)も1打は1打だ!てな具合に楽しい同伴プレイヤー(Prayer)となる。
トある時からGolfに誘っても飛んで来ることはなく、やがてアアダ・コウダと理由をごねて出て来なくなってしまった。やがて、その理由が分かってゴルフ仲間は驚いたのである。「踊り=新舞踊」を始めてゴルフどころではないという。今週は発表会、来週は町内会と老人ホーム、再来週は研修と施設慰安と踊り一筋の売れっ子芸能人並の活動とか。
それにしても「踊り」とは何だ、という事で区民会館のチャリティ演芸会に出かける。
客席を背にして握った扇子を翳したMさん、村田英雄の『無法松の一生』が流れライトが輝くとトンと床を蹴り、見得を切って正面に向く。おお、何という勇姿か、白足袋に着流しの和服が様になっているし、巨漢の下腹を締め上げる角帯がいなせだぜ。ハラリと開き、パチィッと閉じる舞扇の鮮やかさには驚いた。MさんがGolf場に姿を見せる事はもうないだろうと確信した。
新舞踊(しんぶよう)とはなんだ。江戸時代の歌舞伎舞踊とは異なる新しい方向を目ざした日本舞踊の総称とか。その後、いろいろ曲折があったが、最近では、演歌に振り付けをした「歌謡舞踊」を新舞踊と言っているのだそうだ。美空ひばりの「みだれ髪」なんかはモウ感動で涙が出るとか‥。
<公民館の新春の集いの出し物のひとつが新舞踊でした>
羨ましい吾も踊りたし新舞踊凛と決めれば命も延びそう
右手かざし眼玉大きく顎引いて見得切る踊りに掛け声も飛ぶ
腰低く摺り足トンと踏み込んで背筋伸ばせば老いの我が背も
裸木の窓打つ梢影うすくホールは熱く演歌流れる
三曲目衣装値踏みの声もある舞台は佳境陶酔の踊り手
如月の北西の風窓打つも蹴出しの赤が跳ねて艶めく