年月に関守なし…… 

古稀を過ぎると年月の流れが速まり、人生の終焉にむかう。

渋谷駅

2013-03-29 | フォトエッセイ&短歌

 東急東横線の渋谷ターミナル駅が3月15日で閉鎖された。東京メトロ副都心線との相互直通運転により渋谷駅のホームが地下に移されたためである。たかが私鉄の駅の移動にしてはニュースは全国版で騒動のように放送され続けた。心酔的「鉄道オタク」熱狂的「撮り鉄」族ばかりではなく一般市民をも捲き込んだ盛り上がりである。
 一つは、今や経済界の一角を占めれ東急グループの拠点である渋谷の壮大な再開発の端緒として、経済的観点からの注目度である。もう一つは渋谷が若者文化の発信の街として話題性を堅持する類い希な都市であることである。渋谷カルチャーは日本文化を象徴する一側面である。HACHIKO-PARKは外国人観光客のコースにもなっているという。
 ミナト横浜始発の電車は地下深く渋谷を突き抜け埼玉県の飯能や森林公園まで一直線である。85年間続いたターミナル駅としての渋谷駅の歴史は終わった。この間、多くの出合いと別れ、再会と別離があった事だろう。私も若かりし頃、4年間、渋谷駅の改札を通り抜けてきたが、少なからぬ思い出もある。
 彼女は信州駒ヶ根から出て来て祐天寺の近くの遠い親戚に下宿というか居候していた。1年が終わった春、学校止めて田舎に帰ると言い出した。理由があるような無いような漠然としたものであったが、妙な説得力があった。「あたしは頭が良くないし、勉強も好きではない。でも一度は東京で生活してみたかったし、みんなが騒ぐ大学がどんなものか経験してみたかった」東京も学園も知ったし、たいした所ではなく、あたしをこれ以上留める魅力はない、というが彼女の言い分だった。
 改札口で赤いランプの終電車の走り去るのを見ながら話は尽きなかった。1年じゃ解らないだろう、これから凄い人生の転換になるような出会の可能性もあるだろう。けど、なんと云うのかナ~、銀座歩いても新宿ぶらついても浮き立つものが無いんだよ。時代に置き去りにされる過疎地の薄い空気は息苦しいばかりだが、それはそれで納得出来るというのかナ~。結局彼女は1年で東京を引き払い、3時間に1本というバスの終点から更に歩いて1時間半という山間の集落に戻っていった。

<深閑としたプラットホームを眩い電光がさらしていた>

 

  天空に聳ゆるビルを支えしはプラットホームのドームが礎

  地下深く迷路のように下り来れば走り込む車輌は爆風の如く

  見下ろせば上り下りの通路あり右往左往とアリにもなって

  役割を終えし改札佇みて灯火ほのかにうたた寝の中に

  雑踏のハチ公前の待ち合わせ青春の輪に入りしを感ずる

  過ぎし日のハチ公前のデモ行進「渋谷」に刻みし1ページあり


煙 霧

2013-03-20 | フォトエッセイ&短歌

 3月16日、東京で過去最早タイでサクラの開花が始まった。素人感覚では冬の寒さが続き開花宣言も遅れるのかと思うがそうではない。逆に、花芽がスムーズに休眠から覚めて一挙に蕾が膨らみ花開くのだという。
 最近、自然界では観測史上最速とか、最多とか、最大とかの記録破りがしばしば散見される。人間には見えない地球のどこかで何か大きな変動が起こっているのかもしれない。1週間前の10日には練馬区で28・8度を計測した。1876年に観測を開始して以来、最も早い「夏日」である。何と72年ぶりの記録更新で明治10年の西郷隆盛の西南戦争の前年にあたる。
 この3月10日は南から暖かい風が吹き込み、気温はグングンと上昇し春を突き抜けていきなりの夏である。Tシャツ一枚で公園を散歩する人も少なくはなかった。
 この春の長閑な陽気の下で東京電力福島第一原発事故から2周年を記念するイベントが行われた。原発ゼロの世論は政権によって閉ざされ推進に向かって動き出した。まだ4000万ベクレルの放射能が放出され続け被災地の復旧は手も付けられない状況下であるのに。『原発ゼロへのカウントダウンinかわさき』のステージではアトラクションの太鼓が響き渡った。
 その時、突如猛烈な風が吹き始め木々が千切れんばかりに揺れ動き地鳴りのような音を巻き立て始める。思わず首をすくめてあたりを窺う。空の一角がどんよりと土色に濁って、大陽がボンヤリと霞み、あたりの風景もセピア色に変色してしまった。
 これが、煙霧(えんむ)という気象現象であることは夜のTVで知った。強風によって土ぼこりが舞い上げられ大気が煙のようにかすんで視界不良になる現象だというが、地球が怒っているのではないかと思う。あるべき自然と暮らしと命を一瞬にして廃墟と化した原発過酷事故 モウ、ヤメタラドウダ!と。「かなしみは しづかに たまつてくる/しみじみと そして なみなみと」八木重吉の詩が福島の被爆者を詠っているようだ。

『原発ゼロへのカウントダウンinかわさき』和太鼓&エイサーの若者たち

 

  二周年断固許さじステージは原発ゼロのカウントダウン

  さみどりの木の芽が汗ばむ夏日来るトランペットのメロディに乗り

  孫のため脱原発と仁王立ち大間の母は敷地死守すと

  集会を止めよというか砂嵐太鼓は連打で反撃する
                       
  突風に木立騒ぎし昼下がり夏日の空を煙霧が被う

  砂塵舞う陽を遮りて影もなく憤怒にたぎる風神雷神

  土ほこり礫のようにバシバシと老いの足止め煙霧頻りに

  安倍総理原発廃炉の方針を面舵いっぱい民草蹴散らし


春の妖精

2013-03-08 | フォトエッセイ&短歌

 雪に埋もれて9名もの人が亡くなった。雪を知らない旅人ではなく、風雪や降雪の恐ろしさを熟知している雪の中で暮らしている雪国の人たちと言うから一体何があったのか感想もない。自動車という文明の機器をいつの間にか絶対安全と信じてしまったのか。あるいは注意をしててもなおそれを上回る異常な風雪だったのか。
 文明に慣れ親しんだ人間達の自然に対する姿勢の甘さがあるのかも知れない。想定外の自然災害の続発である。地震雷火事親父、自然の恐ろしさは常に日常的営為の一として想定しておく事が肝要なのである。今どき親爺が恐ろしいなどと思う者はいなくなったが。 このように、自然は暴れることもあるが、実に几帳面に穏やかに流れるのが普通である。日々の寒さにうんざりしていたが、ようやく啓蟄(けいちつ)を迎えた。土の中の虫が陽気に誘われて動き出すという。その啓蟄を待っていたかのように寒気団が北に退き春の陽気が着実にやって来た。永井荷風の俳句「日のあたる窓の硝子や福寿草」がよく雰囲気を表現している。
 野の福寿草がキラキラと黄色い花弁を開きだした。この時期に花が咲き茎が伸び濃い緑葉をつけるが、夏には姿を消して地下にもぐって晩秋に花芽を出す。そのためスプリング・エフェメラル(Spring ephemeral)「春の妖精」と呼ばれる。このように夏から秋にかけて地上から姿を隠してしまう花にカタクリやニリンソウなどがある。
 福を招き寿ぐ、何とも縁起の良い花で元旦に鉢植えが飾られるが、実は毒草で心臓麻痺を起こして死に至ることもあるという。綺麗な花にはトゲが隠されている。

<北風の中、啓蟄を待って花開いた野の福寿草>

  

                                            
  福寿草啓蟄迎え蕾あり雪降る北のたよりに震え

  幸福を寿ぐという福寿草落ち葉を割りて梅花の下に

  緑濃き色彩(いろ)なき冬も終わりかな啓蟄過ぎて福寿草咲く

  毒草と聞けば何やら緑葉と花の黄色が鮮やか過ぎる

  花言葉「悲しき思い」と辞書にあり春呼ぶ花は猛毒秘して

  花閉じる大陽(ひかり)に弱し福寿草春の陽嫌い春告げるとは


拳 闘

2013-03-04 | フォトエッセイ&短歌

 研究家によるとボクシングの起源はアダムとイブの子供達のケンカに始まると言うから長い長~いが歴史がある。古代、中世のボクシングはまさに殺し合いである。近代ボクシングは1838年の協会設立に伴って29条のルールが決められた頃だという。蹴り技の禁止・頭突きの禁止・目玉えぐりの禁止などが違反と記されている。目玉えぐりを禁止しなければならなかったとは、凄まじい競技であった事が分かる。
 現在はルールも厳格化しスポーツとして確立されている。とは云え、殴り合いの危険性は高くプロとアマの区別をこれほど厳しく制限しているスポーツはない。インターハイ、国体、オリンピックにの種目ではあるが、他の競技と比較して競技人口も観客数も多くはない。スポーツ観戦が嫌いでない私もプロボクシングの試合は見たことがなかった。「ロッキー」「ALI アリ」「ミリオンダラー・ベイビー」と映画で観るくらいだった。
 ところが、ひょんな事からWBA世界フライ級タイトルマッチ:黒田雅之VSフアン・カルロス・レベコ(アルゼンチン)12回戦を観る機会が訪れた。黒田は川崎新田ジム所属で地元川崎市の等々力アリーナでの興行、「川崎から世界へ」声援を合言葉に果敢に挑んだが判定で敗れた。
 新聞は「とどろきの奇跡」は起きなかったと書いたが、もし勝利すればそれは「奇跡」だったのだ。素人目にも1ラウンド観ただけで歴然とした実力の差がわかった。ポパイの
ような腕がハンマーを振りまわしているようだ。その王者の強烈なパンチに何度も押し込まれたが、最後まで踏みとどまってダウンを喫しなかった善戦を称えるべきか。
 肉弾と言うが、まさにボディからドスンという響きが伝わって来る。心臓麻痺でこちらが倒れそうだ。その真迫力はプロレスの比ではない。老人の観るものではない。

<チャンピオンベルト巻いてポーズをとるカルロス・レベコ 29歳)


  王者待つリングに眩くライト照る冷たいほどの静けさのなか

  「さあ来い」とコーナースツールを立つ王者ゴングが鳴りてグローブ合わす

  ひたすらにただひたすらに打ち当たる飛び散る汗は炎のように

  クリンチでボディブローの重き音我が腹に響いて体こごます

  輝いた熱きキャンバス侘びしげに敗者が無念の祭壇ににて