以前、中山道の木曽福島あたりで柿を砂糖でまぶした菓子を食った事がある。「こんな小さな柿があるんですか」「豆柿って云う位だから小さいが、本当は信濃柿というんだ。そこらにいくらでもあるよ」
千生(せんなり)柿、ぶどう柿、豆柿とも呼ばれているという。見てみたいと頭の隅に置いてから30年も経ってしまったが、福島県の阿武隈川中流の田舎で偶然に対面出来た。その農家は「柿大尽」と呼びたくなるような見事な柿に被われている。写真を撮ろうと屋敷に入って行くと昔ブタでも飼っていたのか、傾いた粗末な小屋があった。
その小屋の前の木には、ブドウ状の実がびっしりと付いている。う~ん、何だこれは。大きさも形も色合いも、巨峰(きょほう)そっくりであるが、しっかりしたヘタがついている。これぞ、ブドウ柿である。30年越しの信濃柿との出会いが実現した。
柿渋を採るために信濃国で多く栽培されたことからシナノガキと呼ばれている。傘・紙・木工製品に塗って補強したり、防腐剤として用いた。と言っても、もはやピンと来ないだろう。日用品であった「番傘」も今や文化財で民芸店か資料館でしかお目に掛かれない。
ワンタッチ式の傘が出回った時にはビックリしたな~。ビニール傘が発売されてからは傘も使い捨ての時代になった。台風の翌日のはビルの影に骨をひん曲げたビニール傘が吹き溜まっている。傘の世界も日進月歩の進化で3段式の折りたたみでポケットにも入ってしまう。
葡萄柿その名に恥じぬ色合いは酸っぱさも誘う濃い紫に
霜降りて紫になるブドウ柿 前は橙元は緑色
「可愛いネ」豆柿ひとつ口にする渋に渋あり渋の重ね着
荒れた手で樽柿を仕込む母は亡し木枯らしに鳴く渋柿に想う
穂の如く群れて実を成す渋柿は眼にこそ入るが口には入らず