年月に関守なし…… 

古稀を過ぎると年月の流れが速まり、人生の終焉にむかう。

波平 床屋に行く

2015-10-28 | 俳句&和歌

◇◇◇   波平、床屋に行く

 磯野波平・54歳。山川商事の課長で勤勉実直、上司とも部下ともトラブルを起こさず、時には同僚とゴルフ(ミスショットばかり) 釣り(釣果なし)に出掛けるが様にならない。晩酌を楽しみに日々恙なく一家の大黒柱として活き活きと暮らしている。日曜日には趣味の囲碁、盆栽、俳句などを楽しみ1男2女の子供たちに目を細め、時折「バカモーン」の雷を落とす。ご存知、サザエの父親である。
 実は波平は「TTKの理事」である。洗髪後、一本の髪の毛を大切にドライヤーで乾かす姿はお馴染みある。54歳にしてはハゲが進んでいる。ツルッ禿ではなく脇から後頭部にかけて多少残っている。波平は町内の床屋で散髪するが、ハサミをサラッと入れて「ハイ終わり」 何しろ毛が無いもんで。3800円である。安いか高いか!そこが問題である。
 三河屋の御用聞き19歳のサブちゃんの髪はバサバサ剛毛でクセ毛、床屋の親父は眺め透かして大奮闘である。「ようやく終わって3800円」である。理容組合の規定料金なもので!。
 いじましい話だが、この不平等感どうも面白くない。映画館、バスの運賃などにはシニア特別料金が設定されているのに。自衛対策……

 


 薄き髪不公平感苦々し遂に決断1000円床屋に

 惚け話うわさ交えて賑やかに吾が年想いやがて寂静

 

   本閉じて目薬一滴夜の秋

   冬隣ビルが吸い取る朝の月

 

※TTK理事=東京都下禿頭会(とくとうかい)の幹事、任務は不明
※冬隣(ふゆどなり)=景色や雰囲気など冬の近づいた気配がする秋


傾斜マンション

2015-10-18 | 俳句&和歌

◇◇◇  傾斜マンション


 横浜市都筑区の11階建のマンションが傾いているというニュースに野次馬R氏は早速見学に出向いた。ピサの斜塔でも想像したのか、「全く傾いていなぞ」とガッカリして帰ってきた。
 2㎝のズレというから見た目には解らないし、今すぐどうこうする事はなく、震度7の地震でも影響ないと云う。原因は杭が固い地盤まで届いていなくて、コンクリートの量も不足していた。建物の基礎になる重要な工事、専門家は「理解しがたい」「犯罪に近い」とコメントしている。違法建築なら犯罪である。
 それにしても最大手の三井不動産グループの建設・販売である。安心安全のブランド名を信用して購入者した人も多かろう。修復、建て替え、保証など他人事ながらご同情に堪えない。住民の発言の中に風評被害=資産価値の下落を怒っていた人がいたが頷けた。野次馬の見学は辞めよう。
 ピサの斜塔に話を戻すと傾斜修正は可能なのだが「不等沈下の事例」としてその姿を保つことになった。長らく最も傾斜建物としてギネスブックに認定された。ところが、ズールフーゼンの斜塔に追い越された。現在はアラブ首長国連邦のキャピタルゲートビル(35階建ビル)が傾斜角約18度でギネスブックに記載されている。


    テレビ見てインターネットのサイト読む でもいそいそと新聞ひらく

    秋の陽に老骨さらし鎮もれる解体を待つ2丁目団地

 


      十五夜もLED防犯灯に月盗られ

     ビルの間にかすむ名月姫もなし

 

 

※名月=中秋の満月
※ズールフーゼンの斜塔=ドイツ北西部エムデンにある教会


秋刀魚の歌

2015-10-11 | 俳句&和歌

◇◇◇  秋刀魚の歌

 サンマは「秋に獲れる刀のようなスラリとした形をした魚」から秋刀魚と書くそうだ。安くて栄養満点の大衆魚として人気があるが、もう一つ調理が簡単と云うのも人気の秘密である。塩焼きにしてカボスをギュッ!秋の味覚の代表とも呼ばれる逸品の出来上がりである。ここで炭火の七輪を連想するのは還暦を過ぎた世代であろう。
 七輪を思い出す世代にはもう一つ佐藤春夫の『秋刀魚の歌』も浮かんでくる。中学の国語の教科書にあったように記憶している。さんま、さんま さんま苦いか塩つぱいか。そが上に熱き涙をしたたらせて……  意味も解らず口ずさんでいたような記憶もある。
 実は『秋刀魚の歌』はとても中学生の教材になるような代物でないことを知ったのはずっと後になってからである。
 妻と別れた佐藤春夫が谷崎潤一郎の妻千代に横恋慕してスッタモンダノして二人の関係は険悪になり遂に絶交状態となる。後に谷崎が「奥さんゆずり渡し」を表明すると「細君譲渡事件」として、マスコミは世紀の大キャンダルとして大騒動となる。
 『秋刀魚の歌』は佐藤と谷崎の絶交中の確執の中で生まれたのである。詩の二節の中には、妻に逃げられた佐藤春夫の、千代に向けた思慕の切ない自嘲的な哀愁が謳われている。

  あはれ、人に捨てられんとする人妻と/妻に背かれたる男と食卓にむかへば、
  愛うすき父を持ちし女の児は/小さき箸をあやつりなやみつつ

 


  時を経た七輪出して戯れど火焚く場所なし捨てるもならず

  三陸の熱きサンマに冷酒の美味に隠れる波濤の嘆き


      秋刀魚焼くピンクソルトの煙りあげ

        絵になるな~丸に一文字サンマ載せ

 

※谷崎潤一郎=近代日本文学を代表する文豪 『細雪』な
※ピンクソルト=ヒマラヤ産岩塩で鉄分がピンクに発色


神無月

2015-10-05 | 俳句&和歌

◇◇◇       神無月
 10月に入り、新聞の川崎版に秋本番を迎える風物として王禅寺の色づく禅師丸柿の記事が載った。「柿生」の地名の由来ともなった禅師丸柿、歴史も古く慶安の頃(1650年)には池上本門寺の御会式で江戸の水菓子として江戸っ子にもてはやされたという。
 実を云うと美味いとは云いかねる。小ぶりで堅くて甘みは淡泊で種がバカでかい。果実の秋、食欲の秋、味覚は様々である。その素朴な渋っぽさに郷愁を感じて楽しむ人もあろう。
 10月、暦には神無月ともある。八百万の神々が重要会議で出雲大社に集結するので諸国に神様の姿がなくなるので神の居ない月=神無月だとか。何を議論したのか……人間とは何か、人の運命とは何か、など難しい哲学を語りあった。
 特に重要な話題は誰と誰を結婚させるか、カップルを決めて「お国のために子供を産んでもらうこと」などであったという。出雲大社が縁結びの神様と云われる由縁である。秋の夜長である。菅官房長官も曰く「ママさんたちがたくさん産んで国家に貢献していただければ」。折りも折、国家に貢献とは…… 産めよ増やせの苦い時代を思い出した方もあったであろう。


  柿の葉はゆっくり静かに慌てずに夏の陽落とし薄紅に

  丸かじり柿食う作法も変わりけり 皮むき切りて楊子にさして


 

   球場を中畑が去る神無月

   神無月こっそり色づく禅師丸


 

※お会式(おえしき)=日蓮聖人の命日に行われる法要
※官房長官=9月29日 福山雅治・吹石一恵カップルについてのコメント
※神無月(かんなづき・かむなづき)=旧暦10月の異称。冬の季語(ウ~ン)
                                   風寒し破れ障子の神無月   宗鑑
※ 薄紅(うすくれない)=「くれない」は古い読み方 ややくすんだ紅色