年月に関守なし…… 

古稀を過ぎると年月の流れが速まり、人生の終焉にむかう。

啓 蟄

2012-03-07 | フォトエッセイ&短歌

 雛祭りが過ぎ、春の訪れの足音が聞こえ始める、二十四節気の第3:啓蟄(けいちつ)を迎えた。大地が暖まり冬眠をしていた虫が穴から出てくる時季、柳の若芽が芽吹き、ふきのとうの花が咲く早春である。
 ところが、今年は厳冬で寒さも長引いている。梅・福寿草など春を届ける花の開花の遅れが伝えられている。毎年、この時期には屋敷の土手に芽吹いた蕗の薹(フキのトウ)をザル一杯届けてくれるKさんはまだ訪れない。蕗の芽吹きも遅れているのである。春一番の蕗の薹は香りもほのかで柔らかく天ぷらにすれば絶品のツマミになる。
 燗酒に蕗を肴に一杯やりながら土から這い出した虫たちと季節を共有するのも悪くはない。春は廻り来たのだ。特集と銘打った震災被災地のニュースが、今の日常の暮らしと直後の混乱とを並べるように伝えられる。震災直後、公表を差し控えた映像や記録も明らかにされ始め、改めて当時の緊迫した様子が分かる。九死に一生を得た弾ける笑みもあれば、九死に一生を得てしまった苦渋と嘆きの哀しみもある。津波に消えた孫を思う老人の顔には生き残ったという喜びも生気もない。幸運と不幸、生死を別けた一瞬の出来事を背負って生きていかなければならない多くの人もいるだろう。
 茶の間で映像を眺める私に何が出来るのだろうか。震災1周年、遅い春も自然の営みなら妖怪のような津波も自然現象である。人間は大自然の中の小さな1つの存在者なのだ。

<まだ、寒かろう。ツツジの頭にささやかな思い遣りの帽子が贈られていた>

 

  啓蟄の大地緩みし荒川の様にもならん河辺のカエル

  木の芽時急ぎ穴出ず虫共が凍て吹く風にしばし留まん

  冷やでよし燗酒もよし啓蟄の居酒屋狭し「なでしこ」の快

  ゴミ箱の酒ビン凝視し医師ひとり仮設のドアを押し開けて入る

  蕗のとうは雪の下で準備された 百合子の好んだ色紙を想う


最新の画像もっと見る

コメントを投稿