alternativeway

パリ、カフェ、子育て、サードプレイス、
新たな時代を感じるものなどに関して
徒然なるままに自分の想いを綴っています。

ワインの記憶

2014年03月16日 | フランスへの道
「私ね ピノ・ノワールが好きなのよ。ピノの香りっていったらね・・・」
あの時黒い服を着た優雅なマダムがそう言っていた。
ピノ・ノワール、ピノ・ノワール、ピノの香り・・・
それはどんなものなのだろう。私は話を合わせながらも
実際はよくわからなかった。


 初めて私がFoodexに足を踏み入れたのは 震災直前の3月だった。
とにかく取材に行きなさい、とフランスからくぎをさされて
京都から新幹線に乗ってわざわざ取材に行ったけど
その時の私の実情といえば 基本的には専業主婦で
それなのによく取材に行かせてもらえたな、と思ってた。
それでも丸一日会場を歩き、人々に背中を向けている
フランスワインのブースを何度も歩き
つたないフランス語で幾度も話しかけてった。
その時私が目にしたのは黒いスーツに身を包んだ
商談姿の男性達で 英語もできて商談もできる
私の住む世界とはかけ離れた人たちに圧倒されたものだった。


 いつの日か そんな人たちに一歩でも近づきたい・・・
翻訳ばかりでまだほとんど記事を書いたことのなかった私は
帰り際に立ち寄ったカフェで少し途方に暮れながら
それでも出会った沢山の生産者たちとの会話を思い出していた。



 あれから3年の時が経ち、私の人生も激変だった。
それでも、それでも、一度も消えることなく続けて来たフランス語。
ワインの世界も全然知らなかったけど 3年前に比べたら
だいぶ理解できるようになってきた。



 だけど私はブルゴーニュワインに弱い、ふとそんなことに
気がついた。あまり飲んだことがない、一度訪れはしたけど
それは1日だけだったし、気高きブルゴーニュでは
私たちは他の地方ほど歓待されず、何杯もなんて味わっていない。
一軒目に行ったところは、「え?今日じゃないと思ってた!」と言われ
それでもじっと待っていたら醸造所内で異臭騒ぎが起こってしまい
取材どころではなくなった。ブルゴーニュ委員会の方に
お話を聞きに行ったお店はめちゃくちゃ美味しかったけど
そこで1、2杯飲んだ後 あまりの疲れと寒さで車内で
うとうとし、幸せな眠りに包まれていたら次についたのは
もうシャブリで主に辛口白ワイン。
そんなわけで ブルゴーニュは本当にかすかな滞在だった。


 日本に戻って来てからも ボルドーのワインに出会う機会は
けっこう沢山あったのだけど ブルゴーニュといったら
私の場合はまるでなかった。自分で買おうにもやっぱり高い。
かといって試飲の機会もまるでない。これじゃいかん、
そう思ったのが学校を探すきっかけだった。


 金曜の夜中に調べ、土曜に急遽見学に行き、日曜の朝
フランスに行けるくらいの大金を支払って 11時にはもう授業が始まった。
非常にためになる授業のあとでテイスティングの時間があった。
この赤ワインは知っている。私は絶対知っている。
でもなんだろう?おそらく4番はボルドーだ。
でもこちらはどうしてもでてこない。懐かしい香り
どこかで嗅いだ覚えがある。ボジョレーのクリュにも
少し似ている、でも違う。この色はブルゴーニュっぽいけど
私、ブルゴーニュは知らないしなあ・・


 少し湿った枯れ葉のような なんとなくくすんだような
ニュアンスのある香り。華々しいワインではなく
深い霧に包まれた森林の中 身を隠そうとする女性のような

 最後の最後に渡されたプリントにはこうあった。
「品種 ピノ・ノワール」

 これが、ピノ・ノワールだったんだ。これがブルゴーニュだったのか。
私は絶対に知っているし 何度か出会った香りであった。
どこで出会っていたのかは はっきりとは思い出せない。
ブルゴーニュについた日は 霧のかかった雨だった。
ラングドック地方では27℃まで上がっていたのに
ブルゴーニュの気温は7℃。しとしと という言葉が
まさにピッタリくるような 寒くてちょっと薄暗い
南仏とは対照的な場所だった。寒くて凍えている中で
やっと入ったあたたかい店 そこで出された美味しいワイン
心温まるブッフ・ブルギニヨンがある。
こんなにも寒いのに ワインと料理で身体がぽかぽかに
なるものか と驚きを隠せなかった。
フランス取材の最終日、あと一軒で取材が終わる、
本当は観たかったコート・ドールのすぐ横を
通りながら私は眠りこけてしまった。
寒い 寒いと言っていたのに ワインが身体をあたためて
本当に幸せに眠りについた、きっと疲れがたまっていたのだろう。

 フランスに行った2週間、右も左もわからずに
ひたすら取材を続けていった。私の手元にあったのは
一冊の日本語のワインの教科書と フランス人ジャーナリストの
車内に転がっていたGuide Hachetteだけだった。ネットもほとんどつながらず
未知のワイン世界を知る手がかりはフランス語のみ。
今思えばよく生きてたなあ・・・と思うけど
すごく楽しい日々だった。
今やっと 日本語で しっかりとワインを教えてもらうことになり
先生が早口だろうが、知るべきことが山ほどあろうが
日本語だから もうそれだけでありがたい。
これから私は目にしたけれども組み立てられずにいた
沢山のパズルを1つひとつ当てはめていけるのだろう。

 立ちのぼる香り1つでよみがえる思い出や顔がある。
霧につつまれた灰色の空のブルゴーニュ。
哀しみやアンニュイさ、そして気高さを感じさせるボーヌの街。
その前に訪れたボジョレーの明るさと軽やかさ。
もっと沢山のワインと出会って 香りや少しの味わいで
様々なことを感じられる そんな人になってみたい。

フランスに行くなら

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