ヒュースタ日誌

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コラム再録(3)『子育てが間違っていました』

2012年10月24日 14時02分06秒 | メルマガ再録
 この言葉は本当によく聞きます。私の相談業務のなかでも、半数近くの親御さんは初回面接で自ら口にされます。口にされない親御さんも、お話のなかで心中そう思っていらっしゃることがうかがわれることが少なくありません。

 私の相談業務では、不登校やひきこもりが起きるまでの経緯を把握するために、本人の生い立ちを簡単に聴き取ります。ただ、その結果「不登校やひきこもりの原因は子育ての誤り」と判断したケースは、これまで1例もありません。

 事実、不登校やひきこもりになった青少年のなかには、以前には現在と正反対の印象(活発、友人が多い、頑張り屋、など)だった人が少なくないことが、親御さんのお話からわかっています。そうなると、不登校やひきこもりが、親御さんの子育ての善し悪しで起きたり起きなかったりするような現象ではないことが明らかです。

 にもかかわらず、現代社会の風潮として“子育て原因論”や“親への過剰な期待”が横行しています。そのことが、親御さんに「親として自分(たち)の子育てが間違っていた」と言わせてしまう、という面は否定できないと思われます。

 ただ、そうおっしゃる当の親御さんに「言わされている」という実感はないでしょう。むしろ、親としてのひたむきさや責任感の表れだと思いますし、その反省(必要かどうかは別にして)のお気持ちが、主体的に対応していこうという姿勢につながっている親御さんも多いようです。

 ただ、不登校やひきこもりが生じるメカニズム(専門家は「発症機序」と言います)について、これまでに何度かお話してきたように、私には私の説があります。

 すなわち、不登校やひきこもりは「本人の奥深くから沸き上がってくるエネルギーに突き動かされて起こる行動」です。私はこれを「無意識からの指令」と呼んでいます。

 不登校やひきこもりになるとき、本人のなかには、えも言われぬ違和感や不安感が生じています。それは言葉では言い表せない感覚ですが、あえて強引に言葉にすれば「このままで大丈夫か?」「今の自分でいいのか?」などというものになるでしょうか。
 そしてそういう感覚に導かれるように、本人は不登校やひきこもりという“トンネル”に入っていきます。無意識のうちに、そういう行動を起こすわけです。

 順調に生きることができなくなった本人は、自分の生きざまを受け入れることができずに葛藤するわけですが、逆に無意識の部分では「このままで大丈夫」「今の自分でOK」と納得できる、新しい生き方を探し続ける欲求を、消し去ることができないのです。
 その結果「不登校やひきこもりにならなかったらできなかった体験や出会い」を積み重ねていくうちに、以前とは違う人生観やエネルギーが生まれるわけです。

 こう考えると、本人を不登校やひきこもりへと導いた違和感や不安感は、無意識による「今の生き方はいずれ行き詰まるぞ」という“予言”であり「その前にいったん退却して、自分を創り直してから再出発せよという“指令”であると解釈できます。

 このような“予知能力”は、誰もが持っているわけではなく、本人の資質であり個性です(もちろん人間的な優劣とは無関係ですが)。
 したがって、不登校やひきこもりという困難な方法をとってでも、自分の人生を変えることができる資質・個性を育てたと考えれば「不登校・ひきこもりは、子育ての成果」と言っても過言ではありません。

 「いいえ、私はほんとうに子育てを間違えました。」
 そう確信なさっている親御さんもいらっしゃるでしょう。

 では仮に、ほんとうに誤った子育てによって、人格形成にアンバランスが生じて不登校やひきこもりになったとしましょう。

 そんな場合の不登校やひきこもりの意味は「人格形成のアンバランスを、自分で調整して再構成する作業」なのです。

 繰り返しますが、不登校やひきこもりは「本人の奥深くから沸き上がってくるエネルギーに突き動かされて起こる行動」です。言い換えれば、誰かのせいで起きるのではなく、自分で起こす行動なのです。
 ですから、今大切なことは「どう対応するか」です。「子育て」はともかく「対応」は、これからどうにでもできることなのですから。

2006.06.07 [No.122]「親の気持ち・親の疑問」シリーズ(1)


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