語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】算数のできない人に仕事を任せるな ~役立つ教養⑧~

2018年05月18日 | ●佐藤優
 (1)論理、理屈について、承前。 
 英語力強化ばかりが叫ばれる昨今だが、グローバル化が進むと、実は英語力より論理力が重要になる。国や文化が違う人にも、自分の考えを筋道立てて説明する力が問われるからだ。
 しかし、近年、日本人の論理力、中でも数学力はこれまでになく低迷している。
 <例>分数や足し算ができない大学生は、今や珍しくなくなった。20年ほど前から、「2分の1足す3分の1」の答えを「5分の2(正解:6分の5)」と答える大学生の割合が全体の約17%に達している【芳沢光雄・数学者】。
 こんなことになった大きな原因は、
  (a)入試科目から数学をなくすと、受験者が増えて偏差値が5ポイントも上がる。だから、私立大学の文系学部の多くは数学の入試を止めた。その結果、数学がまったくできない学生が経済学部に入り、そのまま大学院にも進学するという「異常事態」が常態になってしまった。かくして、分数の足し算さえできない若者が毎年大量に生み出されるようになった。
  (b)センター試験のようなマークシート式のテストが増えた。マークシート式には様々の欠点がある。①5つの選択肢がある場合、出題者はなんとなく「端っこの1番と5番には正解をおきたくない」と思ってしまうので、結果として3番に正解が偏ってしまう。これは統計的にも有意差が出るそうだ。②記述力を測ることができない。濃度や速さの計算といった、文章題・応用問題が理解できない学生が増えている。

 (2)憂慮すべきは、大学生はまだしも、小学校レベルの算数ができない社会人が大量生産されていることだ。さらに、驚くべきことに、ここ数年、ゆとり教育と相まって、教師の中にもそうした人がたくさん現れている。 
 教師自身が理解できていないことを、子どもに教えらるはずはない。算数がわからない教師が、算数ができない日本人を再生産している。深刻な問題だ。
 今、団塊世代のゆとり教育の見直しによって、教員採用者数が急増している。全国の小・中・高の公立学校の採用者数は、10年間で次のように増えた。
   2001年 約14,700人
   2011年 約26,000人
 このため、特に採用枠が地方に比べて大幅に増えた東京などの大都市圏では、
   「3つの角度が全部異なる二等辺三角形がある」
と誤ったことを生徒の前で平然と言ってのける教師も現れている。ゆとり教育をやめて教師を増やした結果、ゆとり教育を受けた学力の不十分な若者が教師になっている、という皮肉な現実があるのだ。

 (3)(2)のような話は教育現場に限ったことではない。企業の新人教育でも「数学力の弱い新人をどうするか」という問題が出ている。
 部下に数学がからっきしできない新人が入ってきたら、まずは数学検定3級(中学卒業レベル)に合格できるレベルを目標にして指導するとよい。半年くらいの学習でクリアできる。
 もしクリアできないようであれば、その人に大事な仕事を任せるのは危ない。
 数学力をつけると、職場やチームの力は目に見えて強くなる。だから、「英語より先に数学」なのだ。そうでないと、いくら英語ができても説得力が身につかない。説得力を身につけるには、数学のような論理力を鍛えることが欠かせない。

 (4)数学力と並んで「文章力」も、もう一つの重要な論理の力だ。
 <例>「起承転結」では困る。
 起承転結は、「書き出し→その続き→別のテーマ→もとのテーマ」という漢詩の構成法で、それを使って論文を書けば、何が幹線なのかよくわからないものができあがる。
 起承転結は、論文やビジネス文書では絶対に使ってはいけない。論理が破綻した文章になるからだ。
 ただ、上司に提出する文書などでは起承転結を盛り込んだほうが、相手が納得しやすい、という現実もある。この感覚は、海外の人には理解してもらえない。起承転結が通用するのは日本人だけだ。

□佐藤優「算数のできない人に仕事を任せるな/「ゆとり教師」の実態 ~社会人のための「役立つ教養講座」 第8回~」(「週刊現代」2016年5月7日・14日合併号)
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 【参考】
【佐藤優】屁理屈を見抜き、かつ、屁理屈を使いこなす ~役立つ教養⑦~
【佐藤優】「夢」を知ることは自分を知ることだ ~役立つ教養⑥~
【佐藤優】欧米のエリートと「イスラム国」の共通点 ~役立つ教養⑤~
【佐藤優】「独断専行」のすすめ/中間管理職心得 ~役立つ教養④~
【佐藤優】アレゴリーなど、インテリジェンスの技術 ~役立つ教養③~
【佐藤優】20世紀はドイツの時代、フランスにないもの ~役立つ教養②~ 
【佐藤優】金正恩の思考回路、なぜ水爆か ~役立つ教養①~


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