語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【心理】スマホで子どもの成績が低下 ~脳の発達~

2014年06月11日 | 心理

 (1)スマホをやり過ぎると子どもの成績が悪くなる。
 こんな調査結果が、いま教育関係者の間で注目されている。調査は、2013年度、仙台市教育委員会と東北大学加齢医学研究所が共同で行った。
 これまで、成績が悪い生徒は「スマホを長時間いじっていて勉強の時間がないから」と考えられてきた。ところが、まったく違う結果が見えてきた。つまり、家でちゃんと勉強している生徒でも、スマホを使う時間が長ければ、家で勉強しない生徒よりも学力が下がっている傾向が統計的に表れた。【川島隆太・東北大学教授】

 (2)<例>数学。
 1日1時間以上スマホを利用すると、成績が下がる。
  (a)平日に2時間以上家庭で勉強している層のグラフで比べると、
   ①スマホの利用時間が1時間未満の生徒・・・・平均点75点
   ②スマホの利用時間が4時間以上の生徒・・・・平均点57.7点(①より17.3点の差)
  (b)平日に30分未満家庭で勉強している層のグラフで比べると、
   ①スマホの利用時間が1時間未満の生徒・・・・平均点63.1点
   ②スマホの利用時間が4時間以上の生徒・・・・平均点47.8点(①より15.3点の差)
 つまり、2時間以上勉強してもスマホを4時間以上使っていると、勉強時間は30分未満だがスマホの利用時間が1時間未満の生徒することがの方が平均点が高い。
 この傾向は数学で最も顕著に表れたが、国語、理科、社会、英語の4教科でも同様の傾向が出ている。

 (3)この調査は、仙台市の市立中学生24,000人に対して行われた①「仙台市標準学力検査」と②「仙台市生活・学習状況調査」をもとに分析された。   
 前記調査は、いずれも毎年4月に行われる。
 ①は、前学年の学習内容が出題され、基礎知識と応用力を調べるテスト。中1は国語、数学、理科、社会の4教科。中2、中3は英語を加えた5教科が行われる。
 ②は、好きな授業に関する質問や学習意欲についての質問など、70問に答える内容だ。その中に、<ふだん(月曜日から金曜日)、一日当たりどれくらいの時間、携帯電話(スマートフォンも含む)でメールやネットゲームをしたり、インターネットを見たりしていますか>という質問がある。その答えと①の点数を分析した結果が、今回のグラフに表れたのだ。

 (4)勉強時間が長くてもスマホを長時間使うと成績が落ちるのはなぜか。
 スマホを使っている時の脳の働きを調べたデータがないのでまだ仮説の段階だが・・・・と断った上で、川島教授は考えを述べる。
  (a)テレビを見たりテレビゲームをしている時、脳の前頭前野は安静時以上に血液が下がり、働きが低下することが分かっている。
  (b)ゲームで長時間遊んだ後の30分から1時間ほどは前頭前野が麻痺したような状態となり、機能がなかなか回復しない。この状態で本を読んでも理解力が低下する、というデータもある。
  (c)テレビの長時間視聴を3年続けた5~18歳の子の脳をMRIで解析すると、前頭前野の思考や言語を司る部分の発達が、長時間視聴していない子に比べて悪くなる傾向がこれまでの研究で確認できている。
  (d)スマホを長時間利用することは、ゲームで遊んだりテレビを長時間視聴した後の脳と同じような状態になって、学習の効果が失われるのではないか、と考えられる。前頭前野の具体的な働きは、記憶する、学習する、行動を抑制する、将来の予測をする、コミュニケーションを円滑にするなど、人間ならではの心の動きを司っている。
  (e)今回の調査では生徒がスマホをどのように使っているのかまで調べていないが、ゲームやLINE、YouTubeで動画を視るなどの使い方も多く、勉強の調べもので使う機会は僅かだろう。だから、スマホの長時間利用が脳に与える影響は、これまでの脳の研究データが示すストーリー上にあると考えても外れていないと思われる。
  (f)一般的には、睡眠不足が学習の妨げになると考えられる。しかし、今回の調査では、睡眠時間に関係なく、寝ている子も寝ていない子も、スマホを長時間使っている子が点数を下げていた。現在これらの分析を学術論文にまとめており、今後、もう少し詳細な情報を伝えることができると思う。
  (g)グラフを見ると分かるが、スマホの利用時間が1時間未満と答えているグループの平均点は、スマホをまったく利用市内グループよりも点数が高い。恐らく、気分転換や息抜きの道具としてスマホを上手に使うことができれば、良い作用をもたらしているのではないか、と考えられる。だから、今回の教訓は、「スマホを使うな」ではなくて、「長時間利用のリスクを知った上で使うべき」ということだ。
  (h)ただし、子どもを取り巻くスマホの環境は決して良くない。中毒的にスマホをいじっている子どもたちの問題は、大人のギャンブル依存よりも深刻になりつつある。楽しいものや快楽を得られるものに弱いのが人間だ。今は小学生もスマホを持つ時代だ。それは子どもがパチンコ屋に公然と出入りすることを許されているようなものだ。子どもは簡単に依存状態に陥るのだから。
  (i)スマホを使いすぎると子どもの脳にどのような影響があるのか。この研究にあまり時間をかけていられない。いま、電車の中では大人もみなスマホをいじっている。窓の外の桜に気づいていないのでは、と思うほど画面しか見てない。最近では授乳中の赤ちゃんと目を合わせずにスマホをいじる母親も増えている。赤ちゃんは母親と目を合わせることで感情表現を学ぶと言われている。成長期に母親と目を合わせずに育ってしまえば、発達にも影響があると危惧される。
  (j)大人のこうした様子を見て子どももどんどんスマホ依存に陥っていく。今回の結果は、スマホの長時間利用の規制を真剣に考える時期にきていることを示唆しているのではないか。

 (5)仙台市教育委員会は、この結果を重視し、高校受験を控えた中3のために、昨年12月に中間報告として発表。また、今年4月にも、「中学生ニュース」と題したリーフレットを作成し、仙台市内の全市立中学校に配布した。
 川島教授らは、今年度も生徒への質問項目や調査対象者を増やして、引き続き研究を進める。

□記事「衝撃レポート 「スマホ1日1時間以上」で子供の成績が下がる! 中学生2万4千人調査が証明」(「週刊文春」2014年6月12日号)

     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン