よしなごと徒然草: まつしたヒロのブログ 

自転車XアウトドアX健康法Xなど綴る雑談メモ by 松下博宣

ランドナー系自転車に見るService-dominant Logic

2011年02月27日 | 自転車/アウトドア
以前、フランスの超ビンテージ自転車、エルスに接近遭遇したときに、こんなことを書いたことがありました。

「たぶんランドナーという自転車の世界の、衰退しつつあるひとつのカテゴリーの現象ではあるが、このような現象--イノベーションの脇で、しずかにビンテージのカテゴリーを楽しむ人々の存在--は静かに拡がりつつあるのではないか?茶器、楽器、道具、機械、古書などの世界で。とくに可処分所得が多い団塊世代のアッパー階層では、このようなビンテージ趣味が着実に進んでいることに間違いはあるまい。かれらは、機能と品質の消費者ではない。意味の所有者であり、経験の継承者であり、物語の伝承者なのである」

たしかに、自転車はproductです。鉄、軽合金、ゴム、革製品などの加工物の固まりです。メーカーや工房は、そうしたモノを創り、値段をつけてサイクリストに売ります。しかし、古き自転車を偏愛するサイクリストは、自転車をproduct(製品)としてではなく、豊穣な意味に満ちた経験サービス(experience service)を生み出す共創場(Co-creation field)の契機として捉えているように思えます。メーカーや工房はモノとしての自転車というよりむしろ、物語としての自転車を発注するサイクリストとともに共創(Co-create)します。

サービス研究者のSteve Vargo博士の言を借りれば、前者をproduct-dominant logic、後者をservice-dominant logicと呼べるでしょう。

2011年以降は、ランドナーという自転車の経験の継承者であり、物語の伝承者がランドナー系自転車のブームを創りだすこととなるでしょう。

それは先行指標としての出版に現れているようです。以下の本は、productとしての自転車に関する写真、記述を紙面一杯に満載しています。しかし、夥しいほどの写真、文章の背景にあるものは、お気に入りの素晴らしい自転車で旅をする、自然を楽しむ、仲間と語らう、薀蓄するといった非モノ的な高次元の楽しみ~サービス~といったものでしょう。



これは、「ニューサイクリング」の編集顧問をしている中堀剛さんによる本です。

「私が愛した自転車」の本ではなく、「私が愛した自転車パーツ」に関する一冊です。局部に対する偏愛、溺愛傾向は、最近の自転車ではなく、30年以上ツーリング系の自転車を楽しんできた方々に発症するある種の病のようなものです。

副題に「レトロサイクル必携」と記されているように、古い自転車(ロードレーサー、ランドナー、スポルティーフ、キャンピング)には様々な古い部品が取り付けられています。現代のように、コンポーネント仕様が主流でなかった頃は、いろいろな部品を組み合わせて、オンリーワンの自転車を、まるで一着のオーダーメードの背広を仕立てるように創り上げることができたのでした。

さて、このところ、古い自転車群のなかでも旅に特化した自転車類型、つまりランドナーがにわかに脚光を浴びています。

東叡社でも発注が相次ぎ、納品は8ヶ月以上待ちの状態です。そして、ランドナーなどを扱う本がにわかに出版され始めています。


「旅する自転車の作りかた」 (シクロツーリストブック) [単行本] グラフィック社 2011年1月

ランドナーをオーダーするときに必要な基本知識、ノウハウ、部品情報などが、たくさんの写真と平易な文章で綴られています。ランドナーというモノをオーダーするときのソフトな技術、つまり、service on productです。

表紙は、ランドナーの象徴として根強いファンを持つTAシクロツーリスト、ランドナーバーがいかにもという味わいを伝えています。


「シクロツーリスト Vol.1 旅と自転車」 [大型本] グラフィック社 2010年12月

表紙の女性のイメージとは違い、かなりマニアックな編集です。フランスから日本にランドナーを紹介、研究した鳥山新一博士(91歳)に果敢にインタビューしている記事が秀逸です。(p60~65)

「今ふたたびランドナーの時代」(p66~72)は最近のメーカー製ランドナーがきれいな写真とともに紹介されています。TOEIのあゆみ(p73~79)も、その道を志す方にとっては必読でしょう。


「パリの手作り自転車、アレックスサンジェ」 飛鳥新社 2011月1月

極めつけはこの一冊でしょう。アレックス・サンジェに凝りまくっている京都のI's Bicycleの土屋郁夫さんが著述・監修しています。ちなみに、このお店は、service-dominant logicで運営されている数少ない工房として注目に値します。

アレックス・サンジェはフランス最後の手作り自転車を世に供給する気品に満ちた工房です。

本書は、1940年代から現代に至るまでに丹念に創りこまれた45台の魔物自転車を、こともあろうに、大判オールカラーの流麗な写真で埋め尽くした資料集です。このほか、仏流フルオーダーメイドの自転車について/工房アレックス・サンジェの思い出/カタログ3種類/他エッセイ、特殊工作&アクセサリー解説など多数収録されています。


       ◇   ◇   ◇

自転車モノつくり、自転車・部品産業の栄枯盛衰をproduct-dominant logic、service-dominant logic、open service innovation(Chesbrough)の視点から分析してみると、面白い論文や本になると思います。

いつかは、そうしたものも書きたいのですが、今は本業の本や論文をかかなければなりません。とほほ。

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