英宰相ウィンストン・チャーチルからのメッセージ   

チャーチルの政治哲学や人生観を土台にし、幅広い分野の話を取り上げる。そして自説を述べる。

北方2島は返還されるのか 4島は無理?  「嘘つき」と識者から批判される安倍首相

2019年01月03日 21時20分12秒 | 東アジアと日本
 明けましておめでとうございます。間もなく1月4日。2019年はすでに3日が過ぎ去ろうとしている。私のブログを読んでくださっている読者の皆様は、どんな正月を過ごされたのだろうか。
 今日3日、私は県境を越えて車で1時間のところにある茨城県下妻市の和菓子屋を訪れた。この半年、暇なとき(退職者の私は年中、暇なのだが)に、近隣の古い町々を訪れ、老舗の和菓子屋、醤油の蔵元、麺業所の人びとと話してきた。
 私が会った人びとは皆、正直で、人情味が厚かった。また、私が青年時代にあった頃の日本人の商売人だった。私が何度も断ったが、遠くから来た(車で1時間)という理由だけで、手塩にかけてつくったうどん一束やまんじゅう1個をおまけしてくださった。「美味しかったらまた買いに来てください」というサインが見て取れた。「損をして得する」「人間関係を築いてから商売する」という日本人商人の美徳を垣間見た。悪く言えば、したたかさだろう。彼らは何にもまして正直な人びとだった。
 この正月にもうひとつしたことがある。それは作家で哲学者ニーチェの著作を解説している適菜収氏の著書「もう、きみには頼まない 安倍晋三への退場勧告」を読んだ。適菜氏は安倍晋三首相を批判する。あまりにも痛烈に批判するというか、罵倒する。私は安倍首相への「名誉毀損」を心配するが、その内容は的確であり、同調する部分が多い。その中でも安倍なる人物が「嘘つき」だと指摘する下りだ。
 適菜氏は、森友・加計問題をめぐる安倍首相の国会での「うそ」の答弁のほかに、北朝鮮問題、憲法改正をめぐる自衛隊の合憲についての発言には整合性がないと断言する。
 彼は「安倍が国会でついた嘘は枚挙にいとまがない。・・・発言の整合性が気にならないのかもしれないが、政治の劣化は取り返しのないところまできた」と批判する。「(安倍首相が)『北朝鮮との対話は意味がない』と述べておきながら、『私は北朝鮮との対話を否定したことは一度もありません』と発言。『私の世代が何をなし得るかを考えれば、自衛隊を合憲化することが使命ではないかと思う』と言ったかと思えば、『(自衛隊を)合憲化するということを私は申し上げたことはありません』。・・・・平気で嘘をつく。要するにデマゴーグである」
 適菜氏は18世紀から19世紀を生きたドイツの文豪ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテの著作「格言と反省」を引用し、「安倍を支持しているのは右翼でも保守でもない。『大勢順応のならずもの』と『同化された弱者』と『大衆』である」と切り捨てる。要するに安倍首相は、行動の基準や価値体系,社会体制の否定、あるいは破壊を志向するニヒリストだと話す。
 また、安倍首相は確かな証拠を持って出来事を論じる実証主義者ではなく、自分が欲するように世界を理解する「反知性主義者」だと語る。私も同感する。
さらに私が付け加えるならば、徹底した好奇心や懐疑心を抱き、イデオロギーの窓から出来事を観察するのを拒絶する、冷厳な現実を直視する保守主義者でない(日本のメディアは保守と右翼を混同している)。
 安倍首相は今月下旬にロシアを訪問し、プーチン大統領と会談する。20回以上ロシア大統領と会談した、と安倍首相は「自慢」するが、いつのまにか北方領土4島から2島返還に舵を切った。国民には「双方に受け入れ可能な解決策に至りたい。平和条約交渉の仕上げを行う決意だ」と語り、歯舞(はぼまい)群島、色丹(しこたん)島の2島先行返還を軸にする方針に転換した。
 一方、共同通信がロシア当局の内部文書を入手した(昨年12月30日夜配信)ところによれば、ロシアは2020年までに千島列島や北方領土に地対艦ミサイルを配備し、この地域全域の防衛線をつくる構想がある。
 ロシアの一連の行動やプーチン大統領の一連の話から考察すれば、ロシアが歯舞諸島、色丹島さえ返還したくないことは、高校生でも理解できる。
ロシア人は「力」を信奉する国民だ。第2次世界大戦での戦利品をなぜ返すのか、と疑問を抱き、プーチンに詰め寄るのは必定だ。色丹島にはロシア人が半世紀以上も住んでいる。ロシア人の大多数は北方4島が第2次世界大戦の結果として自国に帰属したとみている。
 これに対して国際法から判断すれば、日本がポツダムを宣言を受け入れ、無条件降伏した1945年8月15日以降に、旧ソ連軍(ロシア軍)が北方4島を不法占領した。1875年に日本とロシア帝国との間で国境を確定するために批准した千島・樺太交換条約を根拠にすれば、日本側の言い分は正当であり、日本固有の領土であることは明らかだ。
 ただ、現実は冷徹だ。現在、時は日本に不利に働いている。将来、時はますます不利に働くだろう。北方4島の旧島民はまもなく死に絶える。これに対して北方4島のロシア人の定住数はますます増えるだろう。国後、択捉両島は返還される確率はゼロ。色丹島の返還はほとんどないだろう。ロシア軍だけが駐留する歯舞諸島の返還も、時間がたてばたつほど、おぼつかなくなっていくだろう。
 いかに日本人が正論を唱えようと、現実は厳しい。「現実が諸君を見つめている。だから諸君も現実を見つめなければならない」と20世紀の宰相ウィンストン・チャーチルは述べていることを思い出すべきだ。こんなことを言えば、ネット右翼に睨まれるだろうが・・・。
 安倍首相は11月16日、豪州北部ダーウィンで記者会見し、歯舞・色丹2島”先行返還”に舵を切った。彼は、日ロ平和条約を締結後に2島が返還され、さらにその後に国後・択捉が日本へ帰ってくるとでも本当に思っているのだろうか。
 安倍首相がそう思わず、場当たり的な発言をしているのなら、「うそ」をついている。もしそうなら、言葉の重みをまったく感じていないことになる。また「自分が欲するように世界を理解」しているのなら5歳児だということになる。
 適菜氏は評論家の佐藤優氏の言葉を引用する。「安倍首相に国家戦略や安全保障、経済政策を求めるのは魚屋にアスパラガスを買いに行くのと一緒のように思えます」
 彼らの話が正しければ、安倍首相は右翼でも保守でもない「ぼんくら」ということになる。阿部首相は国民のニーズを一生懸命探る「マーケッティング」政治家だ。
 チャーチルを尊敬している安倍首相は英国の大宰相が持っていた「マグナニミティー(寛大な心)」がない。20世紀が生んだ偉大な宰相が心がけていた議論を好まない。
自分に「ヨイショ」する人間を大事にするが、そうでない人間を遠ざける。チャーチルが好きな安倍首相がチャーチルと真逆の行動を取る。皮肉以外の何ものでもない。
 安倍首相ばかりを批判するのは片手落ちだ。雄弁をもって国民を説得し、真面に議論できる政治家が与野党にほとんどいない。このことだけは確かだ。
 北方領土をめぐる今後の日ロ交渉は安倍首相の政治資質をあらためて考える機会になることだけは確かだと思う。

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