英宰相ウィンストン・チャーチルからのメッセージ   

チャーチルの政治哲学や人生観を土台にし、幅広い分野の話を取り上げる。そして自説を述べる。

GSOMIA破棄後の最悪時を想定して備えるべき 東アジアは19世紀末の情勢に戻るのか

2019年08月26日 12時02分40秒 | 東アジアと日本
   昨日しるした「韓国の日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄の地平線の彼方に何があるのか」で、私は最悪のシナリオを読者に示し、北朝鮮が韓国を併合し、東アジアの勢力図が塗り替えられるかもしれないと話した。
  最悪のシナリオを考慮しながら、私は「日本はどうすべきなのか」と読者に問いかけをした。
 この最悪シナリオの前提にあるのは文在寅大統領の対北朝鮮宥和政策の深化と米韓同盟の解消が前提になる。そして最悪シナリオがつくり出す東アジアの風景は、19世紀末の姿だと思う。ただ違うのは19世紀末のロシア帝国が中国に取って代わったことだ。
  米韓同盟の瓦解、米国の東アジアへのプレゼンスの弱体化、北朝鮮による韓国併合は、日本の安全保障の最前線が「38度線(南北の停戦ライン)」から「対馬海峡」に移ることを意味する。このことは明治政府が朝鮮半島を「日本の生命線」と認識した時代に逆戻りすることになるのだ。
  明治期の日本は、朝鮮半島全域が敵対勢力(清帝国とロシア帝国)の手に堕ちることを懸念したゆえにこそ、朝鮮半島への関与を深め、日清戦争、日露戦争という2度の対外戦役をへて、朝鮮半島を併合した。百数十年前の日本を悩ませた風景が再現されるかもしれない。
  1894~95年の日清戦争後、日本は最初から大韓帝国(当時、李氏朝鮮)を併合しようとしたのではない。
  1905年12月から1909年5月まで朝鮮半島を「保護国」として総監した、明治の元勲、伊藤博文の本国政府や政治家への書簡や韓国皇帝に進言した書類から理解できる。また1959年4月29日に朝鮮史を研究する会合で、日本人学生や在日韓国人学生を前に講演した、戦前の日本憲政史を代表する歴史学者の深谷博治・早稲田大学教授(1903~1975)の話にも出てくる。
  帝国主義列強が虎視眈々と朝鮮半島や中国を狙っている帝国主義時代に、伊藤は「朝鮮半島がその地形から日本の胴腹に突きつけられた短刀」だと認識し、もし帝国主義国家、この場合はロシア帝国、が朝鮮半島に勢力を伸ばしてくれば、日本の安全にとってゆゆしき事態になると確信した。
  伊藤は日本の存亡の危機が絶えず北から来ると信じ、満州(中国東北部)から武力南下しているロシア帝国が朝鮮半島を奪取すれば日本の滅亡は必至だと考えていた。しかし幕末から明治初期にかけて、西洋列強のアジア侵略で国が滅びる悲惨さを熟知していた伊藤は当初から韓国を併合することを考えてはいなかった。「朝鮮半島の併合後の植民地統治は余計な出費をし、朝鮮人の性格からしてやっかいだと考えた。だから朝鮮半島の自治を主張する。ただ、朝鮮の自治の条件として、常に日本と提携する形でなければならない」。
  故深谷氏は「あくまで日本の国益を考えて行動した」が、当時の弱肉強食の帝国主義の時代から判断すれば的外れではないと述べる。
  伊藤は韓国皇帝や支配階級の両班が日本政府に隠れてロシアに接近しようとするのを知ると彼らをなじり、彼らの前でこう吐露した。記録にこうある。
  「韓国の独立を最初に承認したのは日本である。朝鮮人の何人が、自ら韓国の独立を承認したであろうか。(事大主義に落ちいり中国の中華華夷秩序に甘んじてそれを誇りにしている)。そうでないと言うのなら聞きたい。日本はできるだけ、韓国を独立させようと欲してきた。けれども韓国はついに独立できなかった。・・・もし一衣帯水をへだてる韓国に外国が一指を染むるを許さんか、日本の独立を危うくする恐れがある。・・・けれども、日本は非文明的、非人道的な働きをしてまでも韓国を滅ぼさんと欲するものではない」
  伊藤は欧州列強の脅威を肌で感じた人物の一人だった。伊藤は若い頃の日本の苦難(幕末から明治初期)を知っていた。日本は必死に独立を守り、繁栄を築こうと頑張ってきたのに、なぜ韓国人はしないのかと思っただろう。
  韓国にとって昨日のロシア帝国は、今日の中国、北朝鮮であるのに、文在寅大統領と彼の一派は気付こうとしない。
  この国際情勢の変化の中で、日本は取り得る道を読者に考えてほしい。私見だが①韓国の反日態度に目をつむり、自由主義圏からの離脱を止めるように説得する②韓国の中国、北朝鮮、ロシア同盟網への移行を黙って見ている。
  前者の①は日本の安全保障を今まで通り38度線に置き、韓国を主導の朝鮮半島統一を助け、対馬海峡への後退を黙認しない「伊藤博文思考」だ。つまり朝鮮半島を緩衝地帯にし、日本の安全を守ることだ。しかし、日本人の冷却した対韓世論から、「そこまで日本がする必要があるのか」という意見が多数出てくるだろう。
  またGSOMIA破棄に失望している米国がこれから、対韓外交を変えてくるかもしれない。先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)初日の24日夜(日本時間25日午前)の外交安全保障に関する討議で、トランプ大統領は韓国の大統領を批判し、「「韓国の態度はひどい。賢くない。彼らは金正恩になめられている」と話したという。
  一方「2」は明治の元勲が最も恐れたことである。歴史の変化を踏まえても、伊藤の考え方が現在、無効だとは言い切れない。しかし日本人の大多数は安全保障上の最前線が「対馬海峡」に後退する事態が何を意味するかを理解していない。
  「2」が実現されれば、北朝鮮が韓国を飲み込み、新しい中国による中華圏が実現し、中国共産党の性格からして、米国を東アジアから駆逐し、日本に自分の勢力圏に引き入れようとするだろう。日本は独裁国家群と対峙することになる。
  私は「2」があまりにも日本の安全保障にとってリスクが大きいし、非現実的だと思う。しかし韓国の対日敵視政策からして、日本が韓国に直接働き掛け、説得することは不可能であり、逆効果だろう。
  日本は米国に米韓同盟の維持と対東アジアへの安全保障上の関与をこれからも説き続け、それが米国の国益だと言うことだ。トランプ大統領のような「安全保障とは何か」をまったく理解できない人物に対しても粘り強く語り続けることしかないと思う。そして米国を通じて、日本の意思を韓国に伝え、米国の意思をも伝達して、文政権に現在の厳しい東アジア情勢を説くしかない。また文大統領の「北朝鮮への融和政策」は大いなる思い違いだと悟らせるべきだ。
  それは東アジアの平和と安定、そして日本の安全にとって最も大切なことだ。韓国の文在寅大統領が北に媚びを振り続け、日本を蔑視し続けようとも、日本人は長期的な視野に立ち、米国の東アジア関与と日米同盟の重要性を明日、明後日においても米国に言い続ける。そして最悪のシナリオが万一、到来したときのことをも念頭に置きながら、冷静に長期戦略を練り、日本と東アジアの安全と平和を模索しなければならないと思う。

(写真)大韓帝国時代の伊藤博文と帝国皇太子、李垠(イ・ウン)。現在、当然だが、韓国では伊藤博文を韓国併合の張本人と見なし、教科書には大悪人として記載されている。

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