英宰相ウィンストン・チャーチルからのメッセージ   

チャーチルの政治哲学や人生観を土台にし、幅広い分野の話を取り上げる。そして自説を述べる。

自らの思いとは別の道をたどることがよくある 英国のEU離脱支持者の投票に思う

2016年06月25日 12時24分42秒 | 時事問題と歴史
  欧州連合(EU)からの離脱を問う国民投票が23日に行われ、離脱票が残留票をわずかに上回り、英国の脱退が決まった。離脱を受け、キャメロン首相は辞意を表明した。英国は底の見えない暗闇に飛び降りたと思う。
 1930年代、保守党の嫌われ者だったウィンストン・チャーチル議員(後の首相)はナチス・ドイツとアドルフ・ヒトラーへの宥和政策を支持して保守党幹部を批判し、「素晴らしいカーペットの上を歩いていると、いつのまにかカーペットが擦り切れているのに気づき、階段を降りていくとその先に深い闇がひろがっている」と警告した。現在の英国民も同じ状況だろう。
 離脱支持者は東欧などからの移民が自分の職を奪っていると考え、この一点から英国の離脱を支持した。ベルギーのブリュッセルに本部があるEUのエリート主導の政治・経済政策から“独立”を取り戻し、再び職にありつけると考えたようだ。
 古今東西を問わず大衆は目の前の危機や困難に目を奪われ、長期的な展望に立ったソロバン勘定ができない傾向が強い。目に見えている景色の背にある真実を理解することも、予測することもできない。フォーサイト(Foresight)ができなのだ。ポピュリズムの宿命である。
 日本経済団体連合会(経団連)会長の榊原定征氏が昨日、ニュース番組で「英国には1000社以上の日系企業があり、投資残高は10兆円規模。英国を拠点として欧州大陸と商売をしている。英国の離脱で関税が敷かれ、英国を拠点とする意味やメリットがなくなる」。榊原氏は日系企業が英国を去る可能性を示唆した。
 筆者は経済の専門家ではない。市井の人間として長期的な観点から考えれば、離脱派の思惑と違ってますます失業者が増大するだろう。日本企業だけでなく、中国や米国などの企業も英国から欧州大陸へと拠点を移していく可能性が高い。
  今や政治的にも英国の将来は不透明だ。英国は正式には、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドからなる英連合王国。そのうちスコットランドではEU 残留支持者が62%、離脱支持者が38%で、過半数のスコットランド人がEU残留を希望した。英国全体では離脱支持者が52%で、残留支持者が48%。
 このため、英紙ガーディアンによると、スコットランドのスタージョン行政府首相は24日、同地域の投票では欧州連合(EU)残留が多数を占めたことを受け、「民主的な観点から、われわれは国民投票を受け入れることはできない。再度、独立の是非を問う立法措置(国民投票)の準備を始める」と述べ、EUに残留するため英国からの独立を求める意向を示唆した。
 英連合王国は、沈静化したとはいえ北アイルランド問題も抱えている。そしてスコットランド問題。将来英連合王国は空中分解し、12~13世紀のような独立した王国がブリテン島に出現する可能性がある。もしそうなれば英国(イングランド人)が長年築き上げてきた欧州大陸に対する、世界に対する政治的な影響力は一段と低下するだろう。
  歴史は変化する、と名誉革命の指導者、初代ハリファクス侯爵が述べた。よく言ったものだ。19世紀に7つの海洋を支配した英帝国は現在、すでになく、イングランド人の経済・政治的発言力は低下する一方だ。
 21世紀に入り、「エリート主導、理念先行」の欧州連合と、それに伴う加盟国の主権制限に反対する右派グループがドイツ、フランスなどで活動している。その活動は日々、強まっている。マリーヌ・ル・ペン党首に率いられたフランスの国民戦線、ドイツの国民民主党などだ。
 欧州の極右諸政党が政権を握れば主権を主張し、欧州連合自体の存在が危うくなる。そのとき、かつてのように、英国が勢力均衡のバランサーとして欧州に影響力を及ぼすことはない。
 英国のEU離脱は欧州大陸諸国の右派政党を勢いづかせ、19世紀から20世紀前半の欧州大陸に逆戻りするかもしれない。その時、バランサーとしてかつて君臨した英国はどこにもいない。欧州は動乱といわないまでも不安定になるだろう。
 英国民、とりわけEU離脱支持者は10年後に自らの選択を後悔するだろう。EU側にも域内の国民の民意を十分にくんでこなかった失敗がある。離脱支持者はそれを離脱という形で反意を表明し、漸進的な改革の道を選ばなかった。
  20世紀に英国を代表するケンブリッジ大学の歴史学者ハーバート・バターフィールド教授は「歴史の歯車は当初思っていたのとは違う方向に進むことがよくある」と語った。目標を抱いて始めた事業や思惑は、将来考えてもみなかったゴールに行き着くということだ。離脱支持者は将来、この言葉を噛みしめるだろう。

この記事についてブログを書く
« 人間の資質で大切な「勇気」... | トップ | リスクを恐れず勇気を示せ ... »

時事問題と歴史」カテゴリの最新記事