英宰相ウィンストン・チャーチルからのメッセージ   

チャーチルの政治哲学や人生観を土台にし、幅広い分野の話を取り上げる。そして自説を述べる。

安保関連法と中国の民族主義者と共産党政府に思う 

2015年09月20日 12時45分35秒 | 日中関係
 昨日に続いて安保関連法について、中国共産党の見解と、それに対する意見を述べたい。中国共産党政府と民族主義者は日本の安保法成立をめぐる日本世論の対立をどう見ているのか。
 中国政府系シンクタンクに所属する日本問題専門家は、「9月3日の北京での軍事パレードに招待されたにもかかわらず、安倍晋三首相は来なかった。その直後に中国の国民感情を刺激する安保関連法を強引に成立させたことで、中日関係の回復は当分難しいだろう」と分析した。
 中国の官製メディアは安保法成立まで、「戦争準備のための法案」「日本が南シナ海に介入するための法案」と警戒していた。
 中国外務省の洪磊副報道局長も18日、「戦後日本の軍事・安全保障分野でかつてない行動だ」と警戒を呼び掛ける談話を発表。「日本は軍事力を強化し、専守防衛政策を放棄するのではとの国際社会の疑念を引き起こしている。日本に国内外の正義の叫び声を聞き、歴史の教訓をくみ取るよう促す」と述べ、歴史問題と絡めて日本を批判した。
 中国国営通信、新華社(英語版)は19日未明、安全保障関連法の成立を「日本は戦後の平和主義を破棄した」と速報した。これに先立ち「日本が戦後国際秩序に挑戦していると思うのは理にかなっている」との論評も配信した。
 英国のリベラル紙「ガーディアン」によれば、中国外務省は「われわれは安保法反対デモに参加した人々に共感する。日本政府は内外の正義の訴えに耳を傾けるべきだ。歴史の教訓を学び、平和的発展の道を堅持すべきだ」と発表した。
 中国政府と官制メディアは日本へのけん制と、中国国民への「日本に対して警戒心を抱き続けよ」というメッセージを伝えることで、共産党統治を正当化することにあると思う。
 毎年雪だるま式に膨れ上がる中国の軍事費は増大し、南シナ海の岩礁に軍事基地が建設された。東シナ海でのガス田の一方的な開発もある。またガス田をレーダーサイトにも使うとの情報がもたらされている。これらの事象は安保関連法成立に対する中国政府の批判との大きな矛盾を露呈する。
 中国政府とって自国の国益と今後のアジア・太平洋政策に利することに対しては「共感」と表明し、利さないことに対しては「反対」を叫んでいる。
 中国政府が安保関連法の反対デモに「共感」を表明しているのはあくまで中国の長期戦略に沿っているからだ。そして安保法をめぐる日本世論の対立を日本の弱さと判断するだろう。それを共産党の維持に生かすだろう。
 確かに安保関連法をめぐる対立は中国に隙を与えた。しかしそれは短期的なことである。民主主義国家と国民が対立を乗り越えて一致団結した時、民主主義制度の強さは最強の武器になる。
 古今東西を問わず、独裁国家はその形態がどうであれ、民主主義制度を「弱さ」と判断するか、「自国の人々には合わない制度」だと断言してその制度を忌み嫌う。ドイツの独裁者ヒトラーも、イタリアのファシストのムソリーニにも、旧ソ連のスターリンも、中国共産党政府も、独裁の中味は違っていても、ものの見方は同じである。
 これに対して、民主主義制度を固く信じたチャーチル首相は1940年夏、ナチス・ドイツにより存亡の危機にあった英国民の心意気を「第二次世界大戦回顧録」で、こう表現している。
「(軍需工場の)職工は熟練工も非熟練工も、男も女も、あたかも活動中の砲台であるかのように、鉄火の下で旋盤を離れず、工場を運転した。否、否、彼らは活動中の砲台そのものであったのだ」
 1930年代のヒトラーへの見方で世論が分裂した暁の団結であり、チャーチル首相の回顧録の中に「鋼の民主主義」を見ることができる。英国民がナチスという民主主義を否定する勢力に勝利した源を見つめることができるのである。
 産経新聞に9月15日に寄稿した京都大学名誉教授の中西輝政氏は「現代の世界では、国民の安全を守るための最も重要な手段は依然として軍事力をはじめとする国家のもつ力(パワー)に依存せざるを得ず、今のところその各国家の力を互いに均衡させることによってしか平和は保てない」と述べている。
 中西氏の見解に一部分は同調するが、日本を守ることができる手段は軍事力だけではない。軍事力、外交能力、世論の団結が三位一体になった時に、日本の安全はより確かなものなる。
  独裁国の中国には強大な軍事力や巧みな外交力はあっても、民主主義に基づく世論はないし、形成されない。たとえ偏狭な民族主義や熱に浮かされた国民主義が横行していても、それは一時的なことであり、共産党の衰退とともに消えてなくなる。
  このことは、かつて軍国主義にり患した日本人が一番理解している。安倍首相と与野党の政治指導者、与野党の政治家は、習近平を頭とする中国共産党幹部が決して理解できない民主主義制度の強さを信じ、安保関連法を再度国民とともに議論し、アジアの平和と安定に資してほしい。