英宰相ウィンストン・チャーチルからのメッセージ   

チャーチルの政治哲学や人生観を土台にし、幅広い分野の話を取り上げる。そして自説を述べる。

民主選挙を求める香港の学生をめぐる中英の対立に思う

2014年12月05日 12時36分38秒 | 民主主義とポピュリズム
 香港特別行政区行政長官の民主主義選挙をめぐって、自由選挙を求める香港学生を支持する英国政府と、それに反対する中国政府の対立が先鋭化している。この対立から浮かびあがる中国共産党の考え方と中国人の国民性を、われわれ日本人は理解しなければならない。われわれは中英の対立を日中政策に生かさなければならない。
中国共産党の機関紙「人民日報」の日本語版が12月4日午後4時28分、次のようなコメントを掲載した。見出しは「英国は植民地主義の考え方を捨てよ」
 まずこの抜粋を掲載する。

 
 香港特別行政区の一部の人間が始めたいわゆる「セントラル占拠」により、社会秩序が乱れ、現地の経済や人々の生活に影響が及んでいる。中国は今、問題を解決し、損失を減らし、できるだけ早く香港の安定を取り戻すため努力しているが、英国などの外部勢力は問題を煽り立て、もめ事を大きくしようとしている。(文:華益声・国際問題専門家。人民日報海外版コラム「望海楼」掲載)
 英下院外交委員会はこのほど、香港情勢の調査のため、議員団を派遣することを決定した。中国はこれに断固として反対、計画を取りやめるよう求めたが、英国側は訪問調査の考えを固持している。英下院はこのほど、中国が調査団の香港入りを拒否したことについて審議を行い、「中英共同声明の調印国である英国は、返還後の香港に対して今も責任を持つ」と言い出す人まで出てきた。
 英国は、いくつかの重要な事実を忘れてしまったようだ。
(1)香港の主権は中国に属する。
 英国は良くわかっているはずだが、英国の香港統治は実質上「強制占領」であった。歴史は嘘はつかない。香港は古来より中国の領土だった。英国は侵略戦争を起こし、清朝政府に不平等条約を強要し、香港島、九龍、新界を含む香港地区を徐々に占領した。その後、英国は香港で殖民統治を行った。
 主権は極めて重要であり、香港返還の核心は主権の返還だ。「中英共同声明」の第一条に明確に規定されているが、中華人民共和国は1997年7月1日をもって香港の主権を回復した。「中英共同声明」を持ち出して英国が香港に対し「道義的責任」を持つなどと言う人は、まさに論理が矛盾している。・・・
(2)民主主義かどうかは、英国が決めることではない。
 英国は「民主主義」と「自由」を旗印に香港問題に干渉しようとしている。英国のキャメロン首相は議会で質問に答え、「中英共同声明は、香港人は言論、出版、集会、結社、旅行、ストライキなどの自由を有すると規定している。英国は香港人の権利を支持するべきだ」と述べた。
しかし、実際のところ、香港人が有している権利は、全ての中国人が有する権利でもある。中国の憲法でも、上述の自由が明確に規定されている。重要なのは、どんなことでも、民主主義・自由を言い訳に、法律に背いてはならないという点だ。・・・
(3)中英関係の大局を維持するためには、実際の行動が必要。
 英国のキャメロン首相は2012年、ダライ・ラマと会談し、中英関係を損なった。中国は英国に対し、いかなる国も中国の内政に干渉してはならないという明確なシグナルを伝えている。・・・他国の内政に干渉し、西洋の価値観やイデオロギーを他国に強要し、2国間関係で好き勝手に振舞うといったやり方は、植民地主義の悪しき考え方の名残だ。今の世界において、国家間は平等、相互尊重を重視している。英国よ、時代に逆らう行いを止めよ。(編集SN)


 読者は人民日報をどう解釈するだろうか。確かに英国はアヘン戦争(1839-41)の勝利により、中国から香港を奪った。ただ、中国共産党政府は都合の良いように解釈している。筆者はそう考える。英国政府は、当時の中英の最高権力者の鄧小平とサッチャー女史が1984年に結んだ中英協定の履行を求め、協定の内容にそって履行されているかを調べたいと発言しているにすぎない。
 1997年に英国から中国に返還された香港は1997年以降50年間、民主主義社会を保障された。鄧小平も保障した。英国政府は、民主主義的な手続きによる長官選挙を要求している学生に、中国政府が不当な圧力が加えていることを憂慮している。少なくとも50年間、香港での民主主義社会を保障した協定が十分に守られていないことを危惧し、調査団を派遣しようとした。中国政府はこの派遣を拒絶した。
 筆者に言わせれば、それは条約を履行しているかどうかを調査する英国政府と議会の当然の権利だろう。内政干渉ではない。あくまで条約履行の一環としての調査だ。
 英議会外交委員会議長のリチャード・オタウェー下院議員は駐英中国大使から手紙を受け取ったという。その内容について同氏は「わたしに伝えられた中国政府の議論の核心(11月28日)は、中英協定の無効について述べている。現在、協定は無効だという。協定がカバーしている内容は1984年から1997年までである、と大使は力説している」と話した。オタウェー議員は中国を批判し、「香港の政治制度は50年間、変化なしと協定に規定していることは一体何なのか。あまりに無責任だ」と語った。
 英紙テレグラフによると、キャメロン首相の報道官は1日、中国側の拒否は「懸念を打ち消すどころか、募らせるだけだ」と指摘した。また中国側の対応は「非生産的」だとして遺憾を表明した。
 13世紀のエドワード1世前後の時代から、また1215年6月のマグナカルタ大憲章成立から800年にわたって営々と法治国家を築き上げてきた英国人から見れば中国人は「無責任」だ。
 中国人の法の概念はあくまで為政者を助けるだけにあるということだ。鎌倉幕府の執権、北条泰時公が御成敗式目を制定した時、弟の重時に「この法律の前に統治者も非統治者も平等である」と語った法の精神をいくら中国人に説いても無駄である。
 彼らの5000年の歴史は、一君万民。“偉大”で“賢明”な皇帝の下で皆が幸せになれる。孔子もそう説いている。しかし歴史を通じて、そのような立派な皇帝が中国を支配したことはほとんどない。中国人はよくそのことを知っている。習や共産党幹部は、共産党の指示に従えば皆幸せになれると考えている。心の奥底は知らないが(多分そうは思っていないだろう)、公言している。だから中国の大衆は昔から誰一人として権力者、支配者を信じてこなかった。信じるものは親戚、親族などの身内だけだ。身内の中の互助精神こそが中国社会では大切なことだ。裏を返せば、身内以外は誰も信じない。何をしても許される、ということになる。
 私は駐英中国大使の「無効」という発言には少々驚いた。中国人の法軽視は長い伝統に培われたものだとは理解していたが、それでも驚いた。中国共産党の法律観が現在の世界の常識からかけ離れているということだ。
 英国人は地政学的に中国から遠い国に住んでいる。彼らと交わる度合いは低い。これに対して日本人はそうはいかない。隣の“変な人間”(われわれ日本人から眺めればの話、われわれの価値観)とつき合わなければならない。価値観も思想もまったく違う隣人とどう付き合うか。われわれはじっくりと考えなければならない。ただ少なくとも言えることは、多くの中国人、中国政府や中国共産党と交わる時は、相手を疑うことだ。そして相手は法律を守らない、力関係を重視する、と理解してから話し合うことだろう。
 中国人とわれわれ日本人の価値観が違っているからと言って、怒ってはならない。日本人の欠点は、筆者の偏見と独断かもしれないが、相手を信じ込みやすい、自分の見解や親切な行動を相手は好意的にとってくれると思い込むことだ。法を重んじ、約束を厳格に守る伝統をもった国の人々ならそれでも通じる。ただ東シナ海を越えた政府と多くの人々には通じない。香港をめぐる中英の対立から、私はそう確信する。