英宰相ウィンストン・チャーチルからのメッセージ   

チャーチルの政治哲学や人生観を土台にし、幅広い分野の話を取り上げる。そして自説を述べる。

中国は欧米主導の国際秩序にとって代わることができるのか?       独裁と覇権の矛盾

2014年12月01日 22時26分47秒 | 時事問題と歴史
 1日付朝日新聞の7面にベタ記事「欧米主導の秩序 中国が変革意欲」に目が留まった。とるに足らない記事なのかもしれないが、筆者には興味深い記事だった。「習近平指導部は発足後初の「中央外事工作会議」を(11月)28、29日の両日に北京で開き、共産党や政府、軍の幹部が集まった。この中で習は「国際秩序をめぐる争いの長期性を十分に見通し、国際システムの変革が避けられないことを認識せよ」と強調。周辺外交や大国外交、発展途上国外交を駆使して「わが国と発展途上国の発言力を向上させる」と述べたという。そして尖閣諸島や南シナ海での「領土と島々を巡る争い」について「原則的な立場を守りつつ、武力衝突などの事態を避ける外交努力の必要性をにじませた」。
 習総書記の発言の中に、戦わずして中国の戦略目標を達成することが示されている。この目標達成は代を継いで半世紀から100年ぐらいかけるのだろう。中国人の戦略思考を垣間見る。
  いつの世紀も、「持たざる国」は「持つ国」に挑戦する。16世紀はスペインがポルトガルに、17世紀はオランダがスペインに、18世紀はフランスがオランダに、19世紀はフランスにとって代わって大英帝国の時代だった。20世紀はドイツが英帝国に挑戦し敗れ、米国が英国に代わって世界の覇者になった。米国はソ連の挑戦を受け、ソ連は消えていった。そして21世紀になり、中国が米国に挑み始めている。「挑戦する側」はいつも覇者の国際システムと秩序を壊して、自らのシステムをつくろうと躍起になる。
 中国も例外ではない。固有の戦略思想と一君万民主義を持つ中国人は果たして世界の主人になり得るのか。5千年の歴史に裏打ちされた権謀術数、巧みな外交、戦わずして勝つ孫子の戦略思想などは中国人をしたたかな人間に仕立て上げてきた。しかし統治に必要な「公」と「法」の概念がない。19世紀と20世紀の世界を牛耳つてきた英国と米国は法秩序と民主主義と自由の理念、それに自由経済を下敷きにして、他国を間接支配した。
 19世紀から20世紀にかけて、世界に挑戦したドイツ帝国、ナチスドイツやソ連は、権威的な皇帝主義国家か、独裁国家だった。中国は確かに経済は資本主義に変化した。しかし政治は共産主義の一党独裁。この二つの制度の矛盾は日々大きくなっている。官僚の腐敗は目を覆いたくなるほどの酷さだ。貧富の差はますます著しくなっている。巨万の富をもった国家官僚資本家がいるかと思えば、家に便所もない極貧の人々もいる。一方、ウィグル族らの民族独立運動は日に日に勢いを増し、消えることはない。香港や台湾の人々の中国共産党への抵抗は今後次第に大きくなるだろう。
 習総書記が描く、中国を中心とした世界秩序が到来する前に、中国共産党が崩壊する現実は十分にある。中国はあまりにも大きい。統治は難しい。習のいうように民主主義は中国に向かないのかもしれない。しかし世界の趨勢は自由と民主主義に分があるように思える。この制度は、ある意味では即座に決定できない最悪の制度かもしれないが、人類がつくり出した制度のうちで最良だと思う。第2次世界大戦の英国の指導者ウィンストン・チャーチル首相もそのようなことを述べていた。
 中国の歴史は専制帝朝をめぐる興亡だった。野望を抱いた人物が支配者を倒し、新しい権力を打ち立てる繰り返しだった。「易姓革命」と歴史家はいう。中国共産党も、気の遠くなる中国史の中で、ひとつの帝朝である。
  中国共産党と中国が世界のリーダーになる道は遠い。多分、中国は永遠であっても、共産党は一時の栄華を謳歌しているのかもしれない。習総書記の「夢」は「夢」で終わると強く思う。共産党が政治の民主化を断行しないかぎり、中国の「夢」の実現はないだろう。中国が民主主義国になっても、政府を信じず、家族・親戚との絆に頼る中国人がその制度を定着させるには数百年かかるだろう。日本のような国でさえほんとうの民主主義国家どうかは疑わしいのだから。
 また、中国が世界を牛耳ろうとすれば、現在の共産党による「皇帝政治」に世界は抵抗するに違いない。フィリピン人、ベトナム人をはじめアジアの民族は中国のやり方に抵抗し始めている。朝日新聞のベタ記事は筆者に習総書記の描く壮大な夢と、その夢に潜む大きな矛盾を想起させている。

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