英宰相ウィンストン・チャーチルからのメッセージ   

チャーチルの政治哲学や人生観を土台にし、幅広い分野の話を取り上げる。そして自説を述べる。

東アジアの地図は塗り替えられるのか 韓国のGSOMIA破棄の地平線の彼方に何があるのか

2019年08月24日 22時35分32秒 | 東アジアと日本
  韓国の文在寅政権による日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄はブーメランのように日韓の安全保障と防衛に負のスパイラルとなって返ってくるのだろうか?文大統領によるGSOMIA破棄は、長期的な観点に立てば、韓国の自殺行為なのか。また日本の防衛にとっても、短期的には北朝鮮ミサイル発射に対する情報分析に大きな支障がないとしても、長期的な観点から、安保・防衛上の危機を招くのだろうか。
 この私の質問に、米国の元国家安全保障会議アジア上級部長で、東アジアの専門家ダニエル・ラッセル氏が間接的な答えを出している。彼は米国の大手調査機関ネルソン・リポートにこう話した。
 「北朝鮮の核やミサイル開発技術が急速な進歩を遂げている時に、GSOMIAの破棄は米国の安全保障にまともに打撃を与えている。中国の軍事能力の向上が前代未聞の脅威を米国に与え、世界最強の米国に挑戦しているときに、米国と同盟国は大打撃を受けている」
  GSOMIAの破棄で北朝鮮の金正恩委員長はほくそ笑んでいよう。また商売のことしか頭にないドナルド・トランプ氏が超大国の大統領に就任していることも、金委員長にとってはラッキーだ。 
  トランプ大統領は、この数ヶ月にわたって行われている北朝鮮のミサイル発射に対して米国と同盟国の危機だとはまったく思っていないようだ。
 トランプ米大統領は23日夜、北朝鮮が短距離弾道ミサイルとみられる飛翔体を発射したことに関し、「(北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は)ミサイル実験が好きだ。米朝は短距離ミサイルの(発射)制限で合意したことはない」と述べ、これまで通り問題視しない考えを改めて表明した。
 東アジアの悲劇は、トランプ大統領が来年行われる大統領選挙で再選されることにしか興味がないからだ。再選のためには安全保障と国防問題をも利用しようとする。
  一方、韓国の文大統領も、来年の総選挙で与党「共に民主党」の勝利を求め、支持者である左派にこびを売るため、GSOMIAを破棄したとの声が韓国内から出ている。

  ●長期左派政権を確立し、野党を葬り去ろうと画策する文大統領
  複数の韓国有力紙は、韓国の大統領の任期は5年で、憲法が再選を禁じているため、文大統領は最側近のチョ・グク氏を次の大統領候補にして左派の長期政権存続を図り、南北経済協力と反日、2045年に南北統一実現の夢を描いているという。
  チョ・クグ氏は法務大臣に内定されており、その目的は、文大統領が彼を使って、日韓米同盟を重視し、北朝鮮と対峙することを主張する現実主義者の野党幹部や有力者の「アラ」を探し出し、彼らを法廷に引きずり出して葬り去ろうとしているという。しかしチョ・グク氏は娘の大学不正入学疑惑で韓国民から批判されている。
 米中の“貿易戦争”は関税引き上げ応酬を引き起こし、報復の連鎖が止まらない状態だ。また中国は韓国によるGSOMIAの破棄に対して歓迎する姿勢をにじませている。

 ●現実無視の理念主義者の文大統領が韓国民を塗炭の苦しみに突き落とそうとしている
 中国外務省は23日の記者会見で「軍事協力の展開や中止は主権国家の自主的な権利だ」と述べ、GSOMIAの破棄を決めた韓国政府を擁護する姿勢を見せた。
 米国の東アジアへの影響力の低下を狙っている中国にとって、日韓の紛争は日米韓同盟分断のまたとない好機だ。
 トランプ米大統領は米国が民主主義同盟国の献身的な協力によって世界の覇者となり、民主主義の守護者となってきたことを理解しない。「金委員長は大好きで、彼と良好な関係を維持している」と理解しがたい言葉を発している。
 韓国の文大統領と米国のトランプ大統領の見当違いの政策が、北朝鮮の核と短距離ミサイルの性能を飛躍的に向上させ、その悪魔の武器を使って韓国民を飲み込むとは誰が知るのだろうか。北朝鮮による朝鮮半島統一は、東アジアでの米国の影響力を弱め、中国の夢である東アジアの覇権掌握を実現する引き金を引くことになるだろう。そのとき日本はどうするのだろうか。
 独善的な理念主義に凝り固まった文政権の日韓GSOMIA破棄と、元徴用工問題など、繰り返される文政権の不合理な言行に堪忍袋の緒が切れて青瓦台との話し合いを無視した日本の安倍政権の政策のツケが、東アジアの勢力図を塗り替え、朝鮮半島の勢力均衡を崩さないことを願わずにはいられない。

 (写真)24日朝、北朝鮮から発射された新型短距離ミサイル

儒教が将来、韓国人を存亡の危機に陥れる  北朝鮮のミサイル発射から読む

2019年08月17日 19時59分15秒 | 東アジアと日本
  「われわれの力で分断を乗り越え、平和と統一へ進む道こそ、責任ある経済大国への近道になります。われわれが日本を追い越す道であり、日本を東アジア協力の秩序へと導く道です」

   ● 韓国人は朱子学からの強固な理念主義
  これは、光復節記念式での文大統領演説全文の一部だ。この一文に文在寅大統領の理念と理想が凝縮されている。私はそう思う。
  この理念と理想の前提にあるのが韓国を支配している儒教で、とりわけ李氏朝鮮(1392~1910)の支配者階級が持っていた儒教の流れを組む朱子学だ。この思想は現在まで、営々と韓国民や北朝鮮人の道徳と支配理念の中核として脈打ってきた。
  私はこのほど出版された拓殖大学教授の呉善花さんの著書「韓国を蝕む儒教の怨念」で、韓国人の精神構造を再認識した。約20年前、崔基鎬氏の「韓国 堕落の2000年史」を読んで朝鮮半島の人々が朱子学によって精神的に支配されていることを理解していたからだ。
  呉さんは著書で、韓国人の考え方は朱子学の強固な理念主義に由来すると述べている。「韓国人は『絶対的な正しさ』を大前提にして物事の『あるべき姿』を描き出し、個々の事象を判断し結論を導いていこうとします。ここでの『絶対的な正しさ』は韓国社会ではあえて客観的な根拠を問う必要もなく通用している、「(理念的な)いうまでもない常識であり『ごく一般的な考え』にほかなりません。韓国人がしばしば、客観的な証拠もなしに『自分の考えは間違っていない』と頑強に主張するのは、こうした思考方法があるからです」
  どんな理念的な思考であっても客観性はない。客観的な理念と言えば、冷笑されるだろう。客観性を担保するデータなどで思想を計算できはしないからだ。
  朱子学的理念に頭のてっぺんから足先まで縛られていると思われる文在寅大統領や彼を支持する人々は、「慰安婦」「元徴用工」問題や「かつての日本による朝鮮半島の植民地支配」は朱子学の理念上、永遠に「絶対悪」であるのだ。現代社会の判断基準は「法による支配」を礎にしているが、文氏らにとっては朱子学に由来する道徳は法を超えたものなのだろうか。たぶん、そんな意識はなく、当然なこととして受け入れられているのだろう。
  日本人も儒教的な道徳を尊重する。しかし、それは絶対的な理念ではない。第一に優先せず、人間関係を優先する。だから日本人は「うそも方便」と言うのではないのか。道徳上、言わなければならないが、人間関係を優先するため、相手が落胆し、心を傷つけることを言うのを避け、当たり障りのない「うそ」をつく。
  韓国人は朱子学で唱えられた「絶対道徳」を基準にして、他人の“間違い”を指摘する。自らが信じる“正義”を振りかざす。一方、他人には自らが「絶対道徳」を忠実に守っていると公言する。ごく普通の韓国人(間違いをする人間)は他人に詐欺的行為をしていても、自らの潔白を証明するためにうそをつく。つまり「他人を思いやるうそ」ではなく「自らを守らんがための利己的なうそ」ということになる。呉さんの書籍を読むとそう解釈できる。

● 絶対正義を掲げる文大統領
  文大統領の言葉「日本を東アジア協力の秩序へと導く道です」は「自己の絶対的な正しさ」を表している。だからこそ、韓国の大統領は「導く」という発言をする。「絶対的な正義や正しさ」を固持している人物から疑問は生まれない。「なぜ、日本は韓国を植民地にしたのか」という疑問は生まれない。「絶対正義」の中には「なぜ」はどうでもよいことになる。この主観的な絶対正義は朱子学の「こうあるべきだ」という理念から来ているのだ。
  また「われわれの力で分断を乗り越え、平和と統一へ進む道こそ、責任ある経済大国への近道となります」との文大統領の言葉も“正しい”「絶対的な理念」である。しかし理念と現実の世界は99%相違する。長い歴史の事実はわれわれにこのことを教えている。
  文大統領の「平和統一」という絶対理念が北朝鮮の金正恩委員長の野望を、皮肉にも後押ししている。そう考えるのは私だけだろうか。

● 北朝鮮主導の統一狙う金委員長
  北朝鮮の国営メディアは金正恩委員長の立ち会いのもと、昨日の16日、新たな飛翔体兵器(ミサイル)の発射実験を再び実施したと発表した。北朝鮮は先月25日からこの3週間余りで6回飛翔体発射を繰り返していている。
  日本のメディアは、北朝鮮の飛翔体発射は今月20日までの予定で行われている米韓合同軍事演習をけん制する狙いがあると報じている。確かに、直近の狙いはそうだろうが、それだけなのだろうか。
  文大統領の「光復節」での演説を受け、北朝鮮の対韓国の窓口機関「祖国平和統一委員会」の報道官は16日の談話で、「米韓合同軍事演習の最中に対話を語る人の思考が健全であるのか疑わしい。本当にまれに見るずうずうしい人だ」と激しく非難。文大統領の光復節演説での朝鮮半島の平和への訴えを取り上げ、「話すこともないし、再び対話する考えもない」と痛烈に批判した。
  文大統領がこの演説で掲げる2032年のソウルー平壌共同五輪開催と2045年の光復100周年までの南北平和統一の約束をあざ笑う形だ。
  北朝鮮の金委員長は韓国の経済主導の統一を口をくわえて座視することはない。北朝鮮の短距離ミサイルの連続発射から十分に理解できる。またそれは金委員長の野望を映し出している。金委員長の最終目的は北朝鮮による朝鮮半島の統一と金氏による父権血統世襲体制の永続だ。
  北朝鮮の短距離ミサイル発射に対するトランプ米大統領の事実上の是認により、北はこれからも短距離ミサイル実験を実施し、その精度を上げていくだろう。短距離ミサイルは米国には届かないが韓国には確実に届く。
  金委員長はトランプ米大統領から北朝鮮の核保有の認知を必死に求め続けるだろう。短距離ミサイルの精度が完了したあかつきには、時を見て、韓国に脅しをかけてくるのは必至。核搭載の短距離ミサイルを脅かしの道具にして、北朝鮮主導の南北統一を求めるにちがいない。米国は最後には自国の直接的な国益ではないと見なし、北主導の統一を黙認する可能性がある。韓国抜きの東アジア、東南アジア安保構想を考えるかもしれない。
  現在の文政権と、この政権を支持する韓国民の朱子学による伝統的な「反日主義」が現在、冷厳な現実から目をそらさせている。熱狂的な反日感情により、韓国人は前門の“悪”の日本政府に目が釘付けになり、後門の虎を見ていない。見ていても、虎を友人だと思い込んでいる。幻想を抱く文大統領はその先頭に立っている。

  ● 日本は最悪のシナリオを想定して安保・防衛立案を
  トランプ米大統領と韓国の文大統領がつくり出した朝鮮半島情勢は、北朝鮮に有利に働いている。金委員長にとって千載一遇のチャンスのように思える。追い風は確実に北朝鮮に吹いている。
  このままでは、文大統領による韓国国民への「2045年の光復100周年までの南北平和統一(南主導)」の約束」が果たされないどころか、北朝鮮による朝鮮半島統一が現実味を帯びてくる。時がたてばたつほど、韓国主導の経済統一が現実味を帯びて不利になることを知っている金委員長はミサイルと核を盾にして韓国を揺さぶり、「愚かな」トランプ大統領と「反日」思想に凝り固まった文大統領を利用して「統一」という獲物を手に入れる努力を必死にするだろう。
  われわれ日本人は、北朝鮮主導の朝鮮半島統一という最悪のシナリオをも視野に入れて、今後の東アジアと日本の安保・防衛問題を考えていかなければならないと思う。


  

文在寅よ、血迷ったのか? 国を滅ぼす気か? 韓国大統領の「南北協力で日本に対抗」発言に耳を疑う

2019年08月05日 18時33分32秒 | 東アジアと日本
  これが一国の大統領なのか。失礼だとはわかっているが、ここまで血迷っているとは信じがたい。文大統領はきょう午後2時、青瓦台(大統領府)で開かれた首席秘書官・補佐官会議で次のように話した。
  まずは共同通信社のソウル発の記事はこうだ。「韓国の文在寅大統領は5日、北朝鮮との経済協力体制が確立すれば『一挙に日本の優位に追い付くことができる』と述べた。南北が共闘して、日本に対抗したいとの意向を示した形だ」

  次はヤフーニュースのからの引用だ。「文大統領は『日本経済がわれわれの経済に比べて優位にあるのは経済規模や内需市場』とし、『南北の経済協力で平和経済を実現すれば、一気に追いつくことができる』と強調した。

  文在寅大統領は東西ドイツ統一後の経済状況を理解しているのか。知らなければ、愚かな大統領だ。知っていて、何も知らない平均的な韓国人に発言していれば罪な男だ。国家反逆罪に等しい。 
  1990年の東西ドイツ統合から、はや26年が経ち、欧州共同体(EU)をひっぱっている大国ドイツは、東西に分断されていたという負の歴史を、いまだに乗り越えられていない。特に経済格差は未だに解決されない。
  2015年時点で、旧東独地域の一人あたりのGDPは、旧西独の71%であり、旧東独地域の一人あたりの可処分所得は、旧西独の82%なのだ。失業率も、旧東西ドイツで大きな差がある。2016年4月、6.3%がドイツ全体の平均。7%が旧西ドイツの平均だが、8.8%が旧東ドイツの平均だ。
  統一ドイツ当時、東ドイツの1人当たりの国内総生産(6263ドル)は、西ドイツ(1万8295ドル)の約3分の1弱であり、この経済格差により、ドイツは統一から10年間は経済の停滞に苦しんだ。それでも旧東ドイツは旧ソ連社会主義圏の経済の優等生だった。一方、2016年の韓国の1人当たりのGDPは2万5989ドルだが、2014年の北朝鮮の1人当たりのGDPは696ドルだ。
  1990年の統一当時の東西ドイツの経済格差は約3倍。これに対して、現在の韓国と北朝鮮の経済格差は約37倍にもなる。統一ドイツは東西の経済格差3倍でも、経済の停滞を招き、現在でさえ旧東西ドイツ地域で貧富の差がある。ましてや、もし韓国と北朝鮮が現在、経済協力ないし統一したら、どうなるのか。この数字をみれば、高校生でも判断できる。経済協力を北朝鮮と結んでも、日本に追い越すどころか、引き離されるだろう。南北が統一すれば、韓国経済はひとたまりもなく、停滞どころか大大打撃を受ける。下手をすれば、再び開発途上国へ逆戻りなる可能性さえある。
  文在寅大統領は、日本の対韓輸出優遇策で日本を糾弾し、それが韓国の経済不況に拍車をかけるという。韓国経済だけでは日本に追いつけないから、北と組めば「一気に追いつくことができる」と韓国民に訴えている。
  この大統領の頭脳はどうなっているのだ。南北が経済協力しても効果はマイナス。両国の経済がが一緒になれば、韓国経済は一気に奈落に落ち込み、政治的には、北朝鮮主導の統一となるのは目に見えている。一番かわいそうなのは韓国民だ。文在寅政権に踊らされ、対日批判を繰り広げ、挙げ句の果てに金正恩委員長の独裁国家の中で、自由を奪われて貧困に喘ぐだろう。そのとき、対日批判の行き着く先を理解するだろう。
  韓国民のなかには、大局を見て、冷静沈着な判断をする人々もいる。彼らが立ち上がり、文在寅大統領左派を総選挙で打倒することを祈るばかりだ。

(写真)日本に輸出規制の撤廃を要求する文在寅大統領

北朝鮮は太平洋戦争先夜の日本から教訓を学べるか  金正恩委員長はどう行動するのか

2019年03月03日 20時32分13秒 | 東アジアと日本
 ベトナムの首都ハノイで行われた第2回米朝首脳会談は北朝鮮の金正恩委員長が16世紀の日本の戦国大名だと教えている。そして国連経済制裁が、われわれが考えている以上に北朝鮮と金王朝体制に深刻な打撃を与えている。
 昨日の3月2日にベトナムを発ち北朝鮮の平壌に列車で帰っている金委員長と側近は、トランプ米大統領から何のお土産ももらえなかった。言い換えれば、経済制裁の中核をなす国連による石油禁輸の解除や銅や石炭などの鉱物資源の輸出解除のお墨付きをトランプ米大統領からもらえなかった。これからどうするのだろうか。
 金委員長の最大の目的は金王朝体制の維持と永続だ。それは市井の私でも理解できる。さらに、北朝鮮が経済的に韓国をしのぎ、現在もくろんでいる核兵器を維持し続ける暁には、それらをテコにして北朝鮮主導の朝鮮半島統一を企てるだろう。しかしそれは遠い将来の夢であり、金委員長の存命中に達成できるかどうかはわからない。
 北朝鮮の金王朝はこの二つの目的のために、決して核兵器を放棄することはないだろう。北朝鮮が核兵器を放棄して経済発展に邁進すれば経済大国になることができるとトランプ米大統領は発言する。しかし16世紀の頭で考える金委員長はその発言を信じることはないだろう。それを罠だとみるだろう。
 リビアの独裁者カダフィ大佐が2011年8月に反政府軍に殺されたのは、米国や西側諸国の甘言にのって核開発放棄と核兵器廃絶を受け入れた結果にほかならないと北朝鮮が信じているのに何の不思議があるのだろうか。
 金委員長は自らの目的のために中国と韓国を利用するだろう。中華冊封体制の中で、朝鮮半島が中国の属国だった長い歴史を知っているはずだ。本当は中国に頼りすぎると、このような関係に陥ると理解しながらも、選択肢は中国に頼る以外に道はないと考えているのだろうか。
 中朝はそれぞれの思惑から、さらに親密な関係になるにちがいない。中国の習近平総書記は米中貿易摩擦の解決に向けて北朝鮮カードを使う。仲介という形で米国に恩を売る。トランプ米大統領が北朝鮮の非核化に関心を示す限り、それは可能だ。
 金委員長は対韓政策をどうするか。彼はあくまで対米交渉の駒として文在寅大統領を利用する。そして昨年から、そうしている。
 文大統領が「(日本統治下での)三・一独立運動」100周年記念式典に北朝鮮の幹部を招待しようとしたが、金委員長は何の興味も示さなかった。このことが委員長の対韓政策の真意を露呈している。
 韓国大統領は開城工業団地や金剛山観光事業などをテコにして北朝鮮に経済協力をしてきた。そうすることによって、金委員長が核開発と核兵器・ミサイルを放棄すると考えているようだが、それは甘い考えだ。韓国左派の人々が抱く幻想だと思う。その考えは現代には通じるが、戦国時代の武将には通じない。
 金委員長はあらゆる手段で中韓に接近し、両国を利用しながら対米交渉を続ける。そして日本を利用できる時期が到来すれば、一夜にして対日政策を変えてくるだろう。拉致問題を遡上に乗せてくるだろう。余談だが、日本政府は「拉致問題を解決するまでは、びた一文経済支援をしない」姿勢をつらなければならない。我々が妥協すれば相手も妥協すると決して考えないことだ。21世紀の先進国との交渉姿勢は北朝鮮には当てはまらない。
 米朝交渉は今後、どうなるのか。トランプ米大統領は3月2日、ワシントン郊外で開かれた保守派の政治集会で演説し、北朝鮮について「(非核化で)合意を結べば経済面で素晴らしい未来を手にするが、核兵器がある限り、いかなる未来もない」と述べた。北朝鮮との今後の交渉で、「完全な非核化」を要求していく考えを改めて示した。
 この演説を読んで、私はあらためて米国という国を理解した。人権問題を軽視するトランプ大統領のような人物でさえ、一つの確固とした原則があるのだ。
 それは経済効率主義とピューリタン精神が入り交じったアメリカ精神だ。米国の道徳的なよりどころは愛国心であり、それが正義なのだ。愛国心が個人や国家の存在を正当化する。
 米国にとって理念や原則が正義なのだ。そこが長い歴史の中で抗争に明け暮れた中国、朝鮮、日本、欧州諸国とは違う。
 日本の軍部指導者は1941年4月から11月26日までの対米交渉で、米国人の国民性と考え方を誤解した。誤解したというより間違った。当時の松岡洋右外相は「日本が米国に強く出れば、妥協してくる」と信じた。
 米国は日独伊三国同盟や日中戦争について持論を一貫して述べた。1941年6月21日の米国案とハル国務長官のオーラルステートメントで、日中講和条件は米国の満足がいくこと、三国同盟は「(1939年9月1日に始まった)欧州戦争の拡大防止に寄与するかどうかを説明する」こととした。
 当時のフランクリン・ルーズベルト大統領が3月15日夜の記者会見で、ナチス・ドイツと戦っている英国に全面軍事支援することを表明し、「わが軍需生産力が全能力を発揮するときこそ、ドイツは民主主義国家に対して勝つことができないと悟るだろう」と力説した。米国は「民主主義」を護るため、対ドイツ戦争に参戦したがっていた。そのためには、日本が三国同盟を有名無実化し、米国の行動に暗黙の了解を与えることを切望した。ルーズベルト大統領は太平洋と大西洋での同時進行戦争を避けたかった。日中戦争は米国にとって直接的な利害関係を生じさせなかった。
 日本が米国の真意を十分に理解できずに、米国に過大な要求をし、それに対して米国は次第に自らの要求をエスカレートしていった。ついに日本は7月に南部仏印(現在のベトナム南部)に進駐、それが米国の植民地フィリピンの安全保障に重大な脅威を与えた。米国は7月下旬から8月上旬にかけて、在米日本資産の凍結と石油の対日輸出を全面禁止した。
 米国は11月26日、ハルノートを日本に手渡し、中国からの全面撤退や三国同盟の破棄などの最強攻策に出た。当時の日本首相は米国の最後通牒とみなし、日本より13倍の国力を持つ米国と戦う決意を固めた。日本の指導部はこの国力差を理解していた。それでも日本は、緒戦に勝利さえすれば米国との和平に持ち込めると信じ、ハワイ・真珠湾を攻撃した。
 1941年の日本政府は10年~20年の戦略ビジョンを描いて大幅な譲歩をしなかった。強大な米国に滅ぼされるという恐怖とナチス・ドイツとの同盟を過信した。そして日本は米国に敗北し、無条件降伏した。
 日本が米国に大幅に譲歩して対米戦争を避けていれば、現在、中国に共産主義政権が存在しなかった可能性は高い。韓国は、時の変化の流れから、日本から独立していたが、北朝鮮は存在しなかった公算は強い。韓民族は国家より民族を重視するが、そうはいっても日韓関係は違った道を歩いていただろう。太平洋戦争前夜、日本は米国人の国民性を読み誤って、その後の歴史の流れを変えた。
 米国の伝統的な戦争は「勝つか負けるか」の闘争であり、和平はない。欧州人の戦略的思考「戦争は政治目的を達成する手段であり、政治目的が成就されれば和平は可能だ」は米国人にとり「たわごと」だ。アメリカ先住民インディアンとの闘争以来、米国人は敵の無条件降伏を目指して戦ってきた。
 米朝首脳会談が物別れに終わった2019年3月1日夜、北朝鮮の李容浩外相は「将来アメリカが再び交渉を提案したとしても、我々の基本的立場は不変であり、我々の提案は決して変わることはないだろう」と述べた。
 北朝鮮は米国と交渉を続けるか、その場合であっても李発言を踏襲するのか。それとも交渉の立場を強めようと過信して再び核の危機をつくり出すか。金委員長は現在、1941年6月頃の日本軍部指導者の立場に似ているように思う。
 もし金委員長が強硬策に出れば、トランプ大統領の性格と米国人の国民性とが合いまって、北朝鮮は存亡の危機に瀕するだろう。米朝の国力差は、1941年当時の日米の国力差以上だ。
 トランプ大統領の後継者が北朝鮮と「取り引き」することはないだろう。「ない」と断言しても言い過ぎではないように思う。トランプ大統領の出現は北朝鮮にとって千載一遇のチャンスだ。
 金委員長に選択肢はない。「完全で検証可能な、不可逆てきな非核化」をしてこそ金王朝は存続できる。リスクを恐れず勇気を出せるか。私は金王朝の存続を望んではいないが、それでも東アジアの平和を切望する。私が独裁者の金正恩ならそうするだろう。

日ロ首脳は2島返還を見据えて両国関係を築け   北方領土をめぐる安倍・プーチン会談を聞いて

2019年01月23日 09時30分24秒 | 東アジアと日本
 安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領は1月22日、モスクワのクレムリン宮殿で会談し、北方領土や経済協力問題で話し合ったが、各紙の紙面には、領土問題について「進展せず」との見出しが踊っていた。
 新年早々の私のブログ「北方2島は返還されるのか 4島は無理?」で、私は安倍首相を批判した。私は安倍首相が真意を隠し、交渉しているからにほかならないからだ。20世紀の英国の大宰相ウィンストン・チャーチルと異なるところは、首相に弁舌力と説得力がないことだ。何よりも、どんな政治的な苦境に陥ろうが誠実で正直でないところだ。しかし日ロ交渉やTPP問題での安倍首相の現実を踏まえた交渉姿勢は評価し好感を抱く。
 安倍政権は国民に4島返還の基本姿勢は変わらないと公言しているが、1956年の日ソ共同宣言に基づいて歯舞諸島と色丹島の2島先行返還論を唱えている。日ロ平和条約を締結後にロシアが2島を返還し、信頼関係を醸成後、残りの国後、択捉両島の返還を求める。しかし本音では、プーチン大統領との20回以上の首脳会談を通して、4島返還は非現実的だと感じているにちがいない。
 もし安倍首相が本音を漏らせば、対ロ外交交渉に支障をきたすだけでなく、彼の政治基盤である「右派(保守派)」からの支持を失うことになるだろう。首相は国民の支持率低下を気にしているのかもしれない。
 右派言論界を代表する産経新聞は今年1月16日の正論で、「共同宣言に基づく『2島返還』戦術の破綻は鮮明だ。北方四島の返還を要求するという原則に立ち返り、根本的に対露方針を立て直すべきである」と威勢の良い進軍ラッパを鳴らした。
 産経新聞の正論は主張する。「択捉、国後、色丹、歯舞の北方四島は日本固有の領土であり、ロシアに不法占拠されている。この唯一の真実を無視した暴言は到底、容認できない。旧ソ連は45年8月9日、当時有効だった日ソ中立条約を破って対日参戦した。8月28日から9月5日にかけて、火事場泥棒のように占拠したのが北方四島である」。
 この主張は100%正しい。旧ソ連(ロシア)は国際法に違反していた。また日本の国民性からして、降参した国民をさらに足蹴にするのは許せないだろう。
 これに対して、1月14日に開かれた河野太郎外相との会談後、ロシアのラブロフ外相は、北方領土は「第二次大戦の結果としてロシア領になった」と主張、北方領土に対する「ロシアの主権」を認めねば交渉は前進しないと述べ、「北方領土」という用語を「受け入れられない」とも言い放った。
 ラブロフ外相の主張の根拠になったのが1945年2月に開催された米英ソのヤルタ首脳会談で交わされた秘密条項だ。それは、ドイツ降伏後の旧ソ連の対日参戦と千島列島の獲得を記す。しかし、正論は「同協定が領土問題の最終的処理を決めたものでないのは当然である。日本が当事国でもないこの密約に縛られる理由は全くない」と強調する。
 産経の主張は一見、正当のように見える。ただ見落としていることがある。このヤルタ会談の当事国である米英と日本は戦争中だった。米英側にたってソ連はドイツと血みどろの戦いをしていた。いかに法律論として正しくとも、現実的にソ連がドイツ降伏後にどう出てくるかは推察できた。
 事実、当時の日本政府は躍起になってソ連を仲介にして米英との和平交渉を模索したが、ソ連の態度は曖昧だった。それ以上に日ソ中立条約の改定には消極的で、何らの反応もなかった。一部の政治家、軍人をのぞいて、日本政府はソ連の真意を一連の流れの中で推察できなかった。
 世界は、現在でさえ「力」が横行している。特にロシア人は「力」を重視する。ロシア史はそれを明らかにしている。ラブロフ外相の発言はそれを物語っており、現実主義の立場からすれば、不当だとは言い切れない。
 ラブロフ外相はこう言いたいのかも知れない。日露戦争で日本が力で南樺太(南サハリン)を奪ったのを帝政ロシアがポーツマス条約で認めたように、ロシアは第2次世界大戦で力で、経緯がどうであれ、4島を含む千島列島を奪ったことを認めるべきだ、と。
 日本の代表的な通信社「共同通信社」は「ロシアのプーチン大統領は・・・歯舞、色丹2島の日本への引き渡しを明記した1956年の日ソ共同宣言に基づき平和条約締結交渉を行い、条約を締結する意欲を日ロ間で確認したと表明した。日本への2島引き渡しの用意を示唆したものとみられる」と配信している。
 プーチン大統領これまで「共同宣言が2島の日本への返還を記しているが、主権がどちら側にあるかについては何も記していない」「2島返還後、2島に米軍基地が置かれる心配がある。ロシアの安全保障上問題がある」と交渉カードを切って、少しでもロシアに有利な形で「北方領土」問題を決着しようと計っているのは事実だが、2島の日本への返還を視野に入れている節もある。
 それは単なるや法律論や条約論からではなく、30~40年後の東アジアの地図を見据えてのことだろう。もし安倍首相も将来の極東における国際関係を見据えて2島返還論を唱えているのなら、「素晴らしい」政治家だということになる。
 プーチン大統領は将来の中国がどうなるかを真剣に考えていると思う。現在、米国と対立しながらも全面対立を避けている中国が20~30年後、米国と競う国力をつければ、アジアの盟主になる行動に打って出るだろう。、その時、中国と地続きのロシア・シベリアが今のままでは中国の直接、間接的な影響や間接支配を受ける可能性が高い。今のうちに、日本の経済支援を得て、脆弱で不毛のシベリアを開発し、将来の中国の脅威に備えると考えても不思議ではない。
 現在、クリミア併合問題をめぐってロシアは中国に接近し、米国と敵対しているが、未来永劫、この図式が固定することはない。それを一番理解しているのは、国境が地続きの大陸国で生まれたプーチン大統領だろう。19世紀の大英帝国の宰相パーマストン子爵(ヘンリー・ジョン・テンプル)は「国家には永遠の友も永遠の同盟国もない。あるのは永遠の国益だけだ」と述べ、この名言は時代を越えて語り継がれる普遍の真理となっている。
 日本はどうか?文在寅韓国大統領の就任以来、日米韓の同盟は以前以上に大きく揺るぎ始めている。韓国人の日中に対する歴史的な見方や姿勢からすれば、文大統領が退場したからといって、一時的な友好の揺り戻しがあっても、基本的な姿勢は変わらないと踏む。
 いずれ、韓国と北朝鮮は中国圏に入るだろう。中ロ関係は帝政ロシアの時代から安定と不安定を繰り返してきた。日本にとってもロシアは信頼できる友ではなかった。しかし真の友でなくても利害の友となり得る。プーチン大統領もそう感じているだろう。
 プーチン大統領は独裁的、強権的首長だ。しかし北方4島の帰属問題にここまで真剣に考えている政治家はプーチン以外にロシアに今までいなかったと思う。
 時は変化する。今や歯舞諸島を除く3島にはロシア人が住んでいる。これからますます多くなるだろう。そしてかつて4島に住んでいた日本人は間もなく死に絶えるだろう。この現実をこのまま放っておけば、4島全島がロシア領になることは必定だ。またロシアにプーチン後にプーチンが現れるとは考えにくい。
 70%以上のロシア国民は国後など4島の返還に反対している。そのかがり火は日々勢いを増す。一方、日本人の多くは4島が返還されるのは当然だと考える。
 日本の右派は原則に生き、理論に行き、信条に生きる。時が、歴史が変化しても一寸だに彼らの考えや姿勢を変えずすべてを失う。英国人の保守派は現実に生きる。理想を抱きながらも現実に生きる。遠い未来を見据えながら妥協する必要があれば実質的な利益を得るため、そうする。
 英国の偉大な保守政治家チャーチルはこう言う。「現実が諸君を見ているのだから、諸君も現実を見なければならない」「過去を遡れば遡るほど遠い未来まで見通すことができる」。英国の保守派はいつも言う。「時は変化する。時に逆行すれば滅び、時に逆らわずに、その波にうまく乗れば生き残ることができる(難局を乗り越えることができる)」。
 今こそ安倍首相とプーチン大統領は大衆に迎合せず、リーダーシップを発揮して大衆を説得し、それぞれの国の未来を切り拓いてほしいものだ。