佐藤究(きわむ)著『テスカトリポカ』(2021年2月19日KADOKAWA発行)を読んだ。
「カドブン」(KADOKAWA文芸WEBマガジン)の特設サイトの書籍紹介
選考委員大激論! 今一番ヤバいエンターテインメント!
メキシコで麻薬密売組織の抗争があり、組織を牛耳るカサソラ四兄弟のうち三人は殺された。生き残った三男のバルミロは、追手から逃れて海を渡りインドネシアのジャカルタに潜伏、その地の裏社会で麻薬により身を持ち崩した日本人医師・末永と出会う。バルミロと末永は日本に渡り、川崎でならず者たちを集めて「心臓密売」ビジネスを立ち上げる。一方、麻薬組織から逃れて日本にやってきたメキシコ人の母と日本人の父の間に生まれた少年コシモは公的な教育をほとんど受けないまま育ち、重大事件を起こして少年院へと送られる。やがて、アステカの神々に導かれるように、バルミロとコシモは邂逅する。
第165回直木賞受賞作。
暴力的小説だが、女性選考委員から絶賛された。(特設サイト)
直木賞の長い歴史の中に燦然と輝く黒い太陽 宮部みゆきさん(第165回直木賞選評)
‶語る〟ことの力とおそろしさ、悲しみと美しさに満ちた小説
江國香織さん(第34回山本周五郎賞選評)
「傑作と言うほかない」という陳腐な表現は使いたくないが、真に傑作と言うほかない
三浦しをんさん(第34回山本周五郎賞選評)
テスカトリポカとは、「煙を吐く鏡」を意味し、闇を支配するとされる。アステカ王国では「夜と風」(ヨワリ・エエカトル)、「われらは彼の奴隷」(ティトラカワン)とも呼ばれていた。(p98)
1996年、17歳のルシアが生れ育ったメキシコ北西部のクリアカンは、カルテルが支配する無法地帯。彼女の兄はアメリカに行こうと、カルテルに属さない密入航ブローカーを頼り殺された。ルシアは逆に南のアカプルコへ逃げ、東京へ飛んだ。やがてルシアは暴力団幹部の土方興三の妻となり土方コシモ(小霜)を産む。
ルシアが麻薬付けとなり、コシモは公的な教育を受けないまま巨大な体躯に育ち、父母を殺して2015年少年院へ送られた。
メキシコでは、麻薬組織を兄弟で支配する<ロス・カサソラス>が、新興の<ドゴ・カルテル>に壊滅させられ、支配していた4兄弟でただ一人生き残った麻薬密売人(ナルコ)バルミロはメキシコから逃亡する。
バルミロと兄弟の面倒をみてくれた先住民族の祖母・リベルタはオドロオドロしいアステカの神の話を幼い兄弟に吹き込む。
残虐な拷問方法から「粉」(エル・ポルボ)と呼ばれたバルミロは、インドネシアのジャカルタの裏社会で日本人医師・末永と出会い、日本に渡り、川崎でならず者たちを集めて「心臓密売」ビジネスを立ち上げる。
日本を追われた元心臓血管外科医末永は、調理師と名乗るバルミロと出会い、極悪ビジネスを共に立ち上げる。
野村:麻酔科の闇医師
矢鈴(やすず):NPO法人「かがやくこども」(代表理事は暴力団・仙賀組幹部の増山)の女性職員、元保育士
パブロ:バルミロの下で働くナイフ職人。コシモの職人としての非凡な才能を見抜く。
初出:第一部「カドブンノベル」2020年12月号、第二部以降は書下ろし。
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)
残忍な殺害場面、オドロオドロしいアステカの宗教儀式などが頻発、長く続き、作者だけが入れ込んでいる気がして、真面目に読み続ける気がしない。死体の各部の価格がわざわざ表記され、心臓を取り出す手術を詳細に描くなど、わざとらしすぎる。
参考資料が50ほど並ぶなど著者の勉強ぶり、やたらスペイン語のルビがふられたり、残酷場面に入れ込む粘着質な描写などには感心し、あきれるが、半分しらけてしまった。
佐藤究(さとう・きわむ)
1977年、福岡県生まれ。
2004年、佐藤憲胤名義の『サージウスの死神』が第47回群像新人文学賞優秀作となり、同作でデビュー。
2016年『QJKJQ』で第62回江戸川乱歩賞を受賞。
2018年、『Ank: a mirroring ape』で第20回大薮春彦賞、および第39回吉川英治文学新人賞を受賞。
2021年、『テスカトリポカ』で第34回山本周五郎賞受賞、第165回直木三十五賞受賞。