hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

井上ひさし『十二人の手紙』を読む

2013年09月23日 | 読書2

井上ひさし著『十二人の手紙』(中公文庫1980年4月中央公論新社発行)を読んだ。

キャバレーのホステスになった修道女の身も心もボロボロの手紙、上京して小さな会社の社長の毒牙にかかった家出少女が弟に送る手紙、家出し、演劇スクールに通い、新人公演の主役を射止めた女性から高校の恩師への手紙。人妻に突然送られてきた、25年前に夫と同期だった男からの手紙。鞍馬山中で仕事に励む初老の画家への留守宅の妻からの驚くべき手紙。ペンフレンドを求める若き女性に寄せられた恐るべきなど、手紙の形だけで編まれた13編の物語。

初出:『十二人の手紙』1978年6月中央公論社発行



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

出生届、死亡届などの、公的文書だけを並べただけで、その人の人生が浮かび上がる「赤い手」、手紙の書き方の本からの引用を並べた「玉の輿」、投函もされず、返事も自分で書いていた手紙の束からなる「シンデレラの死」など著者の仕掛けは見事だ。
また、手紙の書き手が嘘をついていて、最後にどんでん返しとなる話も多く短編の面白さが満喫できる。

手紙には、人生の哀歓が凝縮されやすく、ドラマチックな展開が楽しめる。



井上ひさし
1938年山形県生まれ、上智大学外国語学部フランス語科卒
浅草フランス座文芸部兼進行係などをへて、戯曲「日本人のへそ」NHK人形劇「ひょっこりひょうたん島」
1972年「手鎖心中」で直木賞受賞
1981年「吉里吉里人」で日本SF大賞、翌年読売文学賞小説賞受賞
2000年死去
2010年『東慶寺花だより


プロローグ悪魔
柏木幸子は、下町の船山商事に集団就職するが、やがて社長の毒牙にかかる。妻と別れて結婚する、と言う話が真っ赤な嘘と知って、「悪魔」と云ったお嬢さんを・・・。

葬送歌
中野慶一郎は私立女子大の学生小林文子から、自分の戯曲を見てもらえないか、との依頼を受ける。中野は才能がないと散々こき下ろした返事を書く。しばらくして40年も前の自分の作品を真似たものではないかと疑い出す。小林からの返事には、大学で企画している中野慶一郎展に筆跡を展示するため、先生自筆の手紙が欲しかったため、ひっかけた形になってしまった。展覧会にはぜひ来てくださいとあった。

赤い手
母の死と共に生まれた前沢良子はベトレヘム天使園に引き取られ、やがて洗礼を受けるがあかぎれの手にひかれ焼芋行商の男と結婚する。しかし、死産、火事、夫の家出、キャバレー勤務、交通事故死。公的文書と最後の手紙だけで彼女の人生が浮かび上がる。

ペンフレンド
北海道旅行を計画した本宮弘子は旅の雑誌に案内者を求める文を載せ、何名かの中から網走の酒井なる男を選ぶ。何通かの手紙のやり取りの後、職場の無口で気味悪い西村が「彼は刑務所から出しているのかもしれない。」と言い出す。手紙でその事を言うと・・・。結局、弘子は西村と旅行に行くことになるが、酒井は実は・・・

第三十番善楽寺
行き倒れで発見された古川俊夫はほとんど口を利かない。しばらくして行方をくらました彼は四国の善楽寺で救われ仲間と洗濯挟みを作っていた。金の分配を能率給にして、できる者とできない者で喧嘩になる。突然、古川が喋りだす。

隣からの声
水戸博子の夫は西オーストラリアのパースに赴任している。彼女は夫に切々たる手紙を書く。そのうちに「隣のおばあさんのもとに娘夫婦が転がり込んできた。財産ねらいで、おばあさんの命が危ない。早く帰ってきて…。」夫からの依頼で相談を受けた平塚が調べると、・・・。


鞍馬山中で山の絵に取り組んでいる耳が聞こえず口もきけない鹿見木堂のもとにかってモデルだった妻の貴子から手紙が来る。賊が侵入し、集めていた大観など数十点の絵が盗まれ、弟子でしゃべることができない梅野が殺されたという。警察は犯人として弟子の住山を、木堂は貴子自身ではないかと疑う。


有名夫人のあつまりであるサロン・ド・シャリテは、孤児の面倒を見ている白百合学園に多額の寄付を送ると共に一日母親をやりたい、と申し出る。しかし園長は、学生達にとって単なる桃が村人にはかけがえのない桃だったという、「桃」という短編にたくして断る。

シンデレラの死
塩沢加代子から恩師の青木先生にあてた手紙と返信。長岡を飛び出したスーパーで働く加代子は、演劇スクールにも通う。主役に抜擢され、某プロダクションの宣伝部長の目に留まり、オーデイションを受けが、それは嘘で体を奪われる。これらは、自殺した加代子の部屋から見つかった手紙の内容だが、投函もされず、返事も自分で書いていた。現実ではなかったのだ。

玉の輿
長田美保子は、高橋忠夫先生が好きだったが、病気の父の面倒を見てくれると言う花山酒蔵の社長の息子と結婚する。やがて、結婚は破局する。これらの手紙11通はすべて、12冊の手紙の書き方の本から引用したものだった。

里親
甲田和子は、中野慶一郎の弟子の藤木英夫と結婚するが、中野が散々藤木の作品をけなした上、自分の作品として発表しようとしていると知って殺害してしまう。しかし中野の遺稿は「砂糖屋」で、・・・。

泥と雪
離婚届に印をおさぬ津野真佐子のもとに昔の同級生の佐伯孝之から贈り物とラブレター。真佐子は心惹かれるようになり、佐伯が急にパリに赴任する前に判を押す決意をするが、・・・。

エピローグ人質
雪深い山里のホテル5階の宿泊者18人を人質にとって男が篭城。男はプロローグの柏木幸子の弟弘。宿泊者は12の手紙の関係者。幸子を犯した船山太一は雪が積もっているはずの外に飛び降りた。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 井上ひさし『東慶寺花だより... | トップ | 榎本まみ『督促OL修行日記』... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

読書2」カテゴリの最新記事