井戸川射子著『ここはとても速い川』(2021年5月28日講談社発行)を読んだ。
第一詩集で中原中也賞を受賞した注目詩人による、初めての小説集。
児童養護施設に暮らす小学5年生の集(しゅう)。園での年下の親友・ひじりとの楽しみは、近くの淀川にいる亀たちを見に行くことだった。温もりが伝わる繊細な言葉で子どもたちの日々を描いた表題作と、小説第一作「膨張」を収録。
第43回 野間文芸新人賞 受賞。本書には、表題作と『膨張』の2作。
「ここはとても速い川」
児童養護施設で暮らす少年・集(しゅう)とひじり、よしいち等の日々を子供目線の関西弁で淡々と語る。現実は大人に振り回されて、どうともならずにあきらめることも多い。しかし、集たちは大人たちが一方的に押し付けることの真の意味をちゃんと嗅ぎ取っている場合も多く、幼い考え方の反面、意外としっかり自分たちの立ち位置とらえているのだ。
主な登場人物は、集、ひじりや他の施設の生徒と、正木先生など何人かの施設の先生、近所のアパートに住む大学生のモツモツだけといった狭い世界での話を感性豊かな言葉で語る。
第43回野間文芸新人賞選考で、5人全員が丸をつけたという。
「膨張」
各地にある塾を職場とする津高あいりは、定住地を持たずゲストハウスなどを泊まり歩くアドレスホッパーの暮らしを続けている。そんな生活は、同性の恋人千里との生活を続けるためでもある。あいりは実家の留守番を頼まれ、アドレスホッパーの懇親会で会ったイブと5歳の息子のウオとしばらく暮らすことになる。
初出:「ここはとても速い川」群像2020年11月号、「膨張」群像2020年7月号
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)
私には評価しようがない。いわゆる面白い小説ではないので、せいぜい二つ星だが、何か落ち着かない不思議な感覚が残り、作者の感性のきらめきにまぶしさを感じてもいるので三つ星にした。
つながりがない、ぶつ切りの文と文が続き、まったく詩人というやつはと、ぼやきつ読む。流れを感じながら流すように読む癖の着いた身には読みにくいことこの上ない。セリフがあっても改行せず、びっしり書いてあるのもうんざりだ。
内容はとくに読み取りにくくはないのだが、子ども視点の独特の文で、地の文も関西弁。登場人物もあだ名のままだったりして、筋が見えにくい。わざと曖昧なままにしていると思うと腹が立つ。
私には拒絶反応のある現代詩のように感じ取れる文は、しかしながらまとめて全体として何かを感じさせてくれる。これが新しい文学で、私はすでに置き去られてしまったのではと感じさせ、一方で、ついに私も過去形になったと、落ち着いた、幸せな気持ちにしてくれた。でも、本物なの?
井戸川射子(いどがわ・いこ)
1987年生まれ。関西学院大学社会学部卒業。
2018年、第一詩集『する、されるユートピア』を私家版にて発行
2019年、同詩集にて第24回中原中也賞を受賞
著書に『する、されるユートピア』(青土社)。本書が初の小説集となる。