hiyamizu's blog

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砂原浩太朗『高瀬庄左衛門御留書』を読む

2022年03月03日 | 読書2

 

砂原浩太朗『高瀬庄左衛門御留書(おとどめがき)』(2021年1月18日講談社発行)を読んだ。

 

講談社BOOK倶楽部の内容紹介(抜粋)

◎第165回直木賞候補作◎
……
美しく生きるとは、誇りを持ち続けるとは何かを問う、正統派時代小説。
藤沢周平、乙川優三郎、葉室麟ら偉大な先達に連なる新星、ここに誕生。
……
神山藩で、郡方を務める高瀬庄左衛門。50歳を前にして妻を亡くし、さらに息子をも事故で失い、ただ倹しく老いてゆく身。残された嫁の志穂とともに、手慰みに絵を描きながら、寂寥と悔恨の中に生きていた。しかしゆっくりと確実に、藩の政争の嵐が庄左衛門を襲う。

……

人生に沁みわたり、心に刻まれる、誰もが待ち望んだ時代小説の傑作。
武家もの時代小説の新潮流、砂原浩太朗「神山藩シリーズ」第1作。

 

【本屋が選ぶ時代小説大賞(第11回)】【舟橋聖一文学賞(第15回)】【野村胡堂文学賞(第9回)】

 

 

高瀬庄左衛門(たかせ・しょうざえもん)は神山藩の郡方(こおりかた)で、妻に先立たれ、息子・啓一郎、嫁の志穂、小者で60歳を超えた余吾平と共に暮らしていた。啓一郎は俊才で知られていたが任官に失敗し、結局父と同じ郡方にならざるを得なかったことから苛立っていて、志穂とうまくいっていない。

 

啓一郎は23歳の若さで事故死し、庄左衛門は非番の日は絵を描くことに専念し、実家に戻った志穂も嫁に行くのがいやで、幼い弟・俊次郎とともに、庄左衛門のもとを度々訪れ、絵を習い始める。

郡方とは、郡方奉行の下で、領内の担当する村を丹念に回り、米の出来を把握するなど農政にあたる職。

 

志穂が庄左衛門に、弟の秋本宗太郎が友人の影山道場の跡取り・敬作と毎晩のように酒を飲んで帰宅するようになって心配だと相談した。庄左衛門は小料理屋の前の屋台の蕎麦屋で見張っていると顔を隠した男との3人づれが訪れた。

そして、敵の正体がわからぬまま、藩の政争に巻き込まれていく。

 

 

初出:第一章「おくれ毛」は小説現代2018年8月号、その他の章は書き下ろし

 

 

砂原浩太朗(すなはら・こうたろう)

1969年生まれ。兵庫県神戸市出身。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社勤務を経て、フリーのライター・編集・校正者。

2016年「いのちがけ」で第2回「決戦!小説大賞」を受賞しデビュー。
2018年『いのちがけ 加賀百万石の礎』を刊行。本作が2作目となる。

「小説丸」に本作に関する著者インタビューがある。

 

 

私の評価としては、★★★★★(五つ星:読むべき、 最大は五つ星)

 

時代小説にアレルギーのない人は是非読んで欲しい。
中高年男性よ! 藤沢周平、葉室麟の新作はもう生まれないのだから、新人に期待し、育てていかねば。

 

敗者、弱者の立場ながら矜持を持ち、節操を守り、困難にぶつかるも何とか悪に立ち向かう武士や、耐えながら芯の強い凛とした女性、まさに高橋源一郎がからかいを含めて言う「伝統芸」だ。

 

著者・砂原浩太朗の描く主人公は、藤沢周平に比べれば、剣の戦いにも破れたり、迷ったり、ごく身近な普通の人に近くて、それもまた良いと思える。

 

志穂と庄左衛門の関係が、切なく、美しく、良く描けている。女性を描くことは藤沢周平にまさるとみた。

「ことわる……なにゆえじゃ」

 志穂はことばを返さず、燃えるような影を宿した瞳で庄左衛門を見つめた。……女のいるあたりから、生々しい汗の匂いがただよってくるようだった。(p305)

……

「このままでようございます・・・ずっと」

「そうはいかん」庄左衛門の声がつよくなった。「このままなどというものはない。どこにも」

 それを聞いた途端、志穂の瞳がおおきく見開かれた。……(p307)

 

立花弦之助の人物像に現実味がない。

 

 

メモ

 

山城守正共:神山藩主。35歳。

鏑木修理:側用人。33か34歳。

宇津木頼母:筆頭家老。藩主3代に仕える重鎮。

山野辺雅樂(うた):目付役筆頭

立花監物:目付役。家宰は戸田茂兵衛。

立花弦之助:監物の弟。号は天堂。元神童。幼名・福松。実母はうの。

定岡市兵衛:郡方支配。庄左衛門の直接の上司。かっての剣道仲間。

金子信介、森谷敏五郎:郡方。庄左衛門の同僚。

原田壮平:庄左衛門の旧名

宮村堅吾:庄左衛門の剣道仲間。道場の跡継ぎとなり、影山甚十郎に。

碓井慎造:庄左衛門の剣道仲間。

半次:夜鳴き蕎麦屋

次郎右衛門:新木(しんもく)村の名庄屋

 

 

「人などと申すは、しょせん生きているだけで誰かのさまたげとなるもの」……「されど、ときには助けとなることもできましょう……均(なら)して平らなら、それで上等」(p278)

 

 

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