hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

玄関のスズメ

2022年01月07日 | 個人的記録

 

後ろを向くのが嫌いな性分だった私も、最近は何かにつけて昔のことを思い出します。狭いマンションの玄関でふと立ち止まり、子供の頃に住んでいた家の玄関が想い浮かびました。六畳ほどの広さで、半分がつやつやした青っぽい小石を埋め込んだたたきになっていました。この玄関で小学生だった私はたった一日だけでしたがスズメを飼ったことがあるのです。

 

庭の地面に降りてきたスズメに部屋から石を投げ見事命中させてスズメを取ったのです。残念ながらそれは私ではなく同居していた年上の従兄なのですが、気絶していたスズメを私がもらい受けたのです。

 

毛布の切れ端を巣の代わりにして玄関のたたきの上に置き、スズメをそっと横に寝かせました。しばらくするとスズメは起き上がりヨチヨチと歩くようになりました。羽を痛めたのか飛ぶ気配はありませんでした。
一人っ子だった私はスズメを弟か子分のように思い、張り切って米を数粒スズメの前にまきました。物陰に隠れて見ていましたが、まったく食べようとしないのです。夜になっても食べる気配はありませんでした。
翌朝、スズメは毛布の上でごろりと横になって死んでいました。米はまったく食べなかったのです。

 

 

物のない時代、貧しかった我家の晩飯にわずかだが肉が出たことがありました。自分の分はすぐ食べてしまった私に母が云いました。

「お母さん、なんだかお腹が一杯になっちゃったわ。これ食べてくれない」

いくら鈍感な私でも母が満腹でないことは分かりました。しかし、自然と箸が伸びていつの間にか平らげていました。

 

 

一晩だけしか飼えなかったスズメ、硬くなってしまったスズメを手のひらに乗せて、私は、「どうして食べなかったんだ」と聞きたい思いでした。

 

「武士は食わねど高楊枝」

尊厳あるスズメを私は飼ったことがあるのです。

 

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