hiyamizu's blog

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山崎ナオコーラ『美しい距離』を読む

2017年09月01日 | 読書2

 

山崎ナオコーラ著『美しい距離』(2016年7月10日文藝春秋発行)を読んだ。

 

 40代の夫が、末期がんになった同い年の妻に寄り添う165ページの中編小説。主人公は保険会社の営業職で午後からの介護休暇をとり、姉妹のようだった妻の母とともに、病床の妻に付き添う。

 サンドウィッチ屋を営んでいた妻は仕事を楽しんでいた。病院を見舞う取引先・仕事仲間の『双子屋』、「小林農園」を通じて知る妻の仕事ぶり。もはや良くなることはないと何度も繰り返し、自宅へ帰らないのかと聞く医者や、経験した「癌患者」の物語に妻を当てはめようとする介護保険認定調査員に、妻個人の考えを優先しようとする夫はイラつき、反論する。

 芥川賞候補、島清恋愛文学賞受賞作品。

 

 

すべての人の体が死に向っている、赤ちゃんの細胞だって、生まれてすぐに死を帯び始める。誰にでも余命がある。

「とりあえず・・・、死ぬまで修行中だから。他の人や昔の自分と比べないで、あと、未来にも思いを馳せないで、今の自分の環境だけを見ればいいんじゃないか、って・・・、まあ、そんな感じ。そうするとね、痛みがあるのが世界だ、と思うこともできるようになる。・・・」

 

未来があまりないことは知っている、未来が消える瞬間が来ることも知っている。だが、未来が消える瞬間を見届けたくて今を過ごしているわけではない。希望を持って、ただ毎日を暮らしたい。

 

 

HUFFPOST」の「あの人のことば」で山崎さんは語っている。

 

「一昨年がんで亡くなった父のおかげで書けた小説」とTwitterで発言されていました。

父が病気のあいだ、4カ月くらい毎日病院に通っていたのですが、父のひげを剃ったりマッサージをしたり、歯磨きをしたりといったお世話をするのが妙に楽しかったんですね。当時は私自身、あまり仕事がうまくいってなくて。小説が書けなかったんです。・・・。

コーヒーを飲むのと同じ軽さで人が死ぬような話を書きたいと思った。

 

 

初出:「文學界」2016年3月号

 

 

私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

 静かに進む話に、ゆっくり耳を傾けようとする気になる。寄り添う夫の、強いが、自己抑制が効いた愛情が沁みる。

配偶者というのは、相手を独占できる者ではなくて、相手の社会を信じる者のことなのだ。・・・配偶者が遠慮すべきときも、きっとある。

 

愛しているがゆえに、妻の考え方、仕事への思いを優先し、あえて距離を保とうとする夫にもっと遠慮せず、ストレートに意見を言えばよいのにと思ってしまう。

 墓の前で手を合わせると、尊敬語も謙譲語もでてくるようになった。

 敬語を使うようになったのを含めて、「美しい距離」と言うのには違和感がある。

 

 

 

山崎ナオコーラ
1978年9月15日福岡県北九州市生まれ、埼玉県育ち、東京都在住。本名山崎直子。
國學院大學文学部日本文学科卒業後、会社員。
2004年「人のセックスを笑うな」でデビューし、文藝賞を受賞、芥川賞候補。
2006年『浮世でランチ』で野間文芸新人賞候補
2008年『カツラ美容室別室』で芥川賞候補、『論理と感性は相反しない』で野間文芸新人賞候補
2009年「手」で芥川賞候補、『男と点と線』で野間文芸新人賞候補
2010年『この世は二人組ではできあがらない』で三島由紀夫賞候補

2011年『ニキの屈辱』で芥川賞候補

2013年『昼田とハッコウ』で野間文芸新人賞候補

2016年本書『美しい距離』で芥川賞候補。

2017年『美しい距離』で島清恋愛文学賞受賞

その他、対談集『男友達を作ろう

目標は、「誰にでもわかる言葉で、誰にも書けない文章を書きたい」。

2012年に一歳年上の書店員男性と結婚し、2016年に37才で第一子を出産。

 

 

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