hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

伊集院静『なぎさホテル』を読む

2011年10月12日 | 読書2
伊集院静著『なぎさホテル』2011年7月小学館発行、を読んだ。

伊集院氏が作家としてデビューするまでの日々を描いた自伝的エッセイ。

28歳の伊集院さんは、最初の奥さんとの離婚慰謝料などで生活が荒れていた。故郷に帰る途中でふらりと逗子の海岸に立ち寄る。「逗子なぎさホテル」の支配人に偶然出会い、「出世払いでいいですよ」と言われて、結局7年あまりもこの湘南伝説の名門クラシックホテルで暮らすことになる。
それからの伊集院さんは、温かく見守る支配人、そしてホテルの従業員や、地元の人たちとふれあい、海を見ながら多くの本を読む。やがて、CMの仕事や、舞台プロデュース、作詞を書くようになり、さらに苦労して小説を書き始める。
最後に少しだけ触れているが、CMの仕事で知り合った新人女優のM子(夏目雅子)と鎌倉で暮らすことになりこのホテルを出ていく。数カ月後に彼女は発病し、200日余りの闘病生活ののち他界する。
なぎさホテルは平成元年に取り壊されて、今はない。取り壊し直前のなぎさホテルを宮澤正明氏が撮影した写真が数枚挿入されている。



この小説は電子書籍としても販売されている。
伊集院氏の提言もあって新しく設立された電子書籍レーベルは、第1弾として電子書籍の「なぎさホテル」を販売した。写真家の宮澤正明氏が撮影した写真を提供。さらに、井上陽水氏が作品の主題歌「TWIN SHADOW」を提供し、活字と音楽、写真、インタビュー映像などを融合させている。



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

最後の無頼派作家といわれる伊集院さんがかなりあくどいこともせざるを得ないどん底から、懐深く温かい人々に救われ、作家としてデビューするまでを描いている。

東京での暮らしに破綻をきたし、つくづく自分という者の気質(たち)の悪さや品のなさにあきれ果てていた私は、それでも生きることに抗い、酒を飲んでは酔の中に、わずかな望みを見ようとしていた。

アルコール依存症で膨大な借金を抱え、用心棒をする伊集院さんが本人が語るように単なるワルだったら誰も助けようとしないだろう。何か隠れた光るものが感じられたのだろう。そして、幸せにホテルを出た後も、最悪の事態に陥った伊集院さんは、温情に応え見事にしみじみとした小説、エッセイを書く作家になる。

子供の頃から夏に毎年のように行っていた鎌倉・由比ガ浜、葉山が舞台になっていて懐かしい場所ばかり登場する。そして、私は15年ほど横須賀に住んでいて実家のあった東京へ行く時に渚橋を過ぎると、道路際にシャレた洋館があり、なんだろうと気になっていた。これが「なぎさホテル」だった。まさか、あそこに伊集院さんが居たとは。



伊集院静(いじゅういん・しずか)
1950年山口県防府市生れ。韓国系日本人2世。立教大学文学部卒。
CMディレクター、作詞家などとして活躍
1981年「小説現代」に『皐月』を発表し、文壇レビュー
1991年『乳房』で吉川英治文学新人賞受賞
1992年『受け月』で直木賞受賞、女優篠ひろ子と再婚
1994年『機関車先生』で柴田錬三郎賞受賞
2001年『ごろごろ』で吉川英治文学賞受賞
その他『駅までの道をおしえて』など。
二番目の妻が夏目雅子、現妻は篠ひろ子。




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