hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

打海文三『裸者と裸者』を読む

2011年10月10日 | 読書2
打海文三著『裸者と裸者 上 孤児部隊の世界永久戦争』『裸者と裸者 下 邪悪な許しがたい異端の』角川文庫14956、14957、2007年12月角川書店発行、を読んだ。

上巻の裏表紙にはこうある。
応化二年二月十一日未明、“救国”をかかげる佐官グループが第1空挺団と第32歩兵連隊を率いて首都を制圧。同日正午、首都の反乱軍は“救国臨時政府樹立”を宣言。国軍は政府軍と反乱軍に二分した。内乱勃発の年の春にすべての公立学校は休校となった。そして、両親を亡くした七歳と十一ヶ月の佐々木海人は、妹の恵と、まだ二歳になったばかりの弟の隆を守るために、手段を選ばず生きていくことを選択した―。


日本で内乱が起こり、米軍介入後も諸勢力が分裂して地方軍閥化し、地方都市には悪がはびこる。
7歳の海人は捕われて反乱軍の少年兵となる。訓練に耐え優秀な兵隊になるが、逃亡する。
弟妹を養う為に給料がもらえる政府軍の孤児部隊に入り、部隊のなかで出世し孤児部隊を掌握していく。

下巻
両親の離婚後、(双子の)月田姉妹は烏山のママの実家に引越し、屈託なく暮らした。そして応化九年の残酷な夏をむかえる。東から侵攻してきた武装勢力に、おじいちゃんとおばあちゃんとママを殺されたのだ。十四歳の姉妹は、偶然出会った脱走兵の佐々木海人の案内で、命からがら常陸市へ逃げ出した。そして――戦争を継続させているシステムを破壊するため、女性だけのマフィア、パンプキン・ガールズをつくり世界の混沌に身を投じた――。


本書は2004年9月刊行の単行本の文庫化。


打海文三(うちうみ・ぶんぞう)
1948年生まれ。2007年59歳で死去。
早稲田大学政治経済学部卒業後、映画助監督、農業に従事しながら執筆。
1992年『灰姫 鏡の国のスパイ』横溝正史賞優秀作を受賞しデビュー
1993年『時には懺悔を』
2003年『ハルピン・カフェ』で大藪春彦賞受賞
他に、『ぼくが愛したゴウスト』『されど修羅行く君は』『愛と悔恨のカーニバル』『Rの家』、『愚者と愚者』、『覇者と覇者』(未完のまま刊行)



私の評価としては、★★★★★(五つ星:是非読みたい)(最大は五つ星)

ともかく従来の日本にはないダイナミックでスケールの大きな小説だ。日本がまるでイラクのような分裂、混乱した社会になっている。世界各国からの大量の移民が入って来て、カネ目当ての傭兵も集まって、軍閥間の陰謀、裏切りの激しい。そんな中で、孤児や女性というマイノリティーが部隊を作り活躍する。
今の日本の閉塞状況、政治状況のなかで、そんな馬鹿なと笑い飛ばせないのが情けない。

戦争はビジネスでもある。兵器補充はもちろん、陣を進め大人数の兵隊を動かすには、大量の金が必要となる。金の確保の是非が戦況を支配する。地方軍閥ともなれば、そこのところがあからさまになる。この本は、戦闘そのもののシーンよりもシステムとしての、ビジネスとしての戦争が描かれている。

上巻は孤児の海人が新米の少年兵から小隊長まで上り詰める話がメインで、下巻は悪事も平然と行う双子の月田姉妹がもう一つの中心となる。双子の姉妹の話はアゴタ・クリストフの三部作を思わせるが、あの凄さの印象が強すぎて、いまひとつ迫力にかける。

細かい話だが、海人のセリフでところどころ漢字がひらがなになっているのも気になる。青年になった後でもまともな教育を受けていないことを示すためだろうが、わざわざひらがなにするのは違和感がある。

コメント
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