hiyamizu's blog

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渡辺淳一「あとの祭り 親友はいますか」を読む

2009年08月21日 | 読書2
渡辺淳一のエッセイ集「あとの祭り 親友はいますか」新潮社2009年7月発行を読んだ。

本書は「週刊新潮」に連載中のエッセイ「あとの祭り」の2008年5月から2009年5月までを加筆・修正し、改題したものだ。

エッセイ集の本の題目からさまざまなエッセイを含む内容を想像するのは困難だ。エッセイ集は著者名から内容を想像するしかない。この本も、「親友はいますか」というのは、一つのエッセイのタイトルに過ぎず、旅の紀行文、医療事故・政治・日常の話などで、お得意の男女の話はあまり登場しない。



「親友はいますか」は、この本の中ごろにある一つのエッセイだ。高校には親友がいて、職場の同期とは連帯感を感じた。しかし、地位や立場が変わると、それぞれに離れていく。年齢を重ねるごとに、男は孤独になってしまう。一つだけ癒す方法がある。それは身近に親しく何でも話せる女性を持つことだ。妻でも彼女でも良い。それが、最後の親友だ。と、渡辺さんはお得意の分野へ話を持っていく。

「愛読書とは」には、こんなことが。
かって、吉田茂元総理は、「愛読書はなんですか」ときかれてあっさり、「銭形平次捕物控え」と答えて話題となった。・・・また、川端康成氏は同じ質問に、「川上宗薫」と答えたけど。

「定年を書く」では、渡辺さんがはじめて団塊の世代を主人公として定年をテーマとして「弧船」という小説を書いていることが紹介されている。集英社の「マリソル」という雑誌に連載され、インターネットでも無料で読める。いろいろなメディアで既に言われていることではあるが、定年後、あっというまに悲惨な状況になる夫婦の姿がリアルだ。

また、以下のことも言っている。
定年後の夫婦関係を良くするためには、折をみて妻を誉め、優しく接することである。・・・いえる方法がある。その要点は、「心を入れない」ということ。
(同じこと、どこかで読んだことがある。きっと正しい方法なのだろうが、私はついつい、心を入れて妻を誉めてしまう。(この項、検閲禁止))



1933年北海道生まれ。1958年札幌医科大学医学部卒業後、母校の整形外科講師をつとめる傍ら小説を執筆。医学的な人間認識をもとに華麗な現代ロマンを描く作家。1970年「光と影」で直木賞、1980年「遠き落日」「長崎ロシア遊女館」で吉川英治文学賞、2003年紫綬褒章受章、菊池寛賞等受賞。主な著書に「花埋み」「ひとひらの雪」「何処へ」「『失楽園』「愛の流刑地」「鈍感力」「熟年革命」「欲情の作法」などがある。



私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)

手元にあれば、読むというくらいの本だ。喜寿(77歳)に近い渡辺さんのことだから、どうしても年取る話が多くなるが、相変わらす銀座にもお出ましになっているようで、「五十肩」が痛いぐらいで意気軒昂だ。スパッと割り切って考え、常に前向きな態度には好感が持てる。

渡辺さんは、今年45歳だという。還暦は60年で再び生まれた年の干支に還ることなので、還暦になったときを起点として、そこから一歳ずつ引いていくのだという。この考え方を採用すれば、私も50代前半だ。気分を入れ替えて、いまひとつ積極的に生きよう。

「卑近なかたちよ倖せといふは」の中に、「乳房喪失」という歌集を残し、31歳の若さで夭折した歌人中城ふみ子の歌が紹介されている。

かがまりて君の靴紐結びやる 卑近なかたちよ倖せといふは

私も、勤めているときは、会社のあり方や、社会や経済の状況にばかり関心があり、退職して始めて、日常の細かいことに幸せの源泉があることに気づいた。女性や子どものが関心がある狭い日常の出来事は、個人そのものにとって決して矮小なことではなく、もっとも大切で、社会などを考える基盤なのだ。



「なぜ、田母神論文がうまれたか」で渡辺さんは、日本軍が朝鮮から人びとを強制連行し、残酷に労働をさせていたことを指摘し、歴史教科書にきっかり、かって日本は侵略国家で、アジアに国の人びとを苦しめたという事実を、明確に記すべきだと主張している。
ここのところを読んで、私は渡辺さんを見直した。
自分の国が悪いことをしたなどと言うのは自虐的だと反対し、軍が強制連行したかどうかはっきりしないなどと主張する人びとがいるが、軍の直接関与の有無、強制かどうかなどの議論は学者に任せればよい。良いこともしただろうが、明らかに総体的に悪いことをした事実を素直に認め、今後の世代に問題を先送りせず、はっきり謝る勇気を持って新しい関係を築くことが肝要だと思う。


コメント
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