ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

受難の始まり

2014-09-08 | ~ 出 産 ~
「私にもう一度お相撲さんに成れと言うの?」
その問いかけに対して、主人の代わりに実父はこう言った。
「何度でも相撲取りになれば良かろう。ノルマは3人だ」
天から授かりし使命、ようやく宿った命にノルマを課す父は、鬼か、悪魔。
それにしても、妊娠の辛さ、出産の痛みが分かって貰えないとは淋しいものだ。
夫婦疎通、共鳴共感、分かち合うためにも立ち合って貰えば良かったと思った。
出産したら「安泰、安心、安全」と思っているのは、この男たちだけであろう。
地上に生まれてからが、試練、苦難、災難、困難の連続。人生の荒波は誕生から、始まる。
これらの受難を乗り越えるには体力がいる。しかし、産後は、極端に体力が消耗している。
日常生活に支障を来すほどであった。
第一に、歩行困難となる。
第二に、着席困難となる。
第三に、尿力、及び、便力がゼロに等しくなる。
実際、「部屋が空きましたので…」と運ばれてきたのは、産褥婦を運搬する車いすだった。
この日は出産ラッシュで満室、前の方の退院を待って、三時過ぎ、LDRからようやく出ることが出来た。案内された部屋は一番奥のトイレ完備の個室だった。
「どの部屋でも構わない」と最初言っていたが、当たった部屋が四人部屋じゃなくて、本当に良かったと思った。退院までの六日間母子同室、病室内缶詰め状態となるが、その間、目指せ完母(完全母乳育児)で、出せ出せ母乳でこってり搾られる。おぎゃー(乳出せぇー)と、おっぱいは小さい娘に掻き毟られ、おちょぼ口はチューチューと分泌の弱い乳を吸い上げる。乳は傷だらけ、己の馬鹿力で搾乳し、乳輪の外周はアザだらけ。この傷を癒すのは、ナースステーション前の自販機で購入可能な軟膏『ピュアレーン100』だけであった。
お乳は産後二日三日で分泌するが、十分に分泌するまでの期間、「ぎゃー、ぎゃー」と乳児は喚く。生まれたばかりの赤子の泣き声があちらこちらで木霊する…真夜中の産科病棟は違った意味で怖かった。一番怖いのは、我が子の声である。声に特徴を持つ我が子は超音波でも発しているのでは無いかと思うほど甲高い。どこまでも通る声である。産声はあんなにか細かったのに、今では館内じゅう響き渡る声で「おぎゃー(メシよこせぇー)」と喚く。
生命力溢れるこの甲高い声は、産後の疲れた心と体には、かなり堪える。
やれやれ…泣き止んだ。少し体を休ませねば…と、
「よっこら…デッ」