ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

散華の如く~坊主譲りの、我が夫~

2012-07-30 | 散華の如く~天下出世の蝶~
沢彦「分かるまで、耳をこちらに傾けておいででございます。若のお話にも、耳を御貸し下さる事でしょう」
帰蝶「うつけの相談など、受けませぬ」
沢彦「なら、坊主の頼みなら、聞いて下さいますか?」
帰蝶「御断りにございます」
沢彦「頼みを聞いてから、お断りなさいませ」
帰蝶「どうせ、うつけを好きになれだの、妻らしく振舞えだの仰るのでしょう?」
沢彦「いえ、若に、おやつを…」
帰蝶「おやつ?」
沢彦「運んで下さいませぬか?」隣の部屋から、丸ボウロの盛った皿を運んで来て、
帰蝶「へ?」渡された。
沢彦「おやつが無いと、機嫌を損ねてしまいまする」と肩をすくめて、
帰蝶「まぁ…」くす…と笑って「お子ちゃまみたい」丸ボウロの皿を受け取った。
沢彦「手が掛かります」
帰蝶「世話が焼ける若殿様だ事…」
沢彦「故に、世話好き女房が要るのでございましょうな」と、笑っていた。どうやら、私、
この沢彦 宗恩(たくげん そうおん)の知略に、まんまと引っ掛かってしまったようだった。
言葉巧みに、人の心を操るこの御坊様、尾張織田家の相談役で、信長の参謀。
信長に天下統一という野望を抱かせ、彼に『天下布武』を教えた。
我が夫 信長の奇天烈才、突飛な行動と、髭は坊主譲りで、
私にうつけの妻たらんを懇々と諭し、戦国の先の見えぬ道に光明を照らしくれた方だった。
沢彦「ここを出て、右に行かれましたら、中庭にございます。そこに若がおりましょう」
帰蝶「えぇ、分かったわ。ありがとう…」と、
部屋を出ようとして、足を止めた。
「一つ、言っておきます。何かあれば、父に文を送ります。それを胆に銘じるよう…」
沢彦「では、まず、御父上になんと文を送りましょう?南蛮かぶれにエスコート、ペルシャ文様アラベスクに丸ボウロ、地球儀と機械時計、鉄砲で天下統治を目指していると?面白き文に成りそうですな」と高笑い、
帰蝶「…」
笑い方もそっくり。これも坊主譲りだわ…。