ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

散華の如く~美しき、温かい手~

2012-07-25 | 散華の如く~天下出世の蝶~
帰蝶「美しい…心?」
沢彦「目の前に、転んだ者がいたとします。立ち上がるよう手を差し伸べる…その所作を美しいと思いませぬか?」
帰蝶「エスコート…」
沢彦「左様。共に歩くように、差し出されたその手を、神や御仏の手と重ねまする」
帰蝶「くす…」と笑って、
沢彦「説教中に笑うとは、無礼ですぞ」
帰蝶「すみません。神の手の、潰れた剣ダコが怖くて、彼の手を拒んでしまいました」
沢彦「それは、それは…。女性の心に気付かぬ、未熟な若にございますな」
帰蝶「毎日、稽古を欠かさないと聞きました。剣ダコは、その表れ。それを、恐怖するなど、私が無礼だったのです」
“無礼者ッ”
つらつら思えば、婚礼の儀で最初に無礼を働いたのは、この私。
信長の心に気付かず、非礼したのも、私だわ。
「私は、狭い心で彼を見ていました。申し訳なく存じます」
頭を下げたら、
沢彦「侘びる御方を間違えておりますぞ」
帰蝶「では、教えて下さいませ。彼の美しさに答えるには、どうしたら良いのですか?」
沢彦「こちらに…」
私をアラベスクの絨毯に立たせた。
「着物の袂を持ち、軽くひざを折り、殿方より温かい視線を受けるよう身を屈めまする」
帰蝶「こう?」
沢彦「そして、差し伸べられた手に、その白き小さき手を乗せ成され」
沢彦様が手を差し伸べた。
その時、
帰蝶「あ…」
沢彦「男の手とは、皆斯様にして醜いものにございます」
ごつごつとした、美しさからほど遠い手を、
帰蝶「いいえ、よくよくお働きに成る、美しい手にございます」と握った時、
「なんと温かい…」手の温もりが私の心に伝わった。