迫り来るコロナ氷河期 大卒内定率70%割れ
2020年11月18日 中日新聞
新型コロナウイルスの感染拡大は学生の就職活動を直撃し、これまで完全な売り手市場だった状況を激変させた。厚生労働省が十七日に発表した来春卒業予定の大学生の就職内定率は十月一日時点で七割を切った。顕著な影響は旅行業や航空業、飲食業など一部にとどまるとの見方はあるが、コロナの収束は見通せない。政府は「就職氷河期」の再来回避に懸命だ。
▼焦り
千葉県に住む外国語大学四年の女子学生(21)は昨年一月から就活を始めて約三十社を受けたが、まだ決まらない。大学で学んだ英語を生かせる海運業を目指したものの、五月ごろ採用を一時中止する連絡が相次いだ。例年と違う就活に戸惑った上、外出自粛中は友人との連絡も途絶えがち。再開への期待もあって他業界への準備は出遅れた。
美容関連の仕事に志望を変えたのは九月から。十一月も就活情報会社「マイナビ」主催の合同会社説明会に参加し「友人はもう決まっている。もっと早く動けば良かった」と落ち込む。来年の就活環境がより厳しくなることを心配し「今年中に決めたい」と焦る。
マイナビによると、二〇二一年卒業予定の大学生らの採用活動をした企業のうち20%超が内定を出す基準を前年より厳しくしていた。ボーダーラインで採用されていた学生が割を食った可能性がある。コロナで業績の厳しい企業の採用には「限界がある」(財界関係者)というのが実態だ。
▼濃い霧
先行きはさらに霧が濃い。全日本空輸を傘下に持つANAホールディングスは二二年春の新卒採用を約二百人にとどめる方針。採用活動を中止した二一年卒の約七百人から一段と削り、コロナ前からは九割以上の圧縮だ。日本航空も二一年卒の採用活動を中止するなど、就職人気で「狭き門」だった航空大手は国際線の需要激減で入り口がほぼ閉じられている。ある業界関係者は「(就職希望者には)『心苦しい』の一言だ」と漏らした。
元々人口減などで厳しい百貨店業界では「採用抑制と自然減で要員を圧縮する」(村田善郎・高島屋社長)との声が目立つ。外食大手は雇用維持すら難しい局面に立たされており、コロナ禍が長引けば新卒者が一段とあおりを受けかねない。
▼腐心
「第二の就職氷河期世代をつくらない。政府一丸となって、前途ある学生の雇用を守るため全力を挙げる」。加藤勝信官房長官は十七日の記者会見で強調。政府関係者は「厳しい数字だ」と深刻に受け止め、採用減の分析と対策を急ぐ。
政府はまた、雇用状況の悪化を踏まえ、卒業後三年以内の既卒者は新卒者扱いとするよう経済団体に要請している。こうした対策に腐心するのも氷河期世代の再来を是が非でも避けたいという思いがあるからだ。
氷河期世代はバブル経済崩壊後の一九九〇年代半ばから約十年間に社会に出た人たちを指す。就職できなかったり非正規雇用を続けたりして不安定な収入に苦しむ人が多く、このまま高齢化すれば公的支援が必要となり将来の社会保障費の膨張を招きかねない。
日本総研の山田久副理事長は、感染拡大の第三波で緊急事態宣言が出されるなど深刻な状況になればさらに落ち込むリスクが高まると指摘しこう予測する。「コロナの収束に時間がかかり、経営の先行きが見えない状況は続く。数年間は新卒採用も厳しさが残る」
コロナ解雇の増加勢い鈍る
厚生労働省は十七日、新型コロナウイルス感染拡大関連の解雇や雇い止めは、十三日時点で見込みを含めて七万一千百二十一人だったと発表した。
業種別に見ると製造業が一万三千六百七十一人と最も多かった。飲食業が一万五百六十三人、小売業が九千五百五十一人で続いた。
都道府県別で最も多いのは東京の一万六千九百十八人だった。大阪六千四百三人、愛知四千四十三人と続いた。そのほか、岐阜千五百七十三人、三重七百三十人、長野千四百九十一人、福井五百九十九人、滋賀四百五十九人だった。
厚労省によると、集計の発表を始めた五月以降で、解雇や雇い止めが最も多かった月は五月で一万二千九百四十九人。最少は十月の七千五百六人だった。十一月は月の半ばの十三日時点で千九百九十一人と、増加の勢いは鈍っている。
厚労省は二月から各地の労働局やハローワークに相談があった事業所の報告に基づき、解雇や雇い止めの人数を集計。網羅的に把握はできていないため、実際の解雇者はもっと多いとみられる。