少年兵の体験を伝えねば 沖縄戦終結75年 (2020年6月23日 中日新聞)

2020-06-23 08:57:51 | 桜ヶ丘9条の会
少年兵の体験を伝えねば 沖縄戦終結75年
 
2020年6月23日 中日新聞
 
「やあ、よく来ましたな」−。
 沖縄本島北部、大宜味村のやんばるの森に暮らす瑞慶山良光(ずけやまよしみつ)さん(91)は、優しげな目にパナマ帽が似合う快活なおじい。おしゃれをして取材に応じてくれた。笑うと右ほほの「えくぼ」がへこみ、より愛らしい。が、実はこれ「(米軍の)手りゅう弾でやられた痕」という。十六歳の時のこと−。

ゲリラ部隊「護郷隊」

 沖縄は二十三日、「慰霊の日」を迎えた。七十五年前のこの日、太平洋戦争末期の沖縄戦で日本軍の組織的戦闘が終わった。その戦争で、瑞慶山さんは当時十五〜十八歳の少年を中心とするゲリラ部隊「護郷隊(ごきょうたい)」に加わり米軍と対峙(たいじ)した。同じ少年少女で組織された鉄血勤皇隊やひめゆり学徒隊の悲劇が伝わる一方、護郷隊の過酷な運命は長年ほとんど知られていなかった。だがこれも、記憶されなくてはならない沖縄戦の実相だ。
 瑞慶山さんが護郷隊に入ったのは一九四五年三月。米軍の本島上陸の一カ月前だ。「赤紙(召集令状)なんて来なかった」。当時の法では召集は十七歳以上だが、戦況悪化で陸軍は十四歳から志願で召集できる規則を作った。瑞慶山さんらは志願していないにもかかわらず、役場から呼び出された。
 護郷隊を編成したのは、スパイ養成機関・陸軍中野学校出身の青年将校たち。仮に沖縄守備軍の第三二軍が壊滅しても、ゲリラ戦により敵を長期間かく乱させる任務を負っていた。戦いを想定する本島北部の地理に明るく兵士不足も補えると、地元の少年たちを選んだとみられる。
 軍隊への憧れもあった少年たちだが、長時間の正座や仲間内の制裁などつらい訓練が待っていた。
 そして米軍上陸から間もない四月十二日、瑞慶山さんは実戦として上官らと金武町の米軍陣地の夜襲に向かった。しかし直前、隊は野生のイノシシと遭遇して物音を立て、手りゅう弾攻撃に遭う。

口を閉ざした元隊員ら

 斜面に左向きに伏せた瞬間、瑞慶山さんの右顔面を破片が直撃。「あごが吹き飛んだと思った」。口中からは折れた歯と破片が出てきた。他の体験談も生々しい。
 「一人で偵察中、黒人米兵の小隊と遭った時には手りゅう弾をくわえ水たまりに隠れた。見つかったら即、自爆するつもりだった」
 「三人一組で爆薬十キロ入りの木箱を戦車に仕掛ける訓練をした。導火線は一秒で一センチ燃える。二十秒ぐらいでこっちも吹っ飛ぶ。あっという間だから生まれてなかったと思えば、それでいいかと」
 十六歳の少年に、何度も死を納得させた状況に慄然(りつぜん)とする。
 結果的に非力な奇襲はあまり成功しなかったが、千人近い護郷隊員中約百六十人が命を落とした。病気やけがで足手まといになり隊内で殺された例もあった。部隊は四五年七月に解散され、瑞慶山さんは故郷に戻った。ただ何年も、突然暴れるなど心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しんだ。
 幼なじみ同士が罰し合ったり、命じられて地元集落を焼き払ったりした心の傷は深く、元隊員らは身近な人にも体験を語ろうとはしなかった。当時の給料やけがへの補償もなく、少年兵の辛苦は国から無視されたままでもある。
 沖縄在住の映画監督三上智恵さん(55)は、二〇一八年公開のドキュメンタリー「沖縄スパイ戦史」で護郷隊の実態を掘り起こし、反響を呼んだ。三上さんは言う。
 「有事に軍は住民を守らない。逆に、戦闘や諜報(ちょうほう)に利用して見捨てることを描きたかった」。映画には、スパイ容疑をかけられた住民が軍により虐殺されるのを住民が手助けした、軍の陣地構築に協力した少女が秘密を知ったと殺されかけた、などの証言も登場する。共同監督の大矢英代(はなよ)さん(33)は、同作品で波照間島に潜入した中野学校出身者が島民を西表島(いりおもてじま)のマラリア地帯に疎開させ約五百人が死んだ史実を描いた。
 三上さんによれば、当時の軍部は本土の各地にも中野学校出身者を送り秘密戦の準備をしていた。終戦が遅れたなら沖縄の惨劇が本土で繰り返された可能性がある。

亡き戦友を弔う寒緋桜

 映画は過去を告発するだけではない。中国の海洋進出をにらみ、与那国島や宮古島など、沖縄の先島諸島には陸上自衛隊の配備が進む。防衛情報を集め住民を監視する情報保全隊も配置される。作品は「戦争は軍隊が駐留した時点で始まる」(三上さん)との視点から、現代でも自衛隊は本当に住民を守るのか−と鋭く問い掛ける。
 沖縄戦から七十五年の夏。瑞慶山さん宅の裏山では、日本一早く咲く琉球寒緋桜(かんひざくら)が濃い緑の葉を茂らせている。瑞慶山さんが約二十年前から死んだ戦友の数だけ植樹してきた。今ではこの桜守(さくらもり)のため長生きしていると感じるという。
 「桜を見てみんなに沖縄戦を思い出してもらおうと。戦のこと忘れたらまた地獄が来ますよって」
 

年金の改革 現役世代の不安解消を (2020年6月22日 中日新聞)

2020-06-21 09:06:40 | 桜ヶ丘9条の会

年金の改革 現役世代の不安解消を

2020年6月22日 中日新聞

 パートなどの非正規雇用で働く人への厚生年金の適用が拡大される。年金制度改革関連法が先の通常国会で成立した。働く現役世代の将来不安を解消するため、制度改革の手を緩めるべきでない。
 少子高齢化が進む中、年金制度の見直しは喫緊の課題である。
 より多くの人の年金受給を増やす関連法が、新型コロナウイルスの感染拡大への対応が迫られる中でも審議が先送りされず、成立したのは当然だろう。
 関連法の柱はパートなど非正規雇用で働く人たちが厚生年金に加入できるようにする適用拡大である。
 労働時間が短く一定以下だったり、一定の従業員規模に満たない企業で働く非正規雇用の人は、職場の厚生年金に加入できず、自分で国民年金に入るしかない。
 厚生年金に加入できるようになれば、国民年金より保険料負担は減り、将来受け取る年金額は充実する。その上、年金制度の支え手を増やすことにもなる。
 関連法により、適用される企業の従業員規模が見直され、約六十五万人が新たに加入できる。
 しかし、見直しは限定的だ。雇用されて働く人は本来、雇用形態や職場の規模に関係なく厚生年金に加入できるのが筋だろう。さらに適用拡大を進める必要がある。
 適用が広がらない要因の一つに新たに保険料負担が生じる中小企業の反対が挙げられる。厚生年金の保険料は労使折半。加入する従業員が増えればその分、企業の保険料負担は増えるからだ。
 政府には、中小企業の経営者らにも粘り強く理解を求め、実現への環境整備を進める責任がある。
 少子高齢化で受け取る年金額の目減りは今後、避けられない。国民年金は厚生年金より目減り幅が大きくなる。加入期間を四十年から四十五年に延ばし、年金額の底上げを図る見直し案は関連法には含まれなかった。今後の課題だ。
 コロナ禍により年金など社会保障制度も影響を受ける。失業すれば保険料を払えなくなり、減収でも払う保険料が下がる。それでは将来、受け取る年金額も減りかねない。
 雇用確保は、働く人々の日々の生活だけでなく、将来の安心を支えるためにも重要な問題だ。政府は雇用安定を最優先にあらゆる対策を打つべきだ。
 経営環境も、厳しさを増している。企業が負担する保険料の納付猶予などにも柔軟に対応したい。
 「老後の安心」の実現は現役世代の不安解消にもつながる。年金制度は不断の見直しが必要だ。
 
 

 

 
 
 
 
 
 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 
 

 

 

河井夫妻逮捕 焦点は党の巨額資金だ (2020年6月19日 中日新聞)

2020-06-20 09:00:27 | 桜ヶ丘9条の会
河井夫妻逮捕 焦点は党の巨額資金だ
 
2020年6月19日 中日新聞
河井案里参院議員と夫の克行前法相が逮捕された公選法違反事件。参院選を前に広島の地元政界に配った金が買収にあたるとの容疑だ。自民党本部からの巨額資金との関連も徹底解明が必要だ。
 約百人もの広島の地元議員らに現金約二千六百万円が配られたという。昨年七月の参院選をめぐり、なぜ大規模な公選法違反事件が起きたのか。まず選挙戦の背景事情を知る必要があろう。
 もともと自民一、野党一で分け合っていた参院広島選挙区(二人区)に、もう一人自民党から出馬させることは、政権中枢で決めたことだ。県議だった案里容疑者に白羽の矢が立てられ、公認候補として正式に決まったのは昨年三月である。
 野党候補が一定の支持基盤を固めているとするならば、案里氏の当選のためには、現職だった溝手顕正氏の票を分け合う形にしなければならない。溝手氏は参院自民党議員会長もつとめた重鎮だ。
 従来の参院選なら溝手氏一本で支持に回った地元議員らも、溝手陣営と案里陣営に分かれて、票の調整と配分が必要だったはずだ。そのため一人あたり数万から数十万円というカネが必要だった−そんな筋書きが考えられる。
 現金を渡した相手が元県議会議長や市議会議長、首長らだったのは、調整のためではないか。党から支出された一億五千万円にのぼる巨額資金も、そんな背景事情を押さえると理解しやすい。
 何しろ溝手陣営には、その十分の一の資金しか提供されなかったのだから…。つまり事実上は溝手氏の票を奪い合う結果を招き、実際、溝手氏は落選した。
 検察当局は今後、現金供与が選挙戦での「当選目的」であることを立証せねばならない。授受は昨年三月から同八月だったとされるが、河井夫妻は買収の事実を否定している。
 立証に困難が伴うのは、政治家は常に地盤を培う政治活動を続けており、現金供与がそれと区別される必要があるためだ。選挙と月日が離れた場合はなおさらだ。徹底捜査で金権選挙の実態を暴き出してほしい。
 何より解明が求められるのは、党本部や政権中枢の具体的な関与である。克行容疑者は首相補佐官や法相を歴任した首相側近だ。「前法相逮捕」は前代未聞である。政権が関わる選挙だけに、党総裁たる安倍晋三首相には偽りのない説明とともに、任命責任の重さが突きつけられるはずである。

 

 
 
 
 
 

河井夫妻逮捕 政権の責任免れぬ (2020年6月19日 朝日新聞)

2020-06-19 10:05:01 | 桜ヶ丘9条の会

河井夫妻逮捕 政権の責任は免れぬ

2020年6月19日 朝日新聞

8カ月前には法務行政をつかさどる法相の立場にあった衆院議員が、妻の参院議員とともに、大がかりな買収容疑で逮捕された。民主主義の土台である選挙の公正さと、政治への信頼を深く傷つける前代未聞の事態である。

 東京地検特捜部がきのう、河井克行前法相と妻の案里参院議員を公職選挙法違反容疑で逮捕した。案里議員が初当選した昨年夏の参院選をめぐり、地元の県議ら計94人に、現金約2570万円を渡した疑いがもたれている。

 昨年10月、案里議員の陣営が車上運動員に法定上限を超える報酬を支払っていたことが明るみにでて、克行議員は法相を辞任した。以来、説明責任を果たすといいながら、広がる疑惑に対し、夫妻が口をつぐんだまま今日に至ったことは厳しく批判されねばならない。

 逮捕される直前になって、そろって自民党を離党したが、これも党に迷惑をかけたくないという理由からであり、政治責任の重さを全く理解していないと言わざるをえない。

 安倍首相は通常国会閉会を受けたきのうの記者会見の冒頭、夫妻の逮捕に触れ、「大変遺憾。法相に任命したものとして責任を痛感し、国民に深くおわびする」と述べた。

 しかし、首相が問われるべきは、任命責任だけではない。今回の事件の背景に、改選数2の広島選挙区で、自民党公認の現職がいたにもかかわらず、安倍政権が2議席独占を掲げて新顔の案里議員を強引に擁立したことがあるとみられるからだ。

 公示まで4カ月を切った時期に公認された案里議員へのてこ入れのため、党本部からは落選した現職の10倍の1億5千万円もの政治資金が提供された。この潤沢な元手が、なりふりかまわぬ運動につながり、現金ばらまきの原資にもなったのではないかとの疑いは拭いきれない。

 自民党二階俊博幹事長は、党本部で公認会計士が各支部の支出を厳格にチェックしており、「巷間(こうかん)いわれる使途には使えない」と記者団に語り、首相も会見でその発言を紹介した。しかし、単なる口頭での説明をうのみにはできない。

 選挙運動を仕切り、現金配布を主導したとされる克行議員は、首相補佐官や党総裁外交特別補佐を歴任するなど、首相に近かった。首相は自らの秘書を広島入りさせるなど、陣営の活動に深くかかわっている。

 少なくとも首相と党執行部の政治責任は免れない。党の提供資金とは無関係というのであれば、具体的な使われ方を、納得できる根拠とともに示してもらわねばならない。

 


役割を果たさぬ怠慢 通常国会が閉会 (2020年6月18日 中日新聞)

2020-06-18 08:41:15 | 桜ヶ丘9条の会

役割を果たさぬ怠慢 通常国会が閉会 

2020年6月18日 中日新聞
 通常国会が会期を延長せず、きのう閉会した。新型コロナウイルスの感染拡大で、国民の暮らしや仕事が脅かされ、政治の役割は増しているにもかかわらず、国会はなぜ、国民から負託された役割を果たそうとしないのか。切実な思いが届かないもどかしさを抱いた人も多いのではないか。
 通常国会は一月二十日に召集された。会期は百五十日間だが、当然、延長は可能だ。特に今年は、新型コロナの感染再拡大も想定され、新たな対策や予算の確保が必要になるかもしれない。
 そのとき、国会開会中なら、迅速な審議や対応が可能になる。野党側が会期を年末まで、大幅に延長するよう求めたのは当然だ。

与党は政府擁護を優先

 しかし、与党側は野党要求を拒否し、延長なしの閉会を決めた。当面週一回、関係委員会で閉会中審査を行うことで与野党が合意したものの、野党から政権追及の機会を奪いたいと、与党側が考えているとしか思えない。
 憲法は、国会を「国権の最高機関」であって「国の唯一の立法機関」と定める。法律も予算も条約も、国民の代表で構成する国会での議決や承認がなければ効力が生まれず、政府は内政外交にわたり政策を遂行できない仕組み、議会制民主主義である
 国会には国政を調査し、行政を監視する重要な仕事もある。政府が法律など国会の議決に基づいて仕事をしているか、主権者である国民を欺くようなことをしていないか、調べる仕事だ。
 こうした役割に与野党の別はないはずだが、特に与党議員は、国民から託された仕事を全うしたと胸を張って言えるのだろうか。
 野党の厳しい追及から、安倍晋三首相率いる行政府を守ることを最優先しているのではないか。そう疑われても仕方があるまい。

財政民主主義を脅かす

 今年の通常国会は政権疑惑の解明を持ち越して始まった。昨年後半に野党追及が本格化した「桜を見る会」の問題、さかのぼれば森友・加計学園を巡る問題だ。
 共通するのは、首相に近しい関係者への厚遇であり、それが発覚した後、首相に都合の悪い記録を抹消する政権全体の悪弊である。
 これらは国会での議論の前提になる行政の信頼性に関わる問題だが、真相解明には至っていない。野党の力量不足はあるにせよ、それ以上に、与党の問題意識の欠如を指摘せざるを得ない。
 加えて、不問に付すわけにいかないのが、黒川弘務前東京高検検事長の定年延長問題である。
 政府は一月、検事の定年に適用しないとしていた国家公務員法の解釈を変え、黒川氏の定年を延長したが、法律の解釈を、政府が勝手に変更していいはずがない。
 しかも、菅義偉官房長官は法解釈変更に関し、「人事制度に関わる事柄については、必ずしも周知の必要はない」と強弁した。
 政府が国民に知らせず、国会で成立した法解釈を勝手に変えるのは「密室政治」そのものだ。三権分立を破壊する安倍内閣の身勝手な振る舞いは許されない。
 さらに予算を巡る問題である。
 未曽有の危機にあって、国民の暮らしや仕事を支えるために、政府の財政支出が一時的に膨張するのはやむを得ないが、予算の使い方が正しいか、質疑を通じて精査することこそ国会の仕事だ。
 しかし二〇二〇年度第一次補正予算に関し、国会は一兆六千七百九十四億円に上る「Go To キャンペーン事業」や中小企業などを救済する持続化給付金の事務委託問題を見過ごし、成立させてしまった。
 事務委託を巡る経済産業省の前田泰宏中小企業庁長官と請負業者との不透明な関係や、下請けの連鎖など業者の適格性が疑われる問題は解明されず、国会が行政監視の役割を果たしたとはとても言い難い。
 二次補正に盛り込まれた予備費も同様だ。憲法で認められているとはいえ十兆円は巨額である。
 政府は、うち五兆円については雇用や医療体制の維持などおおまかな使途を示したが、事前に国会の承諾を経ない巨額の予算支出は「財政民主主義」に反する。

緊急事態条項の的外れ

 コロナ禍に乗じて自民党内では一時、憲法を改正し、「緊急事態条項」を設ける議論が浮上した。大規模災害などの発生時に、国会議員の任期を延長したり、法律と同じ効力を有する政令の制定権を内閣に与える内容である。
 緊急事態時の政治空白は避けるべきだが、政府に立法権を事実上委ねるのではなく、事前の法整備に万全を期すことこそが国会の役割ではないのか。立法府の役割を解さないから、緊急事態条項の議論に安易に飛び付くのだろう。
 この国会を振り返り、全国会議員、特に与党議員はいま一度、国権の最高機関としての重い役割を自覚し直すべきである。