誰かの役に立つ喜び 「働く」って何だろう(2018年11月23日中日新聞)

2018-11-23 08:49:44 | 桜ヶ丘9条の会
誰かの役に立つ喜び 「働く」って何だろう 

2018/11/23 中日新聞
 人手を安く埋めるだけのような外国人就労。経営者目線の働き方改革。障害者雇用の水増し…働く意味がかつてなく問われている。きょう、勤労感謝の日。

 「ただ目の前に並べられた仕事を手際よくこなしてく」-。

 人気グループ、ミスター・チルドレン(Mr.Children)の『彩り』という曲の歌い出しだ。

 自動車組立工場の夜勤で、朝まで単純作業を続ける従業員。やるせなさを感じながらも、小さなやりがいを持って働く姿を明るい曲調で描写した。高校の「倫理」の資料集(教科書の副教材)で青年の生き方を考える章に紹介されたこともある。

働く人たちの思い代弁


 歌の続きはこんな内容だ。

 自分の単純作業ででき上がった物が、どこかで誰かの幸せに役立っているかもしれない。そんな些細(ささい)なことをやりがいにして、モノクロのような毎日を彩ろう-。

 作詞作曲した桜井和寿さん(ボーカル)は曲を作るきっかけについて、かつて語ったことがある。

 一緒にサーフィンに行った友人が夕方、一足先に帰るという。工場の夜勤のためだった。まとまった休みも取りにくいのに、それでも淡々と働いている。

 そんな友人の姿に「自動車を組み立てる作業だって、まわり回って大事な仕事だよ」-ふと思いついたメッセージを込めた。

 桜井さんは、はやりの言葉でいえば、言動が社会的に大きな影響力を持つインフルエンサー。いわば成功した人だ。そうした人間が、必ずしもそうではない人たちの思いをすくい取り、代弁したことが共感を呼んだ。

 見方を変えれば、この国の経営者や権力を持つ人たちのどれほどが、真面目に働く人たちのやりがいや尊厳に心を砕いてきたか。

 ひたすら安い労働力の置き換えに没頭し、派遣労働やフリーランスの業務請負、外国人実習生らを拡大させようとしてはいないか。

中央省庁の罪深い行為


 誰かの役に立つことは仕事のやりがいであり、生きがいになる。人間にとって幸せを追い求める本能的行為といわれる。

 それは障害者も同じ。中央省庁などで発覚した障害者雇用の水増しは、障害者の幸せを得る機会を奪ったという点で罪深い。

 対照的に、障害者雇用に積極的に取り組む中小企業を紹介した記事がある。中日本高速道路から広報研修で中日新聞の記者を経験する中村玲菜さんがまとめたものだ(10月4日付地域経済面)。

 愛知県豊明市のリサイクル業「中西」では、知的障害の従業員がベルトコンベヤーの前でガラス瓶など資源ごみを仕分ける。

 <「真面目にこつこつ」が求められる作業には向いている。集中を切らさず、反復作業に当たってもらえる>

 健常者の集中力が続かない作業も黙々とこなす。適材適所で活躍できるということだ。

 もちろん成功ばかりではない。

 <(別の企業で)金曜には完璧にできた作業が、月曜になると手順が分からなくなることも>

 サポートは根気がいるが、職場に一体感が生まれるメリットもあると、記事はつづっている。

 ではなぜ障害者雇用を率先する立場の中央省庁は誤ったか。「雇ったことにできるなら、ごまかしてもいいか」といったものだったろう。ある省庁で「任せられる仕事が少ない」との声を聞いた。そのままで任せられない仕事なら段取りや仕組みを工夫する-そういう発想もなかった。

 政府が働き方改革で強調するのは、生産性向上という尺度だ。教えるのに時間がかかる障害者雇用と相いれないし、手間暇かけていい物をこしらえる日本のモノづくりの伝統とも親和しない概念だ。

 京都に一澤信三郎帆布という根強い人気を誇る老舗かばん店がある。一点一点職人が手作りし、修理を受け、長く使い続けるかばんを提供する。京都の店でしか売らない。「目の届く範囲、責任を取れる形で売る」からだ。

 そんな店の姿勢を在京テレビ局の人気番組が五月に放送した。爆発的に客足が増え、かばんは瞬く間に品薄に陥った。注文は受け付けるが入荷まで三カ月待ちだ。

利益優先より大切な事


 もうけを考えれば、七十人いる職人に残業を求め、人数を増やすだろう。だが、そうはしない。

 一澤信三郎社長は平然として言う。「世間は利益率やら投資効果、利便性のことばかり。だが暮らしに何十年と役立つものは、そんなものからは生まれまへん。だから、とことん時代に遅れ続けような、って言うてんです」

 職人の生活を守り、品質を守り、いいものを作り続ける。それが使う人の役に立つ。

 働くとはつまり、人をつなぎ、人を守るものではないでしょうか。
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ゴーン会長逮捕 巨額報酬の闇にメスを (2018年11月20日中日新聞)

2018-11-20 09:20:29 | 桜ヶ丘9条の会
ゴーン会長逮捕 巨額報酬の闇にメスを 

2018/11/20 中日新聞
 日産自動車のゴーン会長らが逮捕されるという衝撃的な事態が起きた。日産を救った人物だが巨額の報酬を過少記載していたという。格差拡大の中、富裕層に闇があるならメスを入れるべきだ。

 世界的なタイヤメーカー、ミシュランで頭角を現したゴーン容疑者は、フランス自動車大手、ルノーの役員を経て一九九九年、経営危機に陥っていた日産に乗り込んだ。工場の閉鎖、子会社の統廃合など、それまで日本人の経営陣ができなかった立て直し策を次々実行し、数年で経営を立て直した。

 「コストキラー」の異名を持ち、米経済誌が「最強の事業家の一人」と持ち上げた。以来、ゴーン容疑者は日産、ルノーのほか三菱自動車の経営トップにもなり、世界的な経営者として君臨した。

 その人物が長年、自分が得ていた巨額報酬を有価証券報告書に過少に記載していたと指摘されているもようだ。事実なら、あまりにショックが大きい。

 経営危機の際、日産は取引先を含め塗炭の苦しみを味わった。ライバルのトヨタ自動車に大差をつけられ辛酸をなめた。それを助けたのがゴーン容疑者だ。彼は社内では可能な限り日本語を使い、「信じてください」と呼び掛けた。社員は意気に感じただろう。

 その人物が裏切っていたとしたら、共に立て直しに頑張った社員や関連会社の人たちはどう思うのだろう。

 著書「21世紀の資本」で格差について警鐘を鳴らしたフランスの経済学者トマ・ピケティ氏は、金持ちに対する所得の累進課税を以前のように強化し、株式や不動産などあらゆる資産に対しても価値の大きさに応じた課税を導入すべきだなどと主張している。

 日本ではかつて所得税の最高税率は国税と地方税合わせ90%超だった。しかし、今では最高税率は55%にまで引き下げられた上、金融所得に対しては分離課税で一律20%と、富裕層にかなり有利な税制になっている。

 さらに最近、パナマ文書などで日本を含む世界の富裕層が巧みに課税逃れをしている実態も分かってきた。

 富裕層はどこまで貪欲なのか。これが一般の人々の正直な感想だろう。人生で、ゴーン容疑者が得ていたような年十億円以上もの所得は必要なのか。格差の著しい拡大は人々の心を傷つけ、働く意欲をそぐ。今回の事態を、不条理な経済格差是正の突破口としたい。
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9条の会 桜ヶ丘・可児通信 No.119 (2018年11月19日)

2018-11-19 17:25:47 | 桜ヶ丘9条の会
九条の会桜ヶ丘・可児通信No.119から転載

先月21日(日)、わが「アーラ文化会館」で加茂地区九条連絡会主催の映画「コスタリカの奇跡」と「見てきたコスタリカ」の報告会に参加しましたので、その感想などを綴ってみました。
 コスタリカってどこ❓そんな疑問もあります.コスタリカ共和國、遠く中米の人口約500万人で移民・難民が2割、面積・わが九州と四国を合わせたくらいの國、首都はサンホセ、年中「夏の軽井沢・標高1200m」、民主、自由、独立、多民族、多文化の共和国で(憲法第1条)、軍隊を持たない(憲法第12条)・中立国、大統領・国会議員は任期4年、連続再選禁止で、女性議員が44%、概ねこのような小国です。
 報告会のみなさんは今年の8月21日〜29日まで滞在されたようです。

 主な訪問先
⑴国会 ⑵選挙最高裁判所・民主主義形成研究所 ⑶アリアス元大統領 ⑷小学校(公立) ⑸子供の博物館 ⑹ジャーナリスト協会 ⑺ソリス前国会議員 ⑻国立博物館 ⑼サモラ弁護士などを訪問したと報告されました。

  この集会に参加して感動したこと


① 誰でも憲法活用 憲法裁判所「人権は常に守られなければならない」として、違憲訴訟は24時間、365日受付、年間2万件、小学生お訴訟可能とか。これには、わが日本国憲法では「請願権」(憲法第16条)の規定はあるが、私たちは裁判となると❓❓です。それよりも日常の体験上、各種請願署名をお願いしてもほとんど受動的で、自己意識から主体的に署名にサインする大人は少ない現状だし、子供に至っては全く無関心であるのが日常です。蛇足ですが、ある弁護士に「請願権」は成人だけなのか、それ以外の子供にも行使できるのかを質問したが回答がなかった。
 あなたならどう答えますか❓

②コスタリカでは、教育費は無償で、全教科の基本は「平和」「人権」であり→義務教育は、13年制。公教育省のスタンスは「援助はするが強制はしない。現場の先生が考えるべき、とする。

③世界報道自由度ランキングは、コスタリカ、昨年・一昨年と世界6位。日本72位。

④電力99%、再生可能エネルギー、原発0、国土の3割が保護区、「緑の國」を子孫に、の政治。

⑤軍隊を無くした理由は、資源がない貧しい国だったから、「軍事費を、福祉や教育に使おう」と宣言した。トラクターは、戦車より役に立つ。兵士の数だけ教員を増やそう。2キロ圏内に小学校を作った。兵舎は博物館にしよう。「武器は勝利をもたらすが、法律だけが自由をもたらす」と。

⑥映画「コスタリカの奇跡」では、日本国憲法制定(1947年)2年後に平和憲法制定→軍隊を捨て、中立国宣言の闘いが放映されましたが、アメリカ州に位置していたことから米国の圧力や近隣諸国への影響など、内外の理解を得るための活動は、短い映像で理解するには十分ではなかったが大変な苦労があったと想像できました。特に、憲法9条を持つわが日本国では、これまでコスタリカの歴史(苦労話)の情報提供は皆無であっただけに、世界報道の自由度ランキング72位と報告があったように、大いなる疑問と反省を持ち帰りました。同時に中米の小国家が人類の到達点「反戦・非武装・共栄・友好」を憲法に取り入れ、それを理想として国づくりの暮らしを実践されている時代が来ていることを知り、大いに勇気を貰って帰りました。

伊方原発容認 安全神話の復活なのか(2018年11月17日中日新聞)

2018-11-17 09:37:11 | 桜ヶ丘9条の会
伊方原発容認 安全神話の復活なのか 

2018/11/17 中日新聞
 噴火も地震も取るに足らない、避難計画は不完全でもいいと言うのだろうか。四国電力伊方原発の運転差し止めを求める住民の訴えを司法はまたもや退けた。「安全神話」の亡霊を見る思いである。

 「原子力規制委員会の審査には合理性があり、四国電力が策定した最大の地震の揺れや噴火の影響についての評価も妥当」-。

 高松高裁は、四国電力が示したデータに基づいて、規制委がくだした新規制基準への「適合」判断を丸ごと受け入れたかのように、住民側の訴えを退けた。

 破局的噴火は予知できない、地震の揺れの評価方法に問題がある-という専門家の指摘も顧みず、九月の広島高裁、大分地裁、そして今回と、繰り返される判断だ。

 一方で高松高裁は、原発周辺の自治体が策定を義務づけられた避難計画に関しては、陸路も海路も輸送手段に懸念があって、屋内退避施設も不足しており、「不十分だ」と認めている。

 再三指摘してきたように、日本一細長い佐田岬半島の付け根に位置する伊方原発は、周辺住民にとって、“日本一避難しにくい原発”との声もある。

 実際に事故が起きたとき、原発の西側で暮らす約四千七百人の住民は、船で九州・大分側へ逃れる以外にないのである。

 海が荒れれば船は出せない。地震で港湾施設が被害を受けたらどうなるか。避難者を港へ運ぶバスなども、確保できる保証はない。その上、屋内退避場所さえ、足りていないというのである。

 現状では、多くの住民が避難も屋内退避もできず、放射線の危険にさらされる恐れが強い。そのような認識がありながら、司法はまたも住民の訴えを退けた。避難計画の軽視が過ぎる。

 規制委が基準に「適合」すると認めた以上、福島のような過酷事故は起こり得ない、との大前提に立つからだろう。

 これでは、安全神話の復活と言うしかないではないか。

 規制委は、原発のシステムが規制基準に「適合」すると認めただけで、安全の保証はしていない。規制委自身も認めていることだ。避難計画の評価もしない。それなのに規制委の審査結果を司法は追認するだけだ。こんなことでいいのだろうか。

 責任は棚上げにしたままで、原発の稼働が次々許される。

 「安全神話」が前提にある限り、福島の悲劇はいつかまた、繰り返される。

「徴用工」ではなく「労働者」❓ 安倍政権言い換えに批判噴出(2018年11月14日中日新聞)

2018-11-14 10:19:36 | 桜ヶ丘9条の会
「徴用工」ではなく「労働者」? 安倍政権言い換えに批判噴出 

2018/11/14 中日新聞


 日本政府は韓国最高裁が出した韓国人元徴用工訴訟の確定判決を巡り、原告に対して従来使ってきた「徴用工」という呼称を、「労働者」と言い換え始めた。原告たちが自ら労働に応募したとして、強制性を薄める狙いとみられるが、「歴史を曲げる行為だ」と批判が噴出している。

 「政府としては『朝鮮半島出身の労働者の問題』と言っている」。発端は一日の衆院予算委員会での安倍晋三首相の発言。判決について問われた安倍首相は、動員には募集、官のあっせん、徴用の三種類があったとし「今回の原告は募集に応じた人々」と主張した。

 政府は首相の国会答弁と足並みをそろえ、判決後は原告などを「旧朝鮮半島出身労働者」と表現。「自分から応募した」というイメージづくりに躍起だ。

 だが、急な変更に閣僚の対応もおぼつかない。河野太郎外相は九日の記者会見で、「政府として『徴用工』という言い方をしないという決定をしたのか」との記者の質問に「募集に応じた方というふうに理解している」と、首相発言をコピー。政府答弁で使っていた「徴用工」を変える理由を尋ねられると「現実にそういうことだから」。「徴用という言葉を使わないことが、歴史にこだわるというメッセージになるのでは」と追及されても、「原告は徴用された方ではない」とはぐらかすだけだった。

 今回の訴訟は、日本の植民地時代に強制労働をさせられたとして、韓国人四人が新日鉄住金(旧新日本製鉄)に損害賠償を求めていた。日本政府と同社は、元徴用工への請求権問題は一九六五年の日韓請求権協定で解決済みとの立場だが、韓国最高裁は原告の個人請求権は協定で消滅しないと判断。原告を「強制動員された被害者」と位置付け、同社に対し請求全額を支払うよう命じた。

 判決では、原告が経験した労働実態にも触れた。募集広告は「日本で二年間訓練を受ければ技術を習得でき、終了後は朝鮮半島の製鉄所で技術者として就職できる」と甘い言葉が並んでいた。だが、実際に日本で働くと「月に二、三円程度の小遣いだけ支給。賃金を入金した原告の口座の通帳と印鑑は寄宿舎の舎監が保管し、本人に渡さなかった」「逃走が発覚して七日間殴打され、食事も与えられなかった」など、ひどい扱いだったとした。

 当時の日本側の態勢について、「調査・朝鮮人強制労働」などの著書がある近代史研究者の竹内康人さんは「企業の『募集』は政府の計画に沿い、政府が承認した人数を募った。つまり政府が企業と取り組んだもの」と指摘する。国民徴用令が朝鮮半島で適用されたのは四四年だが、それ以前の三九年から、戦争遂行のための労働力配置を定めた「労務動員計画」(後の国民動員計画)で、朝鮮半島の人々も労働力として毎年計画的に送り出されたという。

 竹内さんは「募集で集まらなくなると、朝鮮総督府を通じてあっせんが始まった。今回の原告も募集の甘言にひかれた人ばかりではなく、行政の指示を受けた人もいる」と説明。言い換えで「個人の自由」を強調する安倍政権の姿勢を「実態を理解せず、自分に都合のいい言葉を作って事実を変える。物事の本質を隠す振る舞いだ」と批判する。

 一橋大の田中宏名誉教授(日本アジア関係史)も「労働者という言葉は、企業と個人の自由な労働契約をイメージさせる。だが、このケースは違う。国の政策の一環だ」と言い切る。言葉の言い換えに躍起になる政権にあきれる。「小手先の議論は歴史を曲げる行為だ。朝鮮半島に限らず、日本は戦時中にアジアの人々にしたことに向き合わなくてはならない」

 (中沢佳子)

◆強硬「解決済み」国際世論に逆行

 韓国人元徴用工訴訟の判決に対し、安倍晋三首相は「一九六五年に締結した日韓請求権協定で解決済み」と繰り返す。だが強硬な姿勢だけで本当にいいのだろうか。時代の経過とともに、植民地支配下の人権や責任を巡る国際世論には変化が見られる。

 安倍首相は「国際法に照らしあり得ない判断」と、他国の司法判断に対して異例ともいえる強い批判を表明した。河野太郎外相も「両国の友好関係の法的基盤を根本から覆す」と韓国の駐日大使に抗議した。

 日韓請求権協定は財産や権利に関する問題が「完全かつ最終的に解決された」ことを確認しているためだ。協定に基づき、日本から経済協力として当時の約千八十億円に当たる三億ドルの無償供与や二億ドルの長期低利貸し付けが行われた。

 ただ、韓国の最高裁は二〇一二年、「個人請求権は消滅していない」とする判断を示している。「日本の植民地支配を不法とする韓国の立場からすれば予想された判決だった。この間の日韓両政府の不作為こそ問われるべきだ」。市民団体「戦後補償ネットワーク」世話人代表の有光健さんは語る。

 原告の李春植(イチュンシク)さん(94)は一九四三~四五年、当時の日本製鉄釜石製鉄所で働いた。「技術を学べる」と言われたが、一日十二時間石炭を運ぶ単純労働をさせられ、賃金はもらえなかった。熱い鉄材の上に転んでできた傷痕が腹に残る。

 有光さんは「動員による加害の事実は消えない。戦後七十年以上たっても訴え続ける元徴用工の心情をくまず、『あり得ない』と突っぱねれば、日本国内の嫌韓感情をあおるだけだ」と懸念する。

 背景にあるのは、植民地支配下の人権を巡る国際世論の変化だ。九〇年代以降、歴史を支配者の視点ではなく、弱者の人権を尊重する立場から問い直す動きが広がった。ネットワークによると、日本でも九〇年以降、韓国や中国の元徴用工による未払い賃金訴訟など被害補償を求める裁判が続いた。だが、被爆訴訟など一部を除き二〇〇〇年代までに敗訴が確定した。

 「日本の経済協力は韓国のインフラ整備に回され、被害者には行き届いていない。時間がたてば積み残した問題も出てくる」と有光さんは指摘する。

 ナチス・ドイツによる強制労働を巡っては戦後補償の枠から漏れながら、東西冷戦の終結で救済が可能になった人々を対象に二〇〇〇年、「記憶・責任・未来」基金が設立。約百カ国の百六十六万人に約四十四億ユーロ(約七千二百億円)が支払われ、その資金はドイツ政府と企業が拠出した。

 今回の判決を受け、新たな賠償請求が相次ぐ可能性がある。有光さんは日韓請求権協定の枠組みを維持しつつ、日韓の政府と企業が共同で基金をつくり、元徴用工への補償に充てるのも解決方法の一つと考える。「日韓がやるべきことは他国の戦後処理も参考に外交交渉を行うこと。歴史認識の差異を埋めるのは容易ではないが、文在寅(ムンジェイン)大統領は早期に来日し、日本国民に直接、問題解決への協力を訴えてはどうか」と話す。

 (安藤恭子、大村歩)