規制委発足1年 設置の原点を忘れるな(2013年9月20日 中日新聞社説)

2013-09-20 08:49:25 | 日記
中日新聞は、2011年3・11の東北大震災と福島原発事故直後から、社説で今後の編集基本を明確にし、以後の記事は、一貫している。準大手新聞としてこの編集方針は、多くの読者を獲得しはじめていて、数年前から政府翼賛記事が増えた朝日新聞の足元を揺るがせ始めている。
他の新聞、テレビがリニアを無批判にJR広報だけを垂れ流して、まるでリニアには、問題はまったくないかのような報道ぶりに比べれば、反対市民運動の意見も載せているが、しかし、原発事故批判にくらべると腰の引けた報道ぶりだが、しかし、市民グループの意見を無視する他の報道よりはましである。
今日の社説は、発足から1年もたつのに、もたもたする原子力規制委員会に改めて釘をさした社説である。


【社説】

  規制委発足1年 設置の原点を忘れるな      2013年9月20日


 原子力規制委員会が発足して十九日で一年となったが、原点に対する思いが薄らいではいないか。東京電力の福島第一原発事故を教訓に二度と同じような惨劇を起こさないため、という原点を。
 「原子力への確かな規制を通じて、人と環境を守ること」。規制委が高らかに掲げる使命である。だが現実はどうか。フクシマの放射能汚染水漏れ対策は後手後手に回り、人の営みも、安心できる環境も守られてはいない。海外の厳しい視線も強まるばかりである。
 前身の原子力安全・保安院は原発を推進する立場の経済産業省の下に置かれ、「専門性の欠如等から規制する側が事業者の虜(とりこ)となった」(国会事故調査委員会報告書)との反省から、規制委は独立性や中立性、専門性の高い組織を目指したはずだ。七月に施行した原発の新規制基準は、過酷事故対策を義務づけ、地震や津波対策も大幅に強化し、運用次第では確かに世界で最も厳しいといえるかもしれない。
 しかし、断層調査などを見るかぎり、電力会社の調査頼みの部分も目立ち、自らの手で調べる調査能力の不足は否めない。人材や技術の確保は喫緊の課題である。
 自民党や経済界の多くが原発再稼働に前のめりの中、国民が規制委に期待するのは、何ものにも揺るがない「安全にかける厳しさ」だ。二度と郷土を放射能で汚してはならない、今ある危機を一刻も早く収束させて…。そんな切なる願いである。
 現在、稼働原発はゼロだが、すでに四電力会社が六原発計十二基について新規制基準の適合審査を申請中だ。最も危惧するのは、東電が柏崎刈羽原発(新潟県)を申請する構えを見せていることだ。
 東電は、破綻回避のためには柏崎刈羽の再稼働による収益改善が欠かせないとする。規制委は、申請があればあくまで柏崎刈羽の適合性を審査する考えだが、これは理解できない。フクシマの原因究明も総括もないまま、しかも汚染水対策ができない東電に原発を稼働させる資格があるか、という問題である。
 汚染水対策で国費四百七十億円が投入される。東電と何ら関係ない国民に負担を強いるのである。十九日に現地を訪れた安倍晋三首相は、あらためて国が前面に出る姿勢を示した。しかし、東電を破綻処理し、株主や金融機関、経営陣や行政の責任を問わなければ、国民の理解は到底得られまい。


区分地上権について

2013-09-19 11:41:54 | 桜ヶ丘9条の会
JR東海が、9月18日にリニア中央新幹線の具体的ルートなどを、発表したら、日本全国で、マスコミの翼賛記事やニュースで溢れた。
これらの記事やニュースの特徴は、リニアにまつわる多くの問題点を隠したJR東海の詐欺的広報をそのまま調べもせずに無批判に報道を垂れながしている。これだけの宣伝力を、福島の復興ニュースになぜ注げないのか不思議である。
 今日は、あまり知られていない「地上区分権」についての解説が、「民法ワンポイントノート」というブログに載っていたので、転載する。
 民法上の地上権の意義から、問題とすべき「区分地上権」について、分かりやすく解説してあるので、リニア問題に疑問を持つ人たちは、必見である。
 少々長いが、我慢して読んでほしい。
 (2、「地上権とよく似ている「土地の賃借権」部分も重要ですが、ここでは、「区分地上権」部分だけ掲載しますが、ヤフウーで(「ワンポイントノート 制限物権その5 「地上権」)で検索するとその部分が見られます。
 

1:「地上権」とはなんぞや?
 地上権とは、『他人の土地において、工作物又は竹木を所有するためにその土地を使用する権利』のことを言います。「地上権」という名前ですが「上空」に設定することもできますし、「地下」に設定することも可能です。

 地上権が設定されるのはその性格上不動産だけですが、不動産の中でも土地だけが対象になります。まさか建物の屋根の上とか庭先・玄関先にこんなものを設定することはできませんしね。

 地上権が設定されると、その土地を「使用収益」することができるのは「地上権者」ということになります。土地の所有者はその土地を「使用収益」することは出来なくなります。ちなみに、地上権や土地の賃借権等が設定されている状態の、所有者が使用出来ない土地のことを「底地(そこち)」と言います。底地の売買はだいたい通常の土地の売買価格の2~3割程度しかないと言われます。「買っても自分では使用出来ない土地」にはたいした価値が見いだせないということになるのでしょうね。
 でも、地上権によって土地が自由に使えるとはいっても、所有権とは別の時限の話です。あくまでも「他人の土地」を使えるというだけの権利です。
3:地上じゃない地上権
 ところで、地上権は地上…というか地表に設定するものが最もメジャーです。しかし地上権は上空の地上権とか、地下の地上権とかいうものも設定が出来るのです。「地下の地上権」とか、自己矛盾も甚だしいですよね^^;

 上空に設定する地上権として判りやすいのは、「高圧送電線」のための地上権でしょう。他にも高速道路や鉄道の高架を敷設するためにも設定されることがあるようです。送電線や高架施設の場合、他人の土地の上を横切りたいだけなので、送電線や高架を支障しなければ土地の表面は他の用途で使われていても一向に構わないのです。例えば畑の上空を送電線が横切る場合などは、別に土地の表面に大根が植えてあろうが、ほうれん草が育っていようが全く気にしません。まあ、送電線にひっかかるような大根が育つようなことがあったら困りますが。

 地下の地上権も、可能です。地上じゃないけど権利の名前が「地上権」なので、「地下の地上権」です。(笑)
 判りやすい実例としては、地下鉄の敷設、地下道や地下街の建設等が挙げられます。こちらも、地下鉄を通すことが出来るなら、地表がどのように使われていようとも全く意に介しません。地下鉄の上にニンジンが植えられていようとも、白菜が育っていようとも、全く問題有りません。まあ、地下鉄の運行に支障が出るようなニンジンだと困るでしょうけども。

 こうした地上権を「区分地上権」といいます。なお、特に「上空」とか「地下」とかを指定せずに地上権を設定した場合は、上空も地表も地下も全部地上権者が使用収益できる範囲となります。
 区分地上権は、お互いに支障しない限り、複数の設定が可能です。例えば、送電線を通すための「上空の地上権」と、地下鉄を通すための「地下の地上権」はお互いに矛盾しません。また、地表に家が建っていても、送電線を通すのに問題が無いなら家を所有するための地上権も成立し得ます。地表が駐車場で、その上に鉄道の高架があり、さらにその上に高圧送電線が横切るような場所でも問題ありません。この場合は上空の地上権が2つになりますがこのような設定も可能です。

 ただし、区分所有権を設定する場合は、すでにその土地に設定されている地上権や賃貸借権、永小作権等の権利者、あるいは抵当権者等の全員が同意しなければなりません。

  (地下又は空間を目的とする地上権)
第二百六十九条の二  地下又は空間は、工作物を所有するため、上下の範囲を定めて地上権の目的とすることができる。この場合においては、設定行為で、地上権の行使のためにその土地の使用に制限を加えることができる。
2  前項の地上権は、第三者がその土地の使用又は収益をする権利を有する場合においても、その権利又はこれを目的とする権利を有するすべての者の承諾があるときは、設定することができる。この場合において、土地の使用又は収益をする権利を有する者は、その地上権の行使を妨げることができない。

 第2項にある、「その土地の使用又は収益をする権利を有する場合」と、「これを目的とする権利を有する」とがポイントです。
 「その土地を使用又は収益をする権利」とは、まさに地上権や永小作権、土地の賃貸借権のことです。例えば、上空に送電線を通すために上空の地上権を設定するとしたら、先に地上権などを持っている人は本来なら上空も全部自分で使用出来るはずのところ、その権利を他人に奪われてしまうわけですから、すでにいる権利者の同意が必要なことは言うまでもありません。

 「これを目的とする権利」とは、「地上権を目的としている抵当権」とか、「地上権を借りている人」とかが該当します。地上権を抵当権の目的物にすることが出来ますが、この地上権も、「上から下まで全部利用できる権利」として抵当権を設定したであろう場合と、「上空に送電線が通っている地上権」とでは、もしかすると価値が違ってしまうかもしれません。(そして送電線が通れば価値が下がってしまうかも知れない!?)とすると、抵当権者の利益を害する結果にもなりかねないため、こうした人たちの承諾も必要だと民法は言っています。
 そして、一旦承諾をしたなら、先に地上権の設定を受けた人であっても、後から設定された区分地上権を妨害するような事は出来ません。
 例えば、地表から30メートル以上の空間に送電線を通すための地上権を設定するとして、地表に住宅を所有する別の地上権者は、その土地上に高さ30メートルを超える柱とか立てたりしてはいけません。ビルの建設とかも30メートルを超えてはいけないことになります。


4:共有地と地上権
 地上権にはそれほど難しい論点は存在しませんが、先に挙げた「区分地上権」と、これから説明する「共有地と地上権」は重要な問題になりますので注意しましょう。

 土地が「共有」の状態にあるとき、地上権はその「共有地の持ち分」の上に存続することが出来ない

 という鉄則です。

 土地が共有の状態、例えば土地を長男のAさんと次男のBさんとで相続したとします。この時その土地はAさんとBさんとで共有している状態になります。法定相続だったとして、他に相続人がいなければ土地の50%はAさんのもの、残りの50%はBさんのものになります。
 土地を共有するといっても、それは板チョコを半分にパキっと割るようなものではありません。その土地のどこをとっても「50%はAさんのもの、50%はBさんのもの」という状態です。つまり、板チョコが実際には16粒のアーモンドチョコレートだったとして、全ての16粒のアーモンド部分は全部「50%はAさんのもの、50%はBさんのもの」という状態になっているのです。決して「8粒はAさんのもの、残りの8粒はBさんのもの」ではないのです。

 …ということは、Aさんだけが地上権を設定した場合、地上権者とBさんとの関係がややこしいことになってしまいますよね?
 そんな訳で、共有状態にある土地の上に地上権を設定する場合は共有者全員が設定者となって地上権を設定しなければなりません。

 なお、当然ですが共有物分割をした後なら、自分の所有地に地上権を設定することは可能です。分割した後なら、板チョコは真っ二つに割れた後なので、完全に自分の物となった土地に地上権を設定しようがどうしようが、相方から文句を言われる筋合いも無い訳ですから。

リニアの桜ヶ丘ルート案は、欅ケ丘の地下

2013-09-18 19:47:49 | 桜ヶ丘9条の会


今日9月18日、JR東海は、リニア中央新幹線の具体的なルートを発表した。
桜ヶ丘ハイツを貫通するのではないか、という心配どおり、桜ヶ丘小学校をかすめるかと思われたが、大規模住宅団地は避けることになっているのに、桜ヶ丘ハイツ内の欅ケ丘を通るという。
欅ケ丘は、桜ヶ丘ハイツ内である。
桜ケ丘、皐ヶ丘、欅ケ丘、桂ケ丘を含む桜ケ丘ハイツは、現在住民約1万人の大住宅団地で、しか住環境には極めて敏感で、住宅もすべて低層一戸建て、美観には、各戸に作られた石積みも街全体の美観維持のために壊さないという紳士協定があるくらいである。
その他、静謐な環境を求めて移住して来た住民は、その目的達成のために様々な不便を我慢してきた。利便よりも静謐な環境を求めてきたのである。
リニア新幹線には、問題があり過ぎることが指摘されているし、二度にわたるバブリックコメントをした結果もほとんどが反対意見だたのに全く意見は無視して、JR東海は今回具体的なルートや駅の位置や構造、脱出口などの位置も発表した。環境アセスメントも終っていないのにどうして計画ができあがるのか。地図を見ると分かるが、大森交差点付近と国道248号バイパス沿線の山の中に脱出口が作られる。脱出口というのは、トンネル内で事故が起きた時に乗客が脱出する出口である。5キロおきに作られる脱出口ということは、無人のリニア列車の事故から乗客は誘導もなくやみくもに真っ暗なトンネル内を最低2・5キロ走ることになる。ようやく辿る着いた脱出口は、高さが40メートルという巨大なもので、エレベーターでしか入り口に出られないが、その際電気が止まっていたら、勿論エレベーターは動かない。2030年が危ないとされる南海トラフ大地震は迫っているのである。
マスコミは、リニア建設大歓迎、推進一色である。
リニアが如何に脆弱な構造物で、自然破壊の最たるもの、しかも技術的に危険きわまりないものだということが、すべて隠匿され、リニア神話が醸成され始めている。
推進の政府も、莫大なJRのリニア建設費用の借金の利子を税金で負担すると決め、危ぶむ金融機関に融資を後押しした。


特定秘密保護法案 政府は国会提出方針の撤回を 愛媛新聞社説

2013-09-17 23:13:21 | 日記
特定秘密保護法案 政府は国会提出方針の撤回を 2013年08月29日(木)

 政府は、機密情報漏えい防止のため国家公務員らへの罰則強化を盛り込んだ「特定秘密保護法案」を、秋の臨時国会に提出する方針を固めた。
 与党内に慎重論もあるため不透明さが残るが、「知る権利」など憲法で保障された国民の権利を損なう危険性があることは論をまたない。政府には撤回を強く求めたい。
 法案は、安全保障に関する機密を防衛、外交、安全脅威活動の防止、テロ活動の防止に分類。特段の秘匿の必要性がある情報を「特定秘密」に指定し、漏えいには最高で懲役10年の罰則を科す。
 最大の問題は、報道の自由と国民の「知る権利」を侵害する恐れが強い点だ。
 法案では漏えいの共謀や教唆、扇動も処罰対象となる。政府や自民党のプロジェクトチームは「報道目的」は除外する方針だが、あくまで正当な取材が前提という。
 どこまでが正当な取材で、どこからが漏えいの教唆か。線引き自体が困難な上、国による恣意(しい)的な判断の懸念もつきまとう。報道規制ではないというアリバイづくりと言わざるを得まい。
 さらに、特定秘密の範囲は極めて曖昧だ。例えば原発で重大なトラブルがあっても、テロ防止などに関連付けて特定秘密に指定しさえすれば国民から隠せることにもなる。時の政権による指定乱発と情報統制の危惧が拭えない。
 処罰対象には、機密を扱う省庁と契約を結ぶ民間企業の従業員も含む。機密保全の適性を評価するため、犯歴や経済状況など個人情報を調査するという。本人の同意が必要とはいえ、プライバシー侵害の恐れまである法案など、どうして認められようか。
 政府が特定秘密保護法案の成立を急ぐ背景には、年内発足を見据える日本版「国家安全保障会議(NSC)」がある。外交・安全保障政策の司令塔を目指す上で、米国など同盟国からの円滑な情報提供は組織の生命線であり、情報管理強化が欠かせない。
 それでも、新法の必要性は十分な説得力を持たない。機密保全には国家公務員法や自衛隊法のほか、日米相互防衛援助協定に伴う秘密保護法がすでにある。これらの運用を徹底し、必要なら法改正で対応すれば足りよう。
 秘密保護担当相は森雅子少子化担当相が兼務する予定。日本版NSCと表裏一体でありながら、NSC担当の菅義偉官房長官ではない。仕事量で決めたというが、森氏は消費者行政担当相でもある。消費者行政、少子化対策の軽視との批判は免れまい。
 報道の自由と知る権利はメディアだけの問題ではない。国民一人一人が目を光らせ、権利を見つめ直す契機としたい。取り返しがつかない事態になってからでは遅い。

8才の子供が国に訴えられる!沖縄ヘリ基地建設反対運動を国が裁判で弾圧(SLAPP訴訟)

2013-09-17 10:06:08 | 日記
沖縄県東村の高江地区で、米軍のヘリパット(ヘリ離着陸帯)建設に対して騒音や事故の危険を心配する住民たちが反対の座り込みを続けて来た。
この座り込みが、工事の「通行妨害」にあたるとして15人の住民が2008年国から妨害禁止の仮処分を申し立てられたが、その中に反対運動の団体代表の8才の子どもが含まれていた。那覇地裁は、2012年2人に対して妨害禁止の決定を出し、この2人の本訴訟が現在同地裁で進行中である。
この訴訟のように、強い立場にある者が弱い立場にある相手の「口封じ」を目的に起こす訴訟を「SLAPP (スラップ)訴訟」と呼び世界的に問題になりつつある。
このような訴訟的を許せば、権力者や企業たちの傍若無人の行為によって犠牲を強いられた弱者は、訴訟的によって多大の経済的出費を強いられ、司法判断の如何に関わらず事実上、反対運動自体が抑圧去されてしまい、経済力や権力者の横暴に逼塞されてしまう。
これは民主主義の敗北であるとして、このようなスラップ訴訟を禁止する国が増えている。
沖縄高江地区のヘリパット基地反対運動は、ドキュメンタリー映画「標的の村」として紹介され、愛知県では、9月  日から「シネマテーク」で上映されている。
「マガジン9」というブログの記事を掲載する。
  

 あなたも訴えられるかもしれない
    ~SLAPP訴訟を考える~

 8歳の子どもが訴えられる。しかも、国に。そんなことが実際に起きた。
 沖縄県東村の高江地区。米軍のヘリパッド(ヘリコプター離着陸帯)建設が計画され、騒音や事故の危険を心配する住民たちが反対の座り込みを展開してきた。それが工事の「通行妨害」に当たるとして、08年11月、15人の住民が国から妨害禁止の仮処分を申し立てられた。その中に、反対団体代表の8歳の娘が含まれていたのだ。
 もちろん、8歳の子どもが特定の意図を持った通行妨害行為をするわけはなく、後に訴えは取り下げられる。しかし、那覇地裁は昨年12年、残る14人のうち共同代表の2人に妨害禁止の決定を出した。今は、この2人に対する本訴訟が同地裁で進行している(詳しくは、マガジン9「ぼくらのリアル★ピース~比嘉真人さん」)。
 住民側の弁護士は、反対運動に参加した人はたくさんいるのに地元住民ばかりを選んでいること、8歳の子どもまで対象にしていることなどから、「市民運動の萎縮を狙った恫喝だ」と主張する。実際、仮処分の申し立てでは、現場にいたことすらない人が入っていたり、妨害行為の証拠がなかったりと、かなり杜撰な内容だったという。
 この間、政権交代があり、住民たちは民主党政権に、仮処分の申し立てを取り下げるように、また、本訴訟を起こさないように要請してきたが、自民・公明政権の時と対応は変わらなかったそうだ。「民主党政権が、司法を利用した住民弾圧を自ら選択した」と批判する。
 このケースのように、強い立場にある者が、相手の「口封じ」を目的に起こす訴訟を「SLAPP(スラップ)訴訟」と呼ぶ。Strategic Lawsuit Against Public Participationの略だ。
 国や企業から訴えられれば、普通の市民は何よりびっくりする。受けて立つにしても、弁護士を頼んだり、裁判所に通ったりするだけで、金銭的、時間的に相当な負担である。国や企業に太刀打ちするのは、至難の業だろう。もちろん、精神的な負担も大きい。何も悪いことをしていなくても、「運動やめます」と白旗を掲げてしまった方が楽に違いない。それこそ、SLAPP訴訟の目的なのだ。
そんなSLAPP訴訟が、日本でも増えているという。自らも被告にされた経験を持ち、アメリカなどの取材も重ねているジャーナリスト・烏賀陽弘道さんの話を聞く機会があった。
 烏賀陽さんは、雑誌に載ったコメントが信用を傷つけたとされ、オリコンに5千万円の損害賠償訴訟を起こされた。雑誌の出版社に対してではなく、烏賀陽さんだけがターゲットにされた。1審は敗訴、2審で実質勝訴したものの、提訴から33カ月を費やし、弁護士費用や収入減で990万円の損害を被ったという。ストレスで不眠症にもなったそうだ。
 山口県・上関では、原子力発電所の建設に反対する住民4人が、敷地造成工事を妨害したとして中国電力から約4800万円の損害賠償訴訟を起こされた。ほかにも、内部告発、マンション建設反対、労働組合結成など、憲法で保障された権利を行使しようとして訴えられるケースが相次いでいる。「米軍基地、原発など、深刻で議論が分かれる社会問題に対する意見表明が、すべて潰されようとしている」と烏賀陽さん。言論や社会活動に携わる市民にとって、他人事ではない。
 どうすれば良いのだろう。
 烏賀陽さんによると、アメリカでは28州・地域にSLAPP訴訟を規制する法律があるそうだ。カリフォルニア州の反SLAPP法では、訴えられた側は裁判所に「SLAPPだ」と動議を出せる。裁判所は、1)公的な問題を巡る意見表明が背景にあるか、2)提訴に実効性があるか(法廷に持ち込む価値があるか)、との観点から審理し、長くても半年以内に結論を出す。SLAPPと認定されれば、訴訟は棄却される。
 さらに画期的なのは、SLAPPと認められた場合、訴えられた側の弁護士費用は、訴えた側が払うことだ。SLAPP訴訟の抑止につながり、弁護士も資金に乏しい住民側の代理人になってくれるという(詳しくは「週刊金曜日」8月27日号)。

 烏賀陽さんは「裁判を起こす権利はあっても、法制度を『悪用』する権利はない。SLAPP訴訟によって、発言をためらうことになれば、民主主義の敗北と言える。日本でも被害者の救済を急がなければならず、反SLAPP法が必要だ」と強調していた。
ところで、日本のSLAPP訴訟は新聞でほとんど報じられていない。特に、沖縄・高江や上関原発のケースは、現地ではともかく、東京の新聞紙面には全くと言っていいほど載っていない。記事にならず、市民が知らないままなら、国や企業は「嫌がらせの訴訟を起こしている」というイメージダウンを受けない。結果的にマスコミがSLAPP訴訟を許容してしまっているのと同じで、責任は重い。多くは望まない。事実関係だけで良いので、問題意識を持って、まずは伝えてほしい。