持続化給付金事業の再委託 四つの論点 (2020年6月26日 中日新聞)

2020-06-30 16:58:38 | 桜ヶ丘9条の会
持続給付金事業の再委託 四つの論点(2020年6月26日 中日新聞)
 
新型コロナウイルスの影響で資金繰りに苦しむ中小企業などを政府が支援する「持続化給付金事業」の再委託問題は、事業を国から受注した一般社団法人サービスデザイン推進協議会(サ協)の不透明な実態が明らかになったことが発端だった。サ協はその事業を広告大手の電通にほぼ丸投げ。身内への外注による予算の無駄遣いや、入札過程の不公平さなどの疑念は深まるばかりだ。一連の再委託問題から浮かび上がった主要な四つの論点を整理した。 (桐山純平、森本智之、皆川剛、大島宏一郎)

委託費769億円 実態乏しいサ協が受託

 五月中旬、サ協の本部。インターホンを押しても応答はなく「お問い合わせは(給付金の)コールセンターまで」の張り紙が張ってあるだけ。電話番号は公表されておらず、ホームページの情報もほとんどない。サ協は法律で義務づけられている決算開示も怠っており、国の事業を担う実態の乏しさがあらわになった。
 当初、経済産業省はサ協から先の再委託や外注先を公表していなかったが、後に明らかになったのは、委託費の97%に当たる七百四十九億円で、法人の設立主体である電通に事業をほぼ丸ごと再委託していたこと。委託費と再委託費の差額二十億円がサ協に流れ、野党から「中抜き」批判が上がった。
 この二十億円について、サ協は給付金の振込手数料が大半で、職員二十一人の人件費などには一億八千万円かかると説明した。だが、国の事業に詳しい公認会計士は職員らが電通やパソナなど設立に関与した企業からの出向者であることを念頭に「一般論として、人件費に見合った勤務実績があるのか疑わしい事例も多い」と指摘する。
 法人の設立に経産省が関与していたのではないかという疑惑も浮上。法人の設立時の定款を調べると、ファイルの作成者名に経産省部局が記されていた。
 経産省は疑惑を否定するが、設立からわずか四年で十四事業計千五百七十六億円の事業を受託するなどサ協が同省と密接であることは間違いない。

何層もの外注 最低でも63社、全容不明

 「トンネル法人」との批判も上がるサ協と密接な関係があるのが事業を再委託された電通だ。その電通も再委託額の86%に当たる六百四十五億円で、給付実務の全てを子会社五社に外注。うち四社もまた外注を重ねる。
 特に電通ライブは申請受け付け業務の99・8%をパソナや大日本印刷などに発注し、何のために名を連ねているのかという疑問は拭えない。
 現時点でサ協や電通は四次下請け以降の詳細を明らかにしておらず、給付金業務に全部で何社が関わっているのか分からない。経産省は「末端の企業まで国が知る必要はない」(担当課長)として把握に消極的だったが、野党議員の再三の求めを受け、六月二十三日に「把握したい」と修正。少なくとも六十三社が関わっていると説明した。
 それでも業務に対するチェックが隅々まで行き届いているとは言いがたい。
 実際、給付金は申請から一カ月たっても支給されない事例が相次いだ。本紙の取材に審査業務に当たる派遣社員は「素人が大半」と証言するものの、遅れの原因は判明していない。
 子会社や身内企業内での外注は、競争がなく費用が下がりにくい。経産省は外注費の高騰を防ぐため、発注先に相見積もりを取るなどのルールを定めているが、今回の委託で電通や子会社が費用を抑える手続きを取ったかどうかを調べ、公表することには後ろ向きだ。

不透明な入札 公示前からサ協を優遇

 電通が設立に関与したサ協が給付金事業の委託先に選ばれたことについて、安倍晋三首相は「入札のプロセスを経て落札された」と国会で述べ、適切だったとの認識を示す。だが、四月八日の入札公示前から、経産省がサ協を優遇していたことが判明。入札が「出来レースだ」という疑いが生じている
 入札には、サ協とコンサルティング会社・デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー(デロイト)が参加。事業の制度設計を目的に、経産省は公示前にサ協とデロイトにそれぞれ面会した。面会はデロイトが一回で一時間だったのに対して、サ協は三回の計三時間。サ協との協議には、事業の再委託先となった電通も同席していた。
 公示前にもかかわらず、サ協は給付金のウェブサイト用のアドレスを取得。受託の決定前に準備を着々と進めていたことが分かっている。
 公示五日後の十三日に入札は締め切られ、経産省は翌十四日にサ協の落札を決めた。入札は価格だけでなく提案内容も審査される「総合評価方式」で行われ、双方はともに二百ページ近い提案書を経産省に提出していた。入札制度に詳しい上智大の楠茂樹教授は「わずか一日で提案内容の評価を決めるのは難しい」と指摘している。

経産省と蜜月 官公庁に食い込む電通

 取材を重ねる中で徐々に明らかになったのは経産省と電通の蜜月ぶりだ。
 バブル崩壊後の行政改革で国の公務員の数は減少。「官から民へ」の旗印の下、多くの業務で民間委託が進んだ。中でも政策実行の手足となる出先機関の乏しい経産省では民間との分業は必須になった。こうした中で電通は官公庁事業の売り上げを増やしてきた。
 経産省によると、電通が本年度までの六年で一般社団法人を通じて経産省から受託した事業は七十二件ある。このうち五十九件にのぼるのがサ協より五年早く設立された先輩格の環境共創イニシアチブだ。
 経産省や信用調査会社によると、設立は二〇一一年。省エネ関連事業を経産省から受託していた独立行政法人が民主党政権の事業仕分けにより受託ができなくなり、新たな受け皿として電通が設立に動いたのが環境共創だった。「渡りに船だった」と当時を知る省幹部は言う。別の経産省職員によると当初、環境共創の職員は電通の名刺を使って省内で営業していた。「無名の社団など誰も相手にしない」と電通と一般社団法人の一体ぶりを証言する。
 いまや経産省と電通の関係は強固だ。これまでサ協に事業委託をしてきた担当課長は「難しい事業でもすばらしい実行力でこなしてくれた」と賛辞を惜しまない。持続化給付金問題で批判にさらされる中、環境共創の幹部の一人は取材にこう漏らした。「うちがやめると困るのは国の方だ」

 持続化給付金事業の再委託 事業は4月30日に一般社団法人サービスデザイン推進協議会(サ協)が769億円で経済産業省中小企業庁から受託。5月1日から給付金の受け付けを開始した。業務の流れの公表は当初なかったが、サ協が委託費の97%に当たる749億円で電通に再委託。電通からは、パソナやトランスコスモスなどサ協の設立に関与した企業に外注が繰り返されていた。事業に関係する企業は判明しているだけで63社に上る。業務運営の不透明さなど疑念が晴れず、経産省はサ協に対して異例の業務執行体制をチェックする「中間検査」を行うと表明している。

 

 
 
 
 
 

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