「共謀罪」法施行で次の恐れは 日弁連対策本部に聞く(2017年8月18日中日新聞)

2017-08-20 08:29:45 | 桜ヶ丘9条の会
「共謀罪」法施行で次の恐れは 日弁連対策本部に聞く 

2017/8/18 中日新聞

 この夏施行された「共謀罪」法は、実際の運用に通信傍受(盗聴)法の改悪など周辺法の整備が不可欠になる。「共謀罪を廃法へ」という声が上がる一方で、政府は実際の運用に向けた立法措置を重ねてきそうだ。具体的にどういった措置がなされそうか。日弁連の共謀罪法案対策本部事務局長の山下幸夫弁護士に聞いた。

 「共謀罪は単独では捜査機関にとり、使い勝手が悪い。というのも、組織的犯罪集団がどんな『計画』を立て、どう『準備』をしているかは、外からは分からない。だから警察・検察は近い将来、必ず『捜査手法の拡大が必要』と新たな法整備を求めてくる。共謀罪と捜査手法拡大は最初からセットなんです」。山下弁護士はそう警戒する。

◆室内に盗聴器

 共謀罪は、犯罪を実行した段階で罪に問うという従来の刑事司法の原則を根底から変えた。つまり犯罪を計画し、準備を始めた段階で処罰できる。山下弁護士は「その密室での共謀を把握するため、捜査側が必要性を主張するのが『通信傍受の拡大』だ」と話す。

 通信傍受とは、捜査で電話やメールを傍受(盗聴)することだ。通信傍受法は二〇〇〇年に施行されたが、憲法が保障する「通信の秘密」を侵す危険が指摘され、対象犯罪は薬物など四類型に限定された。

 だが昨年十二月の通信傍受法改正で、詐欺や窃盗など九類型を追加。これまで義務付けられてきたNTTなど通信事業者の立ち会いが不要となり、警察機関で傍受できるようになった。

 共謀罪は現時点で傍受対象となっていない。しかし、金田勝年法相(当時)は今年二月の衆院予算委員会で「捜査の実情を踏まえて検討すべき課題」と将来の導入に含みを持たせた。

 共謀罪での盗聴が可能になるとどうなるのか。山下弁護士は「捜査機関に『犯罪の準備をしそうだ』と疑われれば、知人との何げない通話も盗聴される恐れがある。ターゲットではない相手のプライバシーまで侵害される」と危ぶむ。

 一段と懸念されているのが、室内に盗聴器を仕掛ける会話傍受(室内盗聴)の導入だ。この懸念には根拠がある。法制審議会特別部会の事務局(法務省)は一三年一月、基本構想案に「検討」と盛り込んだ。しかし、このときは委員らの反対で制度化は見送られた。

 山下弁護士は「既に詰めた議論がされており、政府がその気になればすぐにでも制度設計できるだろう」とみる。室内のプライベートな会話まで捜査機関に盗聴されることになると、どうなるのか。

 「不倫など犯罪とは無関係な内容まで捜査機関に把握され、それを材料に自白を迫られる恐れがある。本当の犯罪集団と違い、一般の団体は無警戒。言葉尻を捉えて、犯罪をでっち上げられる可能性さえある」

◆他人陥れる「司法取引」

 一方、昨年の刑事訴訟法改正で来年六月までに施行される「日本版司法取引(協議合意制度)」は財政経済犯罪や薬物銃器犯罪などに限定されているが、山下弁護士は「いずれ共謀罪も対象となるはずだ」とみている。

 共謀罪にも自首減免制度があり、犯罪の実行前に自首して共謀を供述すれば、刑が減免される。だが、日本版司法取引ほどには、自首する側のメリットが細かく規定されていない。

 「日本版司法取引では、自首する側に法廷で証言して証拠化する義務も課せられる。当局にとっては、中途半端な自首減免制度より、司法取引の方が使い勝手がいい」と山下弁護士。

 もともと日本版司法取引は、自分の事件を話すことで罪の減軽を得る海外の司法取引制度と異なり、他人の罪を捜査当局に「売る」ことで、自分は助かる仕組み。他人を陥れる危険が常にあると言われてきた。

 山下弁護士が最も恐れるのは、警察官が市民になりすまし、ある団体に潜入するケース。そこで自分が音頭を取る形で、犯罪を共謀する。最後に首謀者を別に設定し、犯行の直前に当局に司法取引を持ち掛け、その団体を一網打尽にするというシナリオだ。

◆GPS捜査合法化?

 衛星利用測位システム(GPS)を用いた捜査が合法になる可能性もある。

 関西での連続窃盗罪で起訴された男や共犯者の車などに警察が裁判所の令状を取らずにGPSを取り付けて捜査した事件で、最高裁は三月、GPS捜査は「プライバシーを侵害し、違法」と初判断した。これにより、警察庁はGPS捜査を控えるよう全国の警察本部に通達した。

 だが、山下弁護士は流れを逆に読む。「判決文をよく読むと、立法化すれば『GPS捜査をやってもよい』と書いてある。早ければ、今秋にも立法化の議論が始まるだろう」

 警察庁は六月二十三日付で、共謀罪捜査について「十分な時間的余裕をもって報告すること」といった通達を出した。金田前法相も先月十一日、共謀罪を適用する場合は法相に報告するよう求める訓令を出した。いずれも異例だが、山下弁護士は「現場が功を焦って事件の立件に失敗し、共謀罪が使いづらくなるのを防ぐためだ」と推測する。

 「しばらくは慎重に確実に立件できる事件を見定める。対象は暴力団など逮捕されても誰も擁護しない団体。『共謀罪はそう怖くない』と世間に思わせつつ、少しずつ市民団体などに広げていくだろう」

 共謀罪を実際に運用するためには、通信傍受などこれまでの捜査手法を大幅に変えなければ難しい。逆に言えば、現実的にはこうした捜査手法の拡大を警戒することが、共謀罪の脅威をそぐことにもつながる。

 「共謀罪による監視社会体制を完成させないためには、共謀罪の廃法を訴え続けることとともに、捜査手法のやみくもな拡大に対して、世論が厳しく反対を唱え続けるしかない」

 (大村歩、池田悌一)

 <共謀罪> 改正組織犯罪処罰法に盛り込まれた罪。「組織的犯罪集団」が277の罪で違法行為を計画、資金や物品の手配など実行準備をした場合、グループ全体が処罰される。多くの野党が「捜査当局の拡大解釈で、市民が処罰されかねない」などと強く反対したが、5月に衆院、6月に参院で法案の採決が強行されて成立した。

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