東海環状自動車道トンネル掘削残土による久々利川流域水質汚染事件について(2)

2013-12-18 15:05:04 | 桜ヶ丘9条の会
 
 ストックヤードというのは、残土の仮置き場である。このために地元住民に対する説明会が開かれていなかった。市議会でもほとんど論議されることなく終わっている。ところが、実態は仮置き場ではなくて、永久的に残土を埋め立てる施設として造成され、運用された。これではまるで一種の詐欺である。
 汚染が発覚してから可児市市議会で追及を受けた時、建設水道部長は「ストックヤードと英語で言った方が体裁がよいと思っただけで、実質ははじめから埋め立て処分場であった」と答弁している。このふざけた答弁にたいして、質問した議員が納得しているというのも奇妙な話である。
 国土交通省には、本来汚染を事前に予測して対策をとるべきであったのにとらなかった責任があり、可児市には無知が引き起こした汚染に対する責任がある。岐阜県には水質汚濁防止法を主管し、環境を監視し、汚染があった場合の原因者の究明、指導、取り締まりをする責任があるが、この事件ではほとんどその役割を果たしていない。

4.全国で発生している類似の汚染事件

 硫化鉱物を含有する地層が分布する地帯での道路建設工事などに伴う汚染事例は全国で発生している。東北自動車道路の八甲田工区とか北海道のいくつかの地域などでの事例に関して、各種の学会や研究所報などでも発表が行われつつある。最近では、岐阜県高富町地内の県道工事で発生した残土からヒ素を含んだアルカリ性浸出水が環境中に流れ出たことが報じられており、硫化鉱物以外にも地質由来の汚染が起きることが明らかになった。もともとの地質の中に含まれていたとはいえ、掘り起こさなければ何も起きなかったわけで、寝た子を起こしてしまった工事そのものが汚染をおこした下手人である。

5.汚染物質について

 硫化鉱物と酸素を含んだ水とが反応して生成した硫酸は水を酸性にする。酸性水は斃死したマス・アマゴだけでなく、ヒトを含めたあらゆる生物にとって有害であり、水質汚濁防止法にはpHで規定される基準(環境基準:6.5~8.5)がある。 さらに、硫酸は残土の中に高濃度で含有されていたカドミウム、鉛、銅、亜鉛などの重金属類を溶出し、水系を汚染した。カドミウムはイタイイタイ病の原因物質であり、水質汚濁防止法でヒトの健康を損なう有害物質として環境基準(0.01mg/l)が定められている。

 鉛は古来から鉛中毒を引き起こす有毒物質として有名であり、同じく環境基準(0.01mg/l)が定められている。銅は足尾鉱毒事件の原因物質の中心であり、鉱山廃水や鉱鐸に含まれる代表的な有害物質である。水質環境基準はないが、農業用水基準(0.02mg/l)が定められている。亜鉛は水質汚濁防止法によって水圏生態系に毒性を有する有害重金属として、環境基準(0.01~0.03mg/l)が定められている。
 アルミニウムは土壌中に大量に含有される金属である。水質汚濁防止法などでは有害物質として扱われていないが、酸性雨による森林被害の原因物質として注目されている。すなわち、酸性雨が森林土壌中に浸透してそこに大量に存在するアルミニウムを溶脱させ、そのアルミニウムの毒性が樹木の枯死を招いているのではないかというものである。本汚染事件でも、ストックヤードからの浸出水には高濃度のアルミニウムが含まれ、そのコロイド状粒子が新滝が洞池の異常な水色の原因であったものと考えれられている。さらに汚染発生当時、大量の泡が沢水や新滝が洞池の水面を覆ったが、その分析結果からも大量のアルミニウムが検出されているのである

 水田土壌に関しては、農用地土壌汚染防止法によって、カドミウム、銅の基準が定められている。カドミウムについては、玄米中のカドミウムが1mg/kgを超えれば汚染米となる。くわえて、0.4mg/kgを超えるものが準汚染米として出荷を禁じられている。先に述べた犬山地域で発生したカドミウム汚染米発生事件では、水田土壌中のカドミウム濃度と玄米中のカドミウム濃度とがほぼ同じレベルであることが明らかとなった。すなわち、水田土壌中のカドミウム濃度が0.4mg/kg前後を超える場合には要注意ということである。銅については、125mg/kgが汚染指定地域指定要件値として定められている。
河川底質についての環境基準はないが、出水時に底質が巻き上げられて水田に流入する事態を考えれば、本件については農用地土壌についての基準値を目安に考えるべきであろう。

6.汚染の程度

 酸性浸出水のpHは、最も低い場合2点台となる。環境基準の下限6.5と比べると、水素イオン濃度が約1万倍も高いことになる。有害重金属類は、銅が農業用水基準を超え、亜鉛は環境基準を超えている。

 鉛やカドミウムは、環境基準と比べると極端に高いわけではないように見えるが、環境省が全国の都道府県に機関委任して行っている河川水調査結果(公共用水域水質監視調査結果)と比較するとかなり高い。重金属類は河川生態系に大きな影響を及ぼし、さらには底質や水田土壌に蓄積していくことから将来的に大きな禍根となる。水田ではカドミウム汚染米の産出の可能性も考えられる。
 浸出水の水質以外にも警戒しなければならないことがいくつかある。大萱地区では地下水を水道水源としており、底部に遮水工が施されていないストックヤードから地下に浸透した酸性浸出水がその地下水を汚染しはしないかという危惧がある。国土交通省は、ストックヤード底部には固い瑞浪層群の岩盤があるから地下浸透しないとしているが、その岩盤にひび割れがないという保証はない。
 降雨出水した時に、集水しきれない汚染酸性水が調整池に流入し、それが下流へと越流しないという保証はない。また、浸出水が降雨時に濁ることが確認されており、それらが下流へと流下し、農業用水路を経由して水田に沈殿する可能性もある。名古屋大学災害研究会の調査によれば、丸山地区の水田の水口と水尻を比較するとカドミウム濃度が水口で高い。カドミウム汚染米が産出するところまではいっていないが、この傾向が続けば水田にカドミウムが蓄積していく可能性も考えられる。
 現在は、水処理プラント(後述)で重金属類が除去され、pHが中和されて放流されているが、硫酸イオン濃度はかなり高い。各種水質基準に定められてはいないが、高濃度の硫酸イオンやそれを中和するために投入された石灰に起源するカルシウムイオンの米への微妙な影響がないとはいえない。

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