特集 まえがき
気候変動とその対策,自然エネルギーと省エネの社会実現にむけて
1880 年から 2012 年までの線形トレンドで地 球の平均気温は既に 0.85°C上昇している.こ の気温上昇量は地域により多少差があり,アジ アでは気温上昇量が 1.5°Cを越えている.そし て,「アフガニスタン東部では急激な高温化に よって 30 年間で雪線が 500 m 上昇し,万年雪 の雪解け水に頼っていた広い地域が大干ばつに 見舞われている」と中村 哲 医師は報告してい る.日本では,近年,集中豪雨の回数が増え, 山の土砂崩れが起こっているが,これは日本近 海の海面水温が 100 年間に約 1°C上昇したこと に原因がある(気象庁).
2015 年のパリ協定で,世界全体の平均気温 上昇を 2°Cを十分に下回るレベルに維持するこ とを目標とし,1.5°Cへ抑制するように努力す ることが確認された.そのためには,温室効果 ガスの排出量を 2050 年に 80% 以上削減するこ とが求められている.この 80% 以上削減は技 術的に決して不可能なレベルではなく,ヨーロ ッパでは,省エネと自然エネルギーの普及によ って,2030 年に 40 ~ 50% 削減を目標にする 国がいくつか登場している.これらの国,デン マーク,ノルウェー,スウェーデン等は国民の 生活水準が高い国であり,我々の生産水準を 下げることなしに,温室効果ガスの削減は可 能であるということを実証している.日本は 1990 年から二酸化炭素排出量を削減しておら ず,2015 年で 106%(1990 年比)という状態で あり,ヨーロッパに圧倒的な遅れをとっている.
岩本論文「近年の異常気象と気候変動」は, 近年の気象データを整理し,気温,海水温が上 昇し続けていることを示している.更に,温暖 化により日本では集中豪雨が頻発し,世界でも 偏西風波動の変化によって,寒暖の両方の異常気象が頻発していると述べている.そして,気 温の観測データに基づいて「温暖化否定論」を 否定している.
早川論文「パリ協定と人類の未来」では,IPCC 第 5 次評価報告書の警告,パリ協定に至るまで の国際交渉の推移,また,パリ協定に逆行する 日本のエネルギー政策について論じている.
歌川・外岡論文「2050 年温室効果ガス排出 80% 以上削減に向けた対策シナリオ」は,パ リ協定の全体目標に応じた対策の技術的可能性 を検討している.日本国内で 2050 年にエネル ギー起源 CO2 排出 80% 削減(1990 年比)の技 術的可能性を検討すると,原発を利用せず,新 技術も使用せず,大量生産が続いても 80% 以 上の削減が可能,材料生産消費の効率化・スリ ム化を行うと 95% 以上の削減が可能,しかも 化石燃料輸入額や光熱費削減,対策投資拡大・ 雇用拡大などの経済的メリットも大きいことが 示されている.
政府の地球温暖化対策計画で 2050 年に 80% 削減には革新的技術の開発普及の追求が言われ ているが,歌川・外岡論文はエネルギー起源 CO2 排出に関しては,新技術を使用しないで も可能と述べている点は注目する必要がある.
河野論文「日本の自然エネルギーの現状と政 策課題」では,日本は自然エネルギー資源が豊 かな国であるにも関わらず,ヨーロッパ諸国と 比べて,自然エネルギーの導入が非常に少ない ことを紹介し,その原因が政府のエネルギー政 策にあると述べている.更に,自然エネルギー 普及と環境対策は一体で考える必要があること も論じている.
(こうの・ひとし:『日本の科学者』客員編集委員・ 兵庫県立大学名誉教授,気象学,大気環境学)
河野 仁
気候変動とその対策,自然エネルギーと省エネの社会実現にむけて
1880 年から 2012 年までの線形トレンドで地 球の平均気温は既に 0.85°C上昇している.こ の気温上昇量は地域により多少差があり,アジ アでは気温上昇量が 1.5°Cを越えている.そし て,「アフガニスタン東部では急激な高温化に よって 30 年間で雪線が 500 m 上昇し,万年雪 の雪解け水に頼っていた広い地域が大干ばつに 見舞われている」と中村 哲 医師は報告してい る.日本では,近年,集中豪雨の回数が増え, 山の土砂崩れが起こっているが,これは日本近 海の海面水温が 100 年間に約 1°C上昇したこと に原因がある(気象庁).
2015 年のパリ協定で,世界全体の平均気温 上昇を 2°Cを十分に下回るレベルに維持するこ とを目標とし,1.5°Cへ抑制するように努力す ることが確認された.そのためには,温室効果 ガスの排出量を 2050 年に 80% 以上削減するこ とが求められている.この 80% 以上削減は技 術的に決して不可能なレベルではなく,ヨーロ ッパでは,省エネと自然エネルギーの普及によ って,2030 年に 40 ~ 50% 削減を目標にする 国がいくつか登場している.これらの国,デン マーク,ノルウェー,スウェーデン等は国民の 生活水準が高い国であり,我々の生産水準を 下げることなしに,温室効果ガスの削減は可 能であるということを実証している.日本は 1990 年から二酸化炭素排出量を削減しておら ず,2015 年で 106%(1990 年比)という状態で あり,ヨーロッパに圧倒的な遅れをとっている.
岩本論文「近年の異常気象と気候変動」は, 近年の気象データを整理し,気温,海水温が上 昇し続けていることを示している.更に,温暖 化により日本では集中豪雨が頻発し,世界でも 偏西風波動の変化によって,寒暖の両方の異常気象が頻発していると述べている.そして,気 温の観測データに基づいて「温暖化否定論」を 否定している.
早川論文「パリ協定と人類の未来」では,IPCC 第 5 次評価報告書の警告,パリ協定に至るまで の国際交渉の推移,また,パリ協定に逆行する 日本のエネルギー政策について論じている.
歌川・外岡論文「2050 年温室効果ガス排出 80% 以上削減に向けた対策シナリオ」は,パ リ協定の全体目標に応じた対策の技術的可能性 を検討している.日本国内で 2050 年にエネル ギー起源 CO2 排出 80% 削減(1990 年比)の技 術的可能性を検討すると,原発を利用せず,新 技術も使用せず,大量生産が続いても 80% 以 上の削減が可能,材料生産消費の効率化・スリ ム化を行うと 95% 以上の削減が可能,しかも 化石燃料輸入額や光熱費削減,対策投資拡大・ 雇用拡大などの経済的メリットも大きいことが 示されている.
政府の地球温暖化対策計画で 2050 年に 80% 削減には革新的技術の開発普及の追求が言われ ているが,歌川・外岡論文はエネルギー起源 CO2 排出に関しては,新技術を使用しないで も可能と述べている点は注目する必要がある.
河野論文「日本の自然エネルギーの現状と政 策課題」では,日本は自然エネルギー資源が豊 かな国であるにも関わらず,ヨーロッパ諸国と 比べて,自然エネルギーの導入が非常に少ない ことを紹介し,その原因が政府のエネルギー政 策にあると述べている.更に,自然エネルギー 普及と環境対策は一体で考える必要があること も論じている.
(こうの・ひとし:『日本の科学者』客員編集委員・ 兵庫県立大学名誉教授,気象学,大気環境学)
河野 仁
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます