週のはじめに考える イマジンとオミクロン (2022年1月30日 中日新聞)

2022-01-30 10:38:04 | 桜ヶ丘9条の会

週のはじめに考える イマジンとオミクロン

2022年1月30日 
 年始には多くの人が神社仏閣に詣で、さまざま願を掛けたと思いますが、この少し前のジョークも願いごとにまつわるものです。
 菅義偉首相が政権運営に頭を悩ませていると、神が現れた。「政権をとったのに元気がないな。君の願いをかなえてあげよう」「では、新型コロナを終息させてください」「それは無理だ。別の願いにしてくれ」「では、次の総選挙で圧勝させてください」「…コロナの方をやってみよう」(名越健郎著『ジョークで読む世界ウラ事情』)
 現実の菅政権は総選挙まで持ちませんでしたが、その終焉(しゅうえん)が引換券になったように、昨秋から新規感染者が急減したので、本当に神が「コロナの方をやって」くれたのかと思ったほどでした。

想像したくないこと

 閑話休題−。神に、どこまで願っていいものか、というのは悩ましいところです。身の回りの平穏だけでなく、いっそ「世界が平和でありますように」といきたいのですが、さすがに欲張りすぎか、と思ったり。神がどう思(おぼ)し召すかはともかく、人間の世界では、ただのきれいごとだと一蹴される気がします。例えば、友人に「初詣で何を願ったか」と聞かれて「世界平和」と答えたら、十中八九、ジョークだと思われるでしょう。
 そういう意味では、あのジョン・レノンの『イマジン』は、きれいごと満載の曲かもしれません。「世界平和」のほか「人類みな兄弟」「世界は一つ」みたいなメッセージだらけ。中で<想像してみよう>と呼び掛けていることの一つが、<国がない>、そして、そのために<殺したり死んだりする理由がない>世界です。
 今、それと正反対のことが、また勃発しかけています。ウクライナ対ロシア、それぞれの友邦が絡んでの緊張状態。想像したくないのですが、万が一、戦端が開かれれば、人々が国と国の軋轢(あつれき)を理由に「殺したり死んだりする」ことになるのは間違いありません。世界が変異株という難敵に四苦八苦している時も時。この上、戦争など愚かしいにもほどがあります。
 思えば、このオミクロンという変異株が初確認されたのは、まだ二カ月前、南アフリカでのこと。猛烈な勢いで感染者が増え、欧州諸国は慌てて南アからの入国を止めましたが、奏功せず。米国へも広がり、やがて日本などアジアの国にまで。既にピークを越えた国もあるようですが、わが国は今、その猛威のただ中にあります。
 それ以前、先進国では、ワクチン接種などにより感染はある程度抑えられていました。新規感染者が急減し、一時は二桁までいった日本がいい例でしょう。しかし、新変異株の流入で瞬く間に元の木阿弥(もくあみ)、どころか、デルタ株をはるかに超える感染者増加ペースに医療体制がついていけていません。

「世界は一つ」でなくては

 オミクロンはあらためて、いかに「世界は一つ」かを示したと言えるでしょう。どれほど各国が水際対策を徹底したといっても、完璧な「鎖国」は無理。小さな隙間から、必ず侵入してくる。結局、時とともに世界はオミクロンに染まっていったのです。しかし、変異株は同時に「世界は一つ」ではない現実もあぶり出しています。
 ワクチン供給量をはじめ、対コロナの医療体制に関しては先進国と途上国、富裕な国と貧しい国の間に大きな格差があるからです。
 そうした防御の弱い地域では感染者が急増する。そして、感染爆発が起きたりすれば新たな変異株が生まれやすくなる、ということは世界保健機関(WHO)も警告しているところです。デルタ株もワクチンなどの防御が不十分で感染爆発が起きたインドで初めて確認された変異株でした。
 つまり、いくら富裕な先進国だけで感染が抑制されても、世界のどこかに、変異株の「揺りかご」となる弱い部分が残っているうちは、また新たな脅威にさらされる危険性が残るということです。しかも、感染力は高いが重症化はしにくいとされるオミクロンとは違い、感染力も毒性も強い変異株が生まれない保証はありません。

変異株のメッセージ

 結局は、貧富の格差を埋めて、真の「世界は一つ」を実現していくほかないのです。もし、きれいごとだと思うなら、『イマジン』でなく、オミクロンのメッセージと読み替えてはどうでしょう。
 さあ、想像してみよう。貧困や格差が解消されることで、富裕な側も「得」する世界を−。
 こう書くと、何とも打算的でいやらしい。それでも、願いや理想を、いつもきれいごととして神棚に上げ、一切近づこうとしないよりはましでしょう。何とも業腹なのですが、オミクロンに教わった気もしています。
 

 


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