年金運用10兆円吹き飛んだ? 危ういアベノミクス(2015年10月30日中日新聞)

2015-10-31 17:05:47 | 桜ヶ丘9条の会
年金運用10兆円吹き飛んだ? 危ういアベノミクス 

2015/10/30 中日新聞

新しいポスターを発表する自民党の木村太郎広報本部長=27日、東京・永田町の同党本部で
 安倍政権の意向を踏まえ、リスクの高い株式の比重を増やしてきた年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)。七~九月期の運用成績は、世界的な株安が響き、民間の試算によると、十兆円近くのマイナスになったもようだ。しかも、海外の低格付け(ジャンク)債の投資にも手を出そうとしている。

◆増すリスク

 二十一日、衆院第二議員会館で開かれた民主党厚生労働部門会議。座長の山井和則衆院議員が厚労省の担当者に迫った。「株価下落で(公的年金に)十兆円の運用損が出ているという話もある。それを取り戻そうと低格付け債に投資しようとしているのではないか」

 十兆円の損失とは、野村証券の西川昌宏チーフ財政アナリストの試算で、七月一日~九月二十九日の運用実績が九兆四千億円のマイナスとはじいたものが基になっている。八月の中国ショックによる世界的な株価暴落などが響いた結果だが、西川氏は試算結果について「一時的に下がる時もあるだろう」とする。

 四半期で見れば、近年で最大の損失は、リーマン・ショック直後の二〇〇八年十~十二月期の約五兆七千億円。厚労省の担当者は「(運用実績は)十一月をめどに公表する予定」と述べるにとどめた。ただ、今回の運用損は過去最大規模に膨らむ恐れがある。山井氏は本紙の取材に「株式の割合が〇八年当時と比べて倍増し、振れ幅が大きくなっている。株の比率を増やしたことは間違いだった」と糾弾する。

 一方、低格付け債への投資の委託先が一日に発表された。低格付け債とは、投機的水準である「ダブルB」以下の債券を指す。「ジャンク債」とも呼ばれ、財政危機にひんしているギリシャ国債も含まれる。高利回りが期待できるものの、債務不履行に陥る危険性もある「ハイリスク・ハイリターン型」の投資だ。

 山井氏が、低格付け債への投資が初めての試みかどうかをただすと、厚労省の担当者は「これまでは制限があったため、してこなかった」と認めた上で、「大規模な投資機関の一般的な投資行動だ」と必要性を強調した。

 本紙は、GPIFにも低格付け債への投資について聞いた。担当者は「安全性を調査し、収益が出ると判断すれば買うということ。全体の割合からすれば小さい額だ」とリスクの低さをアピールした。しかし、この先、株式を含めた運用の損失が拡大した場合はどうするのか。なんと担当者は「保険料を上げて対応することも考えられる」と答えたのだ。

 そもそも厚生年金の保険料率は〇四年度から毎年0・354%引き上げられており、当時13・58%(労使折半)だったものが一七年度には上限の18・3%に達する。

 塩崎恭久厚労相は、昨年十一月の記者会見で「運用の責任は当然のことながら厚生労働大臣が負うことになっている」と発言したが、結局、運用の失敗のツケは保険料の引き上げという形で国民に回るわけだ。

◆「株価連動内閣」

 従来、年金基金は「安全第一」を前提に、手堅く運用されてきた。それが昨年十月に一変した。「株価連動内閣」と揶揄(やゆ)される安倍政権の意向に沿う形で、国債など国内債券をこれまでの60%から35%に縮小する一方、国内株式と外国株式をそれぞれ12%から25%に拡大。外国債券も15%に引き上げた。

 日銀の追加金融緩和とともに飛び出した年金運用方針の転換は、海外投資家を浮足立たせた。実際、急激な株高と円安が進んだ。昨年十二月の衆院選のさなか、日経平均株価は一時、七年ぶりの一万八〇〇〇円台に乗った。アベノミクスの効果を喧伝(けんでん)する安倍政権を強力に後押しした。

 年金運用も好調で、昨年度は十五兆二千九百二十二億円の黒字だった。それが、世界的な株価暴落で潮目が変わりつつある。経済評論家の山崎元氏は「株式投資の運用を増やせば十兆円もうけることもあるが、十兆円損することもあるのは当たり前。問題は、四半期で何兆円も損をするような運用を年金でやってもいいと、国民自らが決めたかどうかだ」と指摘する。

 加えてGPIFは、低格付け債にも手を広げようとしている。山崎氏は、日本の株式市場に大金を投入する危うさと比べると、外国債券に分散投資するという考え方は「はるかにまし」と説くが、「ジャンク債は、情報を得ることが困難。運用会社の商売に乗せられる可能性がある」と懸念を示した。

 日本総研上席主任研究員の西沢和彦氏も、国民の判断をあおぐことなく公的年金の運用方針が転換されたことを問題視する。「リスクを知った上で自ら決め、利益を享受し、損失をかぶるのが鉄則。選挙などを通じて議論されるべき極めて重大な政策が、国民を蚊帳の外に置いて決まっている」

 年金の積極的な株式投資を促した政府の有識者会議の報告書では、米国やカナダなども年金で株式運用していることを紹介しているが、西沢氏は「それらの国が株式で運用しているのは、日本の厚生年金にあたる部分だけ。どこも基礎年金は、株式運用していないことに報告書は触れていない」と指摘する。

 自民党は二十七日、安倍晋三首相の党総裁選再選を受けて新たに作製したポスターを発表した。キャッチコピーは「経済で、結果を出す」。アベノミクスへの自信は揺るがない。

 経済ジャーナリストの荻原博子氏は「安倍政権は株価さえ上がればいいと思っているからでしょう。年金が行き詰まったころには、もういないと高をくくっている」と嘆く。

 株価が高い間は国民も目くじらを立てないが、運用損が続けばどうか。荻原氏は悲観的である。「(二〇年の)東京五輪までは持ちこたえるかもしれないが、その後にひずみが一気に出る。塩崎厚労相は『責任を取る』と言っているが、どうやって取るつもりか」

(木村留美、中山洋子)

 

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