台風大型化、堤防もたず 21河川決壊
2019/10/14 中日新聞
三連休の列島を襲った台風19号は東日本の広範囲に大雨を降らせ、長野市を流れる千曲川など二十一河川で堤防が決壊した。大規模な浸水被害をもたらした原因について、専門家は温暖化の影響による台風の勢力維持や想定外の雨量などを挙げた。同時に、今後も同規模の台風が襲来する可能性があるとして、一層の警戒を呼び掛けた。
◆水位と水圧
「想定を上回る水位と水圧だった」。国土交通省千曲川河川事務所(長野市)の万行(まんぎょう)康文副所長は十三日の取材で、千曲川の決壊についてこう話した。
同事務所によると、千曲川の川幅は広い所で一キロほど。決壊した長野市穂保(ほやす)の現場付近も約一キロだが、六キロほど下流の長野県中野市の立ケ花橋近くで二百メートル前後に狭まってから再び川幅が広がるため、橋の手前で水位と水圧が上がりやすい。
このため国は二〇一四年からの三十年計画で、過去最大の雨にも耐えられる堤防整備などを進めてきたが、同省北陸地方整備局(新潟市)によると、穂保付近の堤防は完成していたものの、川幅を広げる掘削工事は終わっていなかった。
台風19号で、立ケ花橋の近くにある観測所の水位は高さ一二・四四メートル(暫定値)を記録。千曲川では一九八三年九月にも大規模な洪水が発生したが、今回は当時の水位一一・一三メートルを上回り、観測史上最高になった。万行副所長は「穂保付近は地形的に決壊しやすい。川の周囲の環境のせいで堤防の高さが他に比べて数十センチほど低かったため、越水して水圧で削られ決壊したのだろう」と話す。
◆相次いだ決壊
千曲川は名前が示す通り他の河川に比べて曲がりくねっており、川幅の増減が大きい特徴がある。名古屋大減災連携研究センターの田代喬(たかし)特任教授(河川工学)は「蛇行して勾配が緩い分だけ水はけは悪い。今回の雨量を許容できるだけのダムなどの制御施設もなかった」と指摘する。
台風19号では千曲川だけでなく、東日本の二十一河川、計二十四カ所で堤防が決壊。雨がやんで時間がたってから決壊した川もある。田代特任教授は「地中に染み込んだ水や支流からの流入で、数時間から半日程度の時間差で水位が押し上げられることはある」と指摘。支流が多く、流域の広い川ほど時間差が生じる可能性が高まるという。
その上で、今回のような想定を上回る雨への対応として「下流を守る遊水地など、安全な場所に積極的に水をあふれさせる対策を検討すべきではないか」と話す。
◆「温暖化の影響」
今回の台風19号を含め、大雨を降らせる台風が増えているのはなぜか。愛知教育大の大和田道雄名誉教授(気候・気象学)は「海面温度の上昇で台風の勢力が落ちなくなっている」と話し、地球温暖化で台風が大型化していると指摘する。
台風は海面から上がってくる水蒸気をエネルギーに発達する。温帯低気圧が台風になる海面温度は二七度超とされているが、近年は秋ごろの日本近海でも二八度に達し、勢力が衰えないまま上陸するケースが目立っている。水分をより多く含むため、雨量も多くなるという。
大和田名誉教授は「一九七〇年代後半からの気候変動で、現在の中部地方はかつての沖縄以南に相当する気候になった」と指摘。「一時間当たり一〇〇ミリに達する雨は『二百年に一度』と言われていたが、今は当たり前になっている。台風や大雨への意識を根底から変えなければならない」と警鐘を鳴らす。
(立石智保、芦原千晶、角雄記)
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