オスプレイでよいのか 週のはじめに考える
2019/2/17 中日新聞
米海兵隊の「オスプレイ」の定期整備が二年を経過しても終わりません。陸上自衛隊はこのオスプレイを十七機導入します。これでよいのでしょうか。
防衛省と在日米軍は、沖縄の米海兵隊が保有するオスプレイの定期整備を千葉県の陸上自衛隊木更津駐屯地で行うことにしました。整備を請け負ったのは富士重工業(現スバル)です。
最初の一機の定期整備が始まったのは二〇一七年二月一日。防衛省は「一機あたりの整備工期は三、四カ月」、ただし初回は「九月上旬まで実施」と地元の木更津市に説明しました。
米軍が業者公募か
ところがどうでしょう。その一機目は二年たっても整備が終わらず、格納庫に入ったままです。
防衛省の担当者は、整備マニュアルが英語の電子データで分かりにくいこと、交換する部品や工具が米国から届かないことを遅延の理由に挙げます。
スバルの整備員は米国で研修した専門家を含めて約三十人もいます。「部品や工具が米国から届かない」との説明も驚きですが、防衛省関係者は「機体内部がサビだらけで手の施しようがなく、交換しなければならない部品が思いのほか多かった。その部品の交換に必要な工具も米国から取り寄せた」と舞台裏を明かします。
どれほど手荒く使っていたのか、またそんな機体が飛んでいたのかと不安になります。
整備に時間がかかった影響でしょうか。米軍は昨年七月、沖縄配備のオスプレイ二十四機のうち八機を米国から運んできた八機と一斉に交換しました。この事実を防衛省、在日米軍とも公表せず、双方に事実を指摘しても交換した機数すら明らかにしません。
異例の導入経過
昨年十二月には米海軍省がオスプレイの整備ができる業者を探している旨のインターネット公告がありました。希望者は今月二十日、神奈川県の米海軍厚木基地に来てほしいというのです。
防衛省の担当者は「情報収集のための公告」といいますが、スバルとの交代なのか、業者の追加なのかは「わからない」とのこと。一方、在日米軍はメールでの問い合わせに返事すらありません。
オスプレイは、沖縄配備から五年もたたないうちに二機が墜落などで失われ、エンジンの不調などによる予防着陸も目立ちます。
死者が出るなどの重大事故にあたる「クラスA」の事故率は十万飛行時間あたり、三・二四で、米海兵隊機全体の二・七二より高く、また空軍版オスプレイのクラスA事故率は、その海兵隊版より高い四・〇五です。
そのうえに整備が難しい機体だとすれば、沖縄ばかりでなく空軍版のオスプレイが昨年、配備された東京都の横田基地周辺の住民も心穏やかではおられません。
陸上自衛隊が導入するオスプレイ十七機は近く国内に配備され、日米を合計すれば五十一機のオスプレイが日本の空を飛び回ることに。本当によいのでしょうか。
木更津駐屯地での整備遅れについて、山崎幸二陸上幕僚長は会見で「コメントする状況にない」とだけ。木更津駐屯地は「日米オスプレイの共通整備基盤」(防衛省)であり、自衛隊版オスプレイもここで整備するのですから人ごとではないはずです。
そもそも自衛隊のオスプレイ導入は、異例の経過をたどりました。本来、自衛隊の武器類はユーザーである防衛省・自衛隊が選定します。しかし、二十年先の安全保障環境を見通して策定する「陸上自衛隊長期防衛戦略」にオスプレイの名前はなかったそうです。
陸上自衛隊はオスプレイの二倍以上の人員や物資を空輸できるCH47大型ヘリコプターを五十五機も保有していたからです。
導入することになったのは、米軍が沖縄配備を進めた一二年当時、沖縄から上がった配備反対の声に対し、民主党政権の玄葉光一郎外相が「安全性を訴えるため自衛隊も保有すべきだ」と提案、当時の森本敏防衛相が同調して調査費を計上、これを安倍晋三政権が引き継ぎ、導入を決めたのです。
「沖縄の民意」より「米軍の意向」を優先する政治判断でした。文民である政治家が「これを使え」と軍事のプロである自衛隊の装備品を選んだのです。
暴走する文民統制
その意味では、海上自衛隊が求めていないにもかかわらず、護衛艦「いずも」の空母化を自民党が提言し、首相官邸が丸のみした新「防衛計画の大綱」の「空母保有」も同一線上にあります。
軍事組織の暴走を止めるはずの文民統制が危険を呼び込むのだとすれば救いはどこにあるのか。痛恨の極みというほかありません。
2019/2/17 中日新聞
米海兵隊の「オスプレイ」の定期整備が二年を経過しても終わりません。陸上自衛隊はこのオスプレイを十七機導入します。これでよいのでしょうか。
防衛省と在日米軍は、沖縄の米海兵隊が保有するオスプレイの定期整備を千葉県の陸上自衛隊木更津駐屯地で行うことにしました。整備を請け負ったのは富士重工業(現スバル)です。
最初の一機の定期整備が始まったのは二〇一七年二月一日。防衛省は「一機あたりの整備工期は三、四カ月」、ただし初回は「九月上旬まで実施」と地元の木更津市に説明しました。
米軍が業者公募か
ところがどうでしょう。その一機目は二年たっても整備が終わらず、格納庫に入ったままです。
防衛省の担当者は、整備マニュアルが英語の電子データで分かりにくいこと、交換する部品や工具が米国から届かないことを遅延の理由に挙げます。
スバルの整備員は米国で研修した専門家を含めて約三十人もいます。「部品や工具が米国から届かない」との説明も驚きですが、防衛省関係者は「機体内部がサビだらけで手の施しようがなく、交換しなければならない部品が思いのほか多かった。その部品の交換に必要な工具も米国から取り寄せた」と舞台裏を明かします。
どれほど手荒く使っていたのか、またそんな機体が飛んでいたのかと不安になります。
整備に時間がかかった影響でしょうか。米軍は昨年七月、沖縄配備のオスプレイ二十四機のうち八機を米国から運んできた八機と一斉に交換しました。この事実を防衛省、在日米軍とも公表せず、双方に事実を指摘しても交換した機数すら明らかにしません。
異例の導入経過
昨年十二月には米海軍省がオスプレイの整備ができる業者を探している旨のインターネット公告がありました。希望者は今月二十日、神奈川県の米海軍厚木基地に来てほしいというのです。
防衛省の担当者は「情報収集のための公告」といいますが、スバルとの交代なのか、業者の追加なのかは「わからない」とのこと。一方、在日米軍はメールでの問い合わせに返事すらありません。
オスプレイは、沖縄配備から五年もたたないうちに二機が墜落などで失われ、エンジンの不調などによる予防着陸も目立ちます。
死者が出るなどの重大事故にあたる「クラスA」の事故率は十万飛行時間あたり、三・二四で、米海兵隊機全体の二・七二より高く、また空軍版オスプレイのクラスA事故率は、その海兵隊版より高い四・〇五です。
そのうえに整備が難しい機体だとすれば、沖縄ばかりでなく空軍版のオスプレイが昨年、配備された東京都の横田基地周辺の住民も心穏やかではおられません。
陸上自衛隊が導入するオスプレイ十七機は近く国内に配備され、日米を合計すれば五十一機のオスプレイが日本の空を飛び回ることに。本当によいのでしょうか。
木更津駐屯地での整備遅れについて、山崎幸二陸上幕僚長は会見で「コメントする状況にない」とだけ。木更津駐屯地は「日米オスプレイの共通整備基盤」(防衛省)であり、自衛隊版オスプレイもここで整備するのですから人ごとではないはずです。
そもそも自衛隊のオスプレイ導入は、異例の経過をたどりました。本来、自衛隊の武器類はユーザーである防衛省・自衛隊が選定します。しかし、二十年先の安全保障環境を見通して策定する「陸上自衛隊長期防衛戦略」にオスプレイの名前はなかったそうです。
陸上自衛隊はオスプレイの二倍以上の人員や物資を空輸できるCH47大型ヘリコプターを五十五機も保有していたからです。
導入することになったのは、米軍が沖縄配備を進めた一二年当時、沖縄から上がった配備反対の声に対し、民主党政権の玄葉光一郎外相が「安全性を訴えるため自衛隊も保有すべきだ」と提案、当時の森本敏防衛相が同調して調査費を計上、これを安倍晋三政権が引き継ぎ、導入を決めたのです。
「沖縄の民意」より「米軍の意向」を優先する政治判断でした。文民である政治家が「これを使え」と軍事のプロである自衛隊の装備品を選んだのです。
暴走する文民統制
その意味では、海上自衛隊が求めていないにもかかわらず、護衛艦「いずも」の空母化を自民党が提言し、首相官邸が丸のみした新「防衛計画の大綱」の「空母保有」も同一線上にあります。
軍事組織の暴走を止めるはずの文民統制が危険を呼び込むのだとすれば救いはどこにあるのか。痛恨の極みというほかありません。