政権の意向、また忖度か 厚労省、違う条件で比較(2018年2月20日中日新聞)

2018-02-20 09:39:20 | 桜ヶ丘9条の会
政権の意向、また忖度か 厚労省、違う条件で比較 

2018/2/20 中日新聞

 裁量労働制で働く人の労働時間が一般労働者より短いデータもあるとした安倍晋三首相の国会答弁は、本来比べられないデータを混同したずさんな資料を根拠にしていたことが十九日、明確になった。厚生労働省は単純ミスと強調するが、問題の資料が示されたのは、裁量労働制を拡大する労働基準法改正案を閣議決定する前月。野党からは「官僚が政権の意向を『忖度(そんたく)』したのではないか」と疑う声が出ている。

■定着

 「ばかな話だと言われれば、その通りだ」

 検証結果を記者団に説明した厚労省の担当者は、作為はなかったと力説した。

 今回問題になったのは、厚労省が二〇一五年三月の民主党(現民進党)会合で示した資料。約一年半さかのぼる一三年十月に公表した「労働時間等総合実態調査」で調べたデータを引用し、同年四月の裁量労働制の平均労働時間が、一般労働者より二十一分短いという結論を導き出していた。

 この中で、一般労働者は平均一時間三十七分の残業をしたことになっていたが、今回の検証で「残業時間が最も長い一日」の平均値だったと判明。

 厚労省幹部は「結果をまとめる段階で『最長』が抜け落ちてしまった」と説明。数字だけが省内で引き継がれ、「一般労働者より裁量労働制の方が短いデータ」として定着したという。

■役割

 この資料が示されたのは、安倍政権が経済界の期待に沿い、「世界で一番企業が活躍しやすい国」を掲げて進めた労働政策の転換が節目を迎えていた時期だ。

 安倍政権は一三年六月、裁量労働制の対象拡大検討を盛り込んだ成長戦略を策定。同年九月の労働政策審議会(厚労相の諮問機関)で具体的な議論をスタートさせた。

 一四年六月の成長戦略は、高収入の一部専門職を労働時間規制から外す「残業代ゼロ」制度(高度プロフェッショナル制度)創設を明記。一五年四月、裁量労働制拡大を盛り込んだ労基法改正案を閣議決定した。

 こうした動きに、野党や労働界は「過労死促進」「定額働かせ放題」と強く反発。今回問題になった資料は、これらの批判に反論する材料の役割を担った。

■無理

 大きな焦点は、データを無理に比較した資料を厚労省がまとめた背景に、首相官邸の意向が働いていたかどうか。同省の担当者は「官邸の指示でつくった数字ではない」、政府高官も「首相サイドから出させたわけではない」と説明する。

 しかし、野党内には、官僚による忖度も指摘される学校法人「森友学園」「加計学園」問題と「同じ構図」との疑念も。どんなデータなら政権にとって有利かを「役所が忖度したのではないか」(希望の党の柚木道義衆院議員)との見方は少なくない。

 森岡孝二関西大名誉教授(企業社会論)は「厚労省がこうした初歩的なミスをするとは考えられない。(裁量労働制の方が短いという)結論ありきで、数字を合わせようとして無理が出たのではないか」と指摘している。

 (木谷孝洋、上坂修子)

中日春秋 

2018/2/20
 一八九八年の米西戦争の期間中、米海軍の死亡率は千人につき九人だったそうだ。一方で、同じ期間のニューヨーク市内における死亡率は千人につき十六人。米海軍はこの数字を使って、海軍に入った方が安全だと宣伝していたそうである

▼数字のわながある。海軍の大部分が健康な青年であるのに対しニューヨーク市民には赤ん坊もいれば、高齢者や病人もいる。当然死亡率は高くなる

▼『統計でウソをつく法』(講談社)にあった。二つの死亡率の比較に意味はないが、数字で示されるとつい信じてしまいやすい

▼意図的だとすれば、見え透いた数字のトリックを使ったものである。裁量労働制の労働時間をめぐる、厚生労働省のデータである。一般労働者よりも、裁量労働制で働く人の労働時間の方が短いとするデータを示していたが、調査方法に問題があった

▼裁量労働制の人については実際の労働時間を、一般労働者には残業が最長の日の労働時間を調査している。これなら、裁量労働制の労働時間の方が短くなりやすいだろう。二つは比較できない数字である

▼裁量労働制の対象を拡大したい政府の思惑か。厚労省は陳謝したとはいえ、ひいきの引き倒しで、裁量労働制といえば、怪しげな統計まで使って、政府が対象を拡大しようとしているものという印象と警戒が広がってしまったはずだ。統計をとるまでもない。