支援不足、民間に限界 札幌・自立支援住宅火災で11名死亡(2018年2月2日中日新聞)

2018-02-02 09:37:25 | 桜ヶ丘9条の会
支援不足、民間に限界 札幌・自立支援住宅火災 

2018/2/2 中日新聞

 火災で十一人が死亡した札幌市の自立支援住宅「そしあるハイム」には、身寄りがなく、生活保護を受給する高齢者ら十六人が暮らしていた。民間が運営する同種の施設は各地にあり、生活困窮者の受け皿となっている。公的支援は不十分で、運営はぎりぎり。スプリンクラーなど高額な消火設備まで手が回らない状況下で悲劇が繰り返されている。出火原因や背景事情の解明はこれからで、市は無届けの有料老人ホームに当たる可能性があるとして調査する方針だ。ただ業界では良心的で知られる運営者で、識者は「民間の善意にも限界がある」と訴える。

 「寝たきりや認知症の高齢者も暮らしている。火事になったらアウトなので、火の始末にはとにかく気を使う」。生活困窮者向け施設「無料・低額宿泊所」を関東地方で営むNPO法人代表の男性は現状を打ち明ける。

 老朽化したアパートには六畳の個室が並び、風呂とトイレは共用。格安の家賃で食事も提供する。十数人の入居者はほとんどが生活保護受給者で、男性を含めてスタッフの給与はごくわずか。改築資金はない。

 「安全面や環境面を改善したいが、最低限の住居提供で精いっぱい」。それでも「他に行き場がない入居者のためにも事業をやめるわけにはいかない」と力を込めた。

■ついのすみか

 無料・低額宿泊所は本来、生活保護受給者や低所得者が自立するまで過ごす一時的なシェルターだ。しかし、体の衰えや病気が高齢者の就労や自立を阻む。民間の賃貸物件にも敬遠され、介護施設にはなかなか入所できない。結果として貧困高齢者の「ついのすみか」になっている。

 全国の自治体に届けられた無料・低額宿泊所は二〇一五年六月末時点で五百三十七カ所、利用者は首都圏を中心に一万五千六百人に上る。火災になったそしあるハイムは「下宿」として届けられ、この数字にも含まれていない。

 ホームレスの支援団体「つくろい東京ファンド」で代表理事を務める稲葉剛さんは「NPOの人たちが自費で住宅を借り上げ、運営しているケースが多い」と指摘する。

 限られた資金で借りるため古い木造アパートが多く、今回のように、火事が起きると火が回りやすい。稲葉さんは「手弁当でやっているが、善意にも限界がある。本来は行政がきちんと住宅を保障すべきだ」と公的支援の必要性を訴える。

■動き鈍い行政

 ただ、行政の動きは遅い。国は生活保護費を受給者から搾取する「貧困ビジネス」に走る悪質業者に対する規制に乗り出した。一方で、適切な支援に励む事業者に財政支援する案は検討段階。セーフティーネットを民間に頼る構図は、当分続きそうだ。

 生活困窮者向け宿泊施設では被害が大きい火災が続いている。一五年五月、川崎市で簡易宿泊所が焼け、十一人が死亡。一七年五月には事実上の簡易宿泊所だった北九州市のアパート火災で六人が亡くなった。

 「高齢者が住む場所が多様化し、法令が追い付いていないのかも」。総務省消防庁のある職員は、繰り返される悲劇にショックを受けた様子。「各地の自治体と消防署が協力して施設の実態を確認し、防火対策を進めていく必要がある」と危機感をあらわにした。

◆スプリンクラー設置義務なし

 火災で十一人が死亡した札幌市の自立支援住宅は消防法令上、アパートなどと同じ扱いで、スプリンクラーの設置義務はなかった。特別養護老人ホームなどは過去の火災を教訓に、防火対策が強化されている。今回の支援住宅も多くの高齢者が利用していたが、運営形態の違いから防火体制に差が出た。

 スプリンクラーや誘導灯、自動火災報知設備などを設置しなければならないかどうかは建物の用途や規模、階数によって異なる。用途は飲食店、デパート、ホテル、社会福祉施設などに分かれるが、自立支援住宅という区分はない。

 今回の住宅は木造一部三階建て。旅館だった建物を借りて使っていた。消防法令上は共同住宅と同じ扱いで、十一階以上の部分にしかスプリンクラーを設置する必要はない。一方、特別養護老人ホームや認知症グループホームなどの社会福祉施設は、小規模な建物もスプリンクラー設置を義務化するなど、規制が強化されている。

 自立支援住宅も、本来なら福祉施設に入る高齢者が利用しているケースが多い。
消防庁の担当者は「単純に防火基準を強化すれば、全国の共同住宅に影響する」と指摘。自立支援住宅に限って規制を強化することも考えられるが、消防設備を充実させれば利用料金に跳ね返るなど課題は多い。