高浜3、4号機の再稼働差し止め 福井地裁が仮処分
2015/4/15中日新聞
高浜原発3、4号機の再稼働差し止めの仮処分が決定し、垂れ幕を掲げて喜ぶ住民ら=14日午後、福井地裁前で(河野光吉撮影)
福井県や関西の住民ら九人が関西電力高浜原発3、4号機(同県高浜町)の再稼働差し止めを求めた仮処分申し立てで、福井地裁(樋口英明裁判長)は十四日、住民側の主張を全面的に認めて再稼働を認めない決定を出した。原発の運転を禁じる仮処分は全国で初めて。決定はすぐに効力を持つ。司法が原発の再稼働を止めた形となり、再稼働路線に積極的な政府の原子力政策に影響を与える可能性もある。
高浜3、4号機は原子力規制委員会が今年二月、再稼働を前提とした原発の新規制基準を満たしていると結論。関電は福井県の地元同意などを経て、今年十一月の再稼働を目指していたが、仮処分の決定が取り消されるまでは運転できない。関電は、決定を不服として福井地裁に異議を申し立てることを明らかにした。今月二十二日には九州電力川内(せんだい)原発(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働差し止めの仮処分の可否決定が鹿児島地裁で予定されており、結果が注目される。
樋口裁判長は決定で、関電が想定する基準地震動(耐震設計の目安となる揺れ)について「信頼に値する根拠が見いだせない。基準地震動を超える地震が起きれば、炉心損傷に至る危険性が認められる」として、住民側の主張を認めた。
さらに、政府が「世界で最も厳しい安全基準」とする規制委の新規制基準を「合理性を欠く」と反論。高浜3、4号機は「万が一の危険という領域をはるかに超える現実的で切迫した危険がある」として、規制委の新規制基準を満たしていても安全は確保できないとした。再稼働した場合、二百五十キロ圏内に住む住民は「人格権を侵害される具体的な危険がある」と判断した。
決定を受け、菅義偉官房長官は十四日の会見で「政府としては規制委の判断を尊重し、再稼働の方針に変わりない」と述べた。
樋口裁判長は昨年五月、福井地裁で、関電大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の運転禁止を命じた。判決は現在、名古屋高裁金沢支部で係争中。住民らは昨年十二月、高浜3、4号機と大飯3、4号機の再稼働差し止めを求め、同地裁に仮処分を申し立て、大飯の審理は分離された。
仮処分をめぐる審尋は三月十一日に結審したが、関電側は「審理が十分につくされていない」などとして、樋口裁判長ら裁判官三人の交代を求める忌避を申し立てるなど異例の展開をたどった。
◆速やかに不服申し立て
関西電力の話 慎重な審理を福井地裁に強く求めてきたが、合理的な理由なく審理を終結し、申し立てを認める決定をした。主張を理解されず遺憾であり、承服できない。決定文の詳細を確認し、速やかに不服申し立ての手続きを行う。再稼働に向けた影響を最小限にとどめ、早期に仮処分命令を取り消していただくため、今後も安全性の主張・立証に全力を尽くす。
<福井地裁決定の骨子>
▼高浜原発3、4号機を運転してはならない
▼想定を超える地震が来ないとの根拠は乏しく、想定に満たない場合でも冷却機能喪失による重大事故が生じうる
▼使用済み核燃料を堅固な施設で囲い込むなどの対策がとられていない
▼原子力規制委員会の新規制基準は合理性を欠き、適合しても安全性は確保されていない
▼原発運転により、住民の人格権が侵害される具体的な危険がある
住民側、全面勝利に喜び 高浜再稼働差し止め
2015/4/15 中日新聞
司法が原発再稼働に「待った」をかけた。十四日、関西電力高浜原発3、4号機の運転禁止を命じた福井地裁の仮処分決定。東京電力福島第一原発の事故から四年がたち、政府と電力会社が原発再稼働への動きを加速させる中、「原発運転で人格権が侵害される危険がある」との司法判断に、住民側や脱原発派は「画期的だ」「原発ゼロの社会に踏み出せる」と喜んだ。一方、原発を抱える自治体では歓迎と戸惑いの声が交錯した。
午後二時すぎの福井地裁前。「全面勝訴。考え得る最高の内容です」。雨の中、集まった支援者の前で、弁護団の河合弘之共同代表が声を張り上げると、涙ぐむ人も見られた。掲げた垂れ幕には、「司法はやっぱり生きていた」。住民側の思いが込められていた。
近くのホールで開かれた報告集会では、支援者四百五十人が会場に収まりきらず、別室を設けるほど。河合共同代表が「徹底的に戦う最大の武器を手にした。きょうから第二ラウンドが始まる」。自信に満ちあふれた声が響くと、会場は大きな拍手に包まれた。
今回の決定では、原子力規制委員会の新規制基準について「合理性を欠く」と指摘。再稼働の判断基準そのものに疑問を呈した。河合共同代表は「日本の全原発の再稼働が禁止されたと言って差し支えない」と強調した。
四年前の福島第一原発事故後、福島県双葉町から福井県坂井市に避難している川崎葉子さん(64)は地裁前で「私たちのように古里を奪われる人が二度と出ないための第一歩。すごくうれしい」と笑顔で語った。
申立人の一人、大阪府高槻市の水戸喜世子さん(79)は福島の事故を振り返りつつ「原発が止まらない絶望感は大きかった」と吐露。「原発を全部止めたい。これが未来の子どもたちへの最低の義務」と語った。
市民団体「福井から原発を止める裁判の会」代表の中嶌哲演さん(73)も駆けつけた。「理想と現実が乖離(かいり)するのは世の常だが、理想と現実が一枚になった」と評価。「再稼働を許していくなら第二、第三の福島は必然。あと一、二年が正念場。再稼働を一基も許さなければ、原発ゼロの社会に日本は踏み出せる」と訴えた。
十五日には大飯原発訴訟の控訴審が名古屋高裁金沢支部で開かれる。審理を前に中嶌さんは電力会社にこう呼び掛けた。「決定に背いて再稼働に暴走していくなら国民の反発を受けるだけ。謙虚に脱原発の一歩を踏み出すなら、どれほど国民の共感と支持を得られるか分かりません」
2015/4/15中日新聞
高浜原発3、4号機の再稼働差し止めの仮処分が決定し、垂れ幕を掲げて喜ぶ住民ら=14日午後、福井地裁前で(河野光吉撮影)
福井県や関西の住民ら九人が関西電力高浜原発3、4号機(同県高浜町)の再稼働差し止めを求めた仮処分申し立てで、福井地裁(樋口英明裁判長)は十四日、住民側の主張を全面的に認めて再稼働を認めない決定を出した。原発の運転を禁じる仮処分は全国で初めて。決定はすぐに効力を持つ。司法が原発の再稼働を止めた形となり、再稼働路線に積極的な政府の原子力政策に影響を与える可能性もある。
高浜3、4号機は原子力規制委員会が今年二月、再稼働を前提とした原発の新規制基準を満たしていると結論。関電は福井県の地元同意などを経て、今年十一月の再稼働を目指していたが、仮処分の決定が取り消されるまでは運転できない。関電は、決定を不服として福井地裁に異議を申し立てることを明らかにした。今月二十二日には九州電力川内(せんだい)原発(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働差し止めの仮処分の可否決定が鹿児島地裁で予定されており、結果が注目される。
樋口裁判長は決定で、関電が想定する基準地震動(耐震設計の目安となる揺れ)について「信頼に値する根拠が見いだせない。基準地震動を超える地震が起きれば、炉心損傷に至る危険性が認められる」として、住民側の主張を認めた。
さらに、政府が「世界で最も厳しい安全基準」とする規制委の新規制基準を「合理性を欠く」と反論。高浜3、4号機は「万が一の危険という領域をはるかに超える現実的で切迫した危険がある」として、規制委の新規制基準を満たしていても安全は確保できないとした。再稼働した場合、二百五十キロ圏内に住む住民は「人格権を侵害される具体的な危険がある」と判断した。
決定を受け、菅義偉官房長官は十四日の会見で「政府としては規制委の判断を尊重し、再稼働の方針に変わりない」と述べた。
樋口裁判長は昨年五月、福井地裁で、関電大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の運転禁止を命じた。判決は現在、名古屋高裁金沢支部で係争中。住民らは昨年十二月、高浜3、4号機と大飯3、4号機の再稼働差し止めを求め、同地裁に仮処分を申し立て、大飯の審理は分離された。
仮処分をめぐる審尋は三月十一日に結審したが、関電側は「審理が十分につくされていない」などとして、樋口裁判長ら裁判官三人の交代を求める忌避を申し立てるなど異例の展開をたどった。
◆速やかに不服申し立て
関西電力の話 慎重な審理を福井地裁に強く求めてきたが、合理的な理由なく審理を終結し、申し立てを認める決定をした。主張を理解されず遺憾であり、承服できない。決定文の詳細を確認し、速やかに不服申し立ての手続きを行う。再稼働に向けた影響を最小限にとどめ、早期に仮処分命令を取り消していただくため、今後も安全性の主張・立証に全力を尽くす。
<福井地裁決定の骨子>
▼高浜原発3、4号機を運転してはならない
▼想定を超える地震が来ないとの根拠は乏しく、想定に満たない場合でも冷却機能喪失による重大事故が生じうる
▼使用済み核燃料を堅固な施設で囲い込むなどの対策がとられていない
▼原子力規制委員会の新規制基準は合理性を欠き、適合しても安全性は確保されていない
▼原発運転により、住民の人格権が侵害される具体的な危険がある
住民側、全面勝利に喜び 高浜再稼働差し止め
2015/4/15 中日新聞
司法が原発再稼働に「待った」をかけた。十四日、関西電力高浜原発3、4号機の運転禁止を命じた福井地裁の仮処分決定。東京電力福島第一原発の事故から四年がたち、政府と電力会社が原発再稼働への動きを加速させる中、「原発運転で人格権が侵害される危険がある」との司法判断に、住民側や脱原発派は「画期的だ」「原発ゼロの社会に踏み出せる」と喜んだ。一方、原発を抱える自治体では歓迎と戸惑いの声が交錯した。
午後二時すぎの福井地裁前。「全面勝訴。考え得る最高の内容です」。雨の中、集まった支援者の前で、弁護団の河合弘之共同代表が声を張り上げると、涙ぐむ人も見られた。掲げた垂れ幕には、「司法はやっぱり生きていた」。住民側の思いが込められていた。
近くのホールで開かれた報告集会では、支援者四百五十人が会場に収まりきらず、別室を設けるほど。河合共同代表が「徹底的に戦う最大の武器を手にした。きょうから第二ラウンドが始まる」。自信に満ちあふれた声が響くと、会場は大きな拍手に包まれた。
今回の決定では、原子力規制委員会の新規制基準について「合理性を欠く」と指摘。再稼働の判断基準そのものに疑問を呈した。河合共同代表は「日本の全原発の再稼働が禁止されたと言って差し支えない」と強調した。
四年前の福島第一原発事故後、福島県双葉町から福井県坂井市に避難している川崎葉子さん(64)は地裁前で「私たちのように古里を奪われる人が二度と出ないための第一歩。すごくうれしい」と笑顔で語った。
申立人の一人、大阪府高槻市の水戸喜世子さん(79)は福島の事故を振り返りつつ「原発が止まらない絶望感は大きかった」と吐露。「原発を全部止めたい。これが未来の子どもたちへの最低の義務」と語った。
市民団体「福井から原発を止める裁判の会」代表の中嶌哲演さん(73)も駆けつけた。「理想と現実が乖離(かいり)するのは世の常だが、理想と現実が一枚になった」と評価。「再稼働を許していくなら第二、第三の福島は必然。あと一、二年が正念場。再稼働を一基も許さなければ、原発ゼロの社会に日本は踏み出せる」と訴えた。
十五日には大飯原発訴訟の控訴審が名古屋高裁金沢支部で開かれる。審理を前に中嶌さんは電力会社にこう呼び掛けた。「決定に背いて再稼働に暴走していくなら国民の反発を受けるだけ。謙虚に脱原発の一歩を踏み出すなら、どれほど国民の共感と支持を得られるか分かりません」