リニア中央新幹線
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2014/01/16 01:56 UTC 版)
計画そのものへの懸念や批判
リニア中央新幹線計画は、事業規模や建設費等が我が国有数の巨大プロジェクトであり、また、超電導リニアというこれまでに類を見ない技術を導入する交通機関だけに、計画そのものの採算性や環境適応性などに関する懸念や批判の声も存在している。
例えば1994年には、市民団体「ストップリニア東京連絡会」が著書『「リニア」破滅への超特急』(柘植書房)を出版した。『世界』2008年6月号では、橋山禮治郎(当時:明星大学教授)が「中央リニア新幹線は再考せよ」を寄稿し、橋山はその後も、著書『必要か、リニア新幹線』(岩波書店、2011年)を出版し、各地の講演会などでリニア計画への批判を続けている。また、2009年には市民団体「リニア・市民ネット」(代表:川村晃生・慶応義塾大学教授)が発足している。JR東海労働組合も、リニア計画反対を表明している。
リニア計画に対する代表的な懸念や批判は以下のようなものである。
大都市圏では大深度地下トンネル、南アルプス(赤石山脈)では直下に長大トンネルを掘削するなど、地下区間がほとんどであり、難工事が予想されるため、建設費が当初計画を大幅に超過する可能性もありうる。その場合、JR東海の経営を圧迫しないか。
リニアの料金は、普通車指定席の場合、東京 - 新大阪間で1万5050円で、従来の「のぞみ」と比べてプラス1000円。同様に、東京 - 名古屋間ではプラス700円、名古屋 - 大阪間ではプラス400円を想定しているが、本当にこのような料金設定が実現可能なのか。
今後の日本は、少子高齢化の影響による人口の減少が見込まれており、東海道新幹線の乗客数も近年はほぼ横ばい状態が続いている。また、現状の東海道新幹線は、格安航空会社や高速バスとの激しい競争に晒されており、近年では新東名高速道路も開通した。そのような中で、予測される程の需要はあるのか。
南アルプス直下での長大トンネル建設は、トンネル開口部の崩落による景観破壊や、大量の排出土砂の処理、地下水脈の寸断などによる環境破壊を招くのではないか。また、糸魚川静岡構造線や中央構造線といった大断層を横切るルートであるため、大地震が発生した場合の地殻変動や土砂崩れなどによる危険性があるのではないか。
超電導リニアの乗客1人1km当たりの電力消費量は、既存の鉄車輪式新幹線の約3倍とされている。2011年3月に発生した東日本大震災および福島第一原子力発電所事故後に電力供給事情が悪化し、政府のエネルギー政策の先行きも不透明な中で、電力を大量消費する交通機関であるリニア新幹線の建設は妥当なのか。「航空機に比べると超電導リニアのほうがエネルギー消費量や二酸化炭素排出量が少ない」という計画推進側の主張に対しては、航空機は旅客と一緒に貨物も搭載できるから、厳密な計算では航空機も超電導リニアもエネルギー消費量はほぼ同じではないかとの指摘もある[104]。
元国鉄技師の川端俊夫は、『朝日新聞』1989年8月24日付論壇で、リニア宮崎実験線の消費電力から計算し、「新幹線の40倍の電力消費」だとして電力浪費だと批判した。これに対して尾関雅則・鉄道総合技術研究所理事長(当時)が、同紙1989年9月4日付で、川端の計算はあくまでも瞬間最大消費電力の数字を元にしており、東京 - 大阪間全体のシステム設計では新幹線の3倍を計画していると反論した(ただし1989年当時は、東海道新幹線の主力車両がまだ0系で、超電導リニアの実験車両も1両編成のMLU002という頃であり、現在では鉄輪式新幹線も超電導リニアも大幅に省電力化が進んでいる)。
JR東海が交通政策審議会・中央新幹線小委員会の2011年5月12日会合に提出した資料によると、500km/h走行時のリニア1列車当たりの想定消費電力は約3.5万kWとされている。2027年の名古屋開業時には、所要時間40分、ピーク時5往復(上下10本)運転すると想定すると、合計約27万kW。2045年の大阪開業時には、所要67分、ピーク時8往復(上下16本)で、合計約74万kWの電力を消費すると試算している[105]。これに対して現在の東海道新幹線は、ピーク時には1時間に最多13往復(上下26本)が走行しているが、消費電力は約36万kWである[106]。
超電導リニアは、車内の磁石から強力な電磁波を発生させる。車内および駅のホームには磁気防護シェルターが設置される予定で、電磁波が人体に及ぼす影響は小さく、心臓ペースメーカーや電気機器が誤作動することはないレベルだと推進側は主張している。しかし、長期間にわたって乗員・乗客や沿線住民がリニアの電磁波を浴び続けた場合の健康への影響は不明確なのではないか。
全線もしくは東京 - 名古屋間での部分開業の際に、首都圏や近畿圏と比べて経済や観光の面において基盤が弱い中京圏では、首都圏もしくは近畿圏に本社を持つ企業が営業所や工場をそれぞれの本拠地へ集約することで起こるストロー現象を招く恐れがあるのではないか。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2014/01/16 01:56 UTC 版)
計画そのものへの懸念や批判
リニア中央新幹線計画は、事業規模や建設費等が我が国有数の巨大プロジェクトであり、また、超電導リニアというこれまでに類を見ない技術を導入する交通機関だけに、計画そのものの採算性や環境適応性などに関する懸念や批判の声も存在している。
例えば1994年には、市民団体「ストップリニア東京連絡会」が著書『「リニア」破滅への超特急』(柘植書房)を出版した。『世界』2008年6月号では、橋山禮治郎(当時:明星大学教授)が「中央リニア新幹線は再考せよ」を寄稿し、橋山はその後も、著書『必要か、リニア新幹線』(岩波書店、2011年)を出版し、各地の講演会などでリニア計画への批判を続けている。また、2009年には市民団体「リニア・市民ネット」(代表:川村晃生・慶応義塾大学教授)が発足している。JR東海労働組合も、リニア計画反対を表明している。
リニア計画に対する代表的な懸念や批判は以下のようなものである。
大都市圏では大深度地下トンネル、南アルプス(赤石山脈)では直下に長大トンネルを掘削するなど、地下区間がほとんどであり、難工事が予想されるため、建設費が当初計画を大幅に超過する可能性もありうる。その場合、JR東海の経営を圧迫しないか。
リニアの料金は、普通車指定席の場合、東京 - 新大阪間で1万5050円で、従来の「のぞみ」と比べてプラス1000円。同様に、東京 - 名古屋間ではプラス700円、名古屋 - 大阪間ではプラス400円を想定しているが、本当にこのような料金設定が実現可能なのか。
今後の日本は、少子高齢化の影響による人口の減少が見込まれており、東海道新幹線の乗客数も近年はほぼ横ばい状態が続いている。また、現状の東海道新幹線は、格安航空会社や高速バスとの激しい競争に晒されており、近年では新東名高速道路も開通した。そのような中で、予測される程の需要はあるのか。
南アルプス直下での長大トンネル建設は、トンネル開口部の崩落による景観破壊や、大量の排出土砂の処理、地下水脈の寸断などによる環境破壊を招くのではないか。また、糸魚川静岡構造線や中央構造線といった大断層を横切るルートであるため、大地震が発生した場合の地殻変動や土砂崩れなどによる危険性があるのではないか。
超電導リニアの乗客1人1km当たりの電力消費量は、既存の鉄車輪式新幹線の約3倍とされている。2011年3月に発生した東日本大震災および福島第一原子力発電所事故後に電力供給事情が悪化し、政府のエネルギー政策の先行きも不透明な中で、電力を大量消費する交通機関であるリニア新幹線の建設は妥当なのか。「航空機に比べると超電導リニアのほうがエネルギー消費量や二酸化炭素排出量が少ない」という計画推進側の主張に対しては、航空機は旅客と一緒に貨物も搭載できるから、厳密な計算では航空機も超電導リニアもエネルギー消費量はほぼ同じではないかとの指摘もある[104]。
元国鉄技師の川端俊夫は、『朝日新聞』1989年8月24日付論壇で、リニア宮崎実験線の消費電力から計算し、「新幹線の40倍の電力消費」だとして電力浪費だと批判した。これに対して尾関雅則・鉄道総合技術研究所理事長(当時)が、同紙1989年9月4日付で、川端の計算はあくまでも瞬間最大消費電力の数字を元にしており、東京 - 大阪間全体のシステム設計では新幹線の3倍を計画していると反論した(ただし1989年当時は、東海道新幹線の主力車両がまだ0系で、超電導リニアの実験車両も1両編成のMLU002という頃であり、現在では鉄輪式新幹線も超電導リニアも大幅に省電力化が進んでいる)。
JR東海が交通政策審議会・中央新幹線小委員会の2011年5月12日会合に提出した資料によると、500km/h走行時のリニア1列車当たりの想定消費電力は約3.5万kWとされている。2027年の名古屋開業時には、所要時間40分、ピーク時5往復(上下10本)運転すると想定すると、合計約27万kW。2045年の大阪開業時には、所要67分、ピーク時8往復(上下16本)で、合計約74万kWの電力を消費すると試算している[105]。これに対して現在の東海道新幹線は、ピーク時には1時間に最多13往復(上下26本)が走行しているが、消費電力は約36万kWである[106]。
超電導リニアは、車内の磁石から強力な電磁波を発生させる。車内および駅のホームには磁気防護シェルターが設置される予定で、電磁波が人体に及ぼす影響は小さく、心臓ペースメーカーや電気機器が誤作動することはないレベルだと推進側は主張している。しかし、長期間にわたって乗員・乗客や沿線住民がリニアの電磁波を浴び続けた場合の健康への影響は不明確なのではないか。
全線もしくは東京 - 名古屋間での部分開業の際に、首都圏や近畿圏と比べて経済や観光の面において基盤が弱い中京圏では、首都圏もしくは近畿圏に本社を持つ企業が営業所や工場をそれぞれの本拠地へ集約することで起こるストロー現象を招く恐れがあるのではないか。