映画「ここに生きる」
観てきました。
完全に裏切られました・・・完全にいい意味で裏切られました!
私は延岡市の市民活動で取り組まれている“第九を歌う”活動のメイキング作品程度のものなのだろうと勝手に決め付けて、ただぼんやりと席に座り上映を待ちました。
冒頭から映像の美しさに圧倒されます。
見たことのある風景やありふれた生活模様がキラキラと紡がれ、そこに様々な登場人物の生き様が重なり、ストーリーは展開していきます。
思春期の中で自分探しをする少女・・・
地域医療の最前線で誇り高く生き抜く医師・・・
公務員を退職後、バイオリン作りに精魂を傾注する老人・・・
“最後の共同作業ですね”と笑顔で練習に参加する老夫婦・・・
そして口蹄疫から立ち上がり明るく宮崎の畜産を支える女性・・・
いろいろな人生が、第九を歌うということで結ばれ、それぞれの辛さや楽しさが寄り添い、深みのある舞台を作り上げていきます。
20年前にこの第九を歌いながらも、故郷を離れ、都会の片隅で第九を口ずさみながら涙する男性のシーンも印象的でした・・・
“延岡に帰りたいけど帰れない・・・今の仕事も楽ではなくて、できることなら帰りたい・・・でももう東京の生活も捨てれない・・・昔この時期にキラキラと第九を歌っていたな~・・・あ~あの頃に戻れたなら・・・”
そんなセリフは一切ないのですが、途切れ途切れに第九を口ずさむ男性から故郷を想う気持ちがにじみ出ていました。
その男性を見ながら、私は大学時代に東京で何人かの同級生と飲んだときのことを思い出していました・・・
「お前は卒業したらどうすっとや?」
と尋ねられたので
「俺は宮崎に帰る。」
「どんげずっとかあんげなんもないとことに帰って!こっちやったらなんぼでも仕事も遊ぶもんもあるが。」
私はそれでも頑なに
「いんにゃ、俺は帰る。なんにもないちゅうこつは、なんでもできるっちゅうこつや!俺からなんか立ち上げちゃる!」
と言い返した手前もあって、卒業後まっすぐ帰省し、医療ソーシャルワーカーとして働く傍ら、地域活動にも没頭し、青年団やそしていまだに消防団活動を続けています。
話を映画に戻しましょう・・・
映画の中で胸にささった言葉に
「不便さの贅沢を楽しもう!」
という言葉がありました。
今は、コンビニに行けばたいがいの生活用品は手に入れることができるようになりました・・・しかしコンビニで“絆”や“達成感”を手に入れることは難しいでしょう。
田舎だから手間隙かけないと手に入らないものもたくさんある・・・田舎だけど都会にはなくなってしまった温もりがたくさん残っている。
人生の楽しみは与えられるものではなく、自ら自分の人生に参加し、創り上げていくものだと言うことを思い出させてくれる作品でした。
誰の人生と比べるのではなく、日常の中にこそ真の喜びや幸せが散りばめられていることを語りかけてくれる素晴らしい作品でした。
そして何より迫力ある第九の歌と演奏!
この映画を観て、第九を聴くことができたなら、圧倒的なスケールの中に数々の温もりを感じられることと思います。
まずは多くの方にこの映画を観ていただき、忘れかけていたそれぞれの“何か”を思い出して欲しいと思います。