桂米丸師匠の落語を聞く。
先輩は、この米丸師匠の落語は面白いと言われた。
先輩は、自分より年上の作家が書いた小説しか読まない。
自分より年上の医者の言うことしか信用できないと言われる。
「読むものも無くなっていくし、だんだん呆けて来た医者の話を聞いてもしょうがないだろう。」と先輩に話すのだけど受け付けてくれない。私は、先輩より年下だから仕方がない。
米丸師匠の「ただそれだけの話ですがね。」の連発が面白い。
これだけの師匠だから、なにか特別な落ちをと期待して聴いている客の逆手をとる。客は、期待した自分を笑うのである。
米丸師匠の話を聞きながら、どうしても思い出したいことがあると、何だったけな、ここまで出てきているんだがなと一生懸命思い出そうとしていた。やっぱりだめか、いやあきらめないぞ、もうちょっと。そこへ「今日は、傘がいるかしら。」と妻が聞いてくる。「うん」としか答えようがない。もうちょっとと格闘しながら、黙考していると、「雨がふるかしらね。」とまた聞く。
あっ、思い出した。と手を打つ私。なんなのと妻。
いやいや、今は話せないと出し惜しみする私。ひたすら、にやにやしながら満足する私。
件の先輩といろいろ抱えている酒豪と4人で飲む中野へ向かう。
電車の中でも、良いタイミングで話そうとあれこれ考えている私。
よもやま話が、ひと段落したところで、米丸師匠は面白いと切り出した。新作ネタの電車の中での面白い話を反芻した。件の先輩も米丸師匠に関連した話をしたそうなのを抑えて、私は話したかったやっと思い出した話を始めた。
ある春の日、昼下がりの東西線を舞台にした話である。まばらな乗客を乗せた電車内での出来事である。気持ちよく揺られてあちこちで居眠りが始まっていた。その時、ある紳士の頭(かつら)が突然落ちたのである。あろうことか、やはりうつらうつらしていた隣の紳士の股間に落ちたのである。
現れた禿げ頭が相変わらず前に後ろに揺れていた。
クスクスと乗客たち。のんびりとした空気に一瞬緊張が走る。
隣の紳士は、クスクスという笑い声を聞いたように思った。
目を落として驚いた。股間に黒い毛むくじゃら(かつら)が付いていた。
紳士は、あわててズボンのチャックをおろし、その毛むくじゃらをズボンの中にあわてて納めたのであった。なんという荒業。
それだけの話である。
落とした紳士、納めた紳士。二度驚いた乗客たち。
笑い転げる4人。その日は、大いに盛り上がりいつになく深酔いしたのである。
米丸師匠ありがとう。
2014年7月19日
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