熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

榊原英資:日本は没落する・・・その2 日本の教育の劣化

2008年01月23日 | 政治・経済・社会
   榊原教授が日本没落の原因として最も憂えているのは、教育の質の劣化と言う問題である。
   ポスト産業資本主義の時代において必要なものは、優秀なプロフェッショナルを育てる為のエリート教育であるにも拘わらず、時代に逆行する悪平等主義の中での「ゆとり教育」にうつつを抜かすなど、日本の教育システム全体が著しく制度疲労を起こしており、欧米は勿論、韓国、中国、インドからも大きく遅れを取っていると言うのである。

   ポスト産業資本主義時代は、金余りの時代であって、今日マネーを動かし経済をドライブする最も重要な要因は、「技術」「知識」「情報」であり、そして、この総てを支えているのは「教育」であるから、教育の質そのものが国家の命運を決することとなる。
   日本の教育について、小林陽太郎氏などは、知性の奥深さに裏打ちされた真の人間的な厚みが人を魅了し人を動かすのだが、その根源となるリベラル・アーツの教養が、日本の経営者に最も欠如していると常々説いていて、米国に倣って日本アスペン研究所を設立して勉強を推進している。
   これも、根本的には日本の高等教育に問題があるのだが、榊原教授の憂いは、もっとそれ以前の教育問題なのである。

   「ゆとり教育」などはもっての外、「暗記」は教育の基本であり、知識こそ「考える力」の源泉だと言う。
   茂木健一郎氏も言っているが、発想やイノベーションは、持てる知識や情報が頭の中でぶつかり合って生まれ出でるものであって、知識と経験が豊かであればある程よく、無からは絶対に生まれない。
   私自身、榊原教授と同じ意見で、読み書きソロバンが教育の基礎であり、やり方を工夫する必要はあると思うが受験勉強大いに賛成で、とにかく、若いうちは、万難を排して必死になって勉強して知識教養を叩き込むことだと思っている。

   インドの九九、すなわち、19×19の暗記がインド人の数学力の高さの、そして、世界に冠たるIT王国の源泉であることは自明の真理である。
   我々が子供の頃のように、πを3.1415926535…と覚える必要はないが、π=3と教えるような国、或いは、小学一年生の理科と社会を廃止するような国に、技術立国の夢などある筈がないし、素晴らしい一等国としての誇りがある筈もないことだけは確かである。

   もう一つの問題は「競争の否定」で、社会階層の固定化をもたらしたと言う。
   その最たるものは、「日比谷高校」を解体した学校群制度で、東大を目指して頑張る優秀な高校生が大挙して私立高校に転進して、その後、私立学校の隆盛が教育費の高騰を引き起こして、金持ちの子息でないと東大に入れなくなった。
   勃興期の日本は、貧しいハングリー精神旺盛な高校生が国立を目指して頑張った。
   私が、学生の頃、同志社キャンパスには学生の自家用車が駐車しているが、京大の構内には汚い自転車が溢れている、えらい違いだとマスコミに揶揄されたことがあったが、皆同じ様に貧しかったので誰も気にしていなかった。
   それよりも、競争の否定は、かけっこでも何でも優劣をつけないエセ平等の悪平等主義の教育方針で、能力のある人材の成長の芽を摘み優秀な人材を育てようとする風潮が皆無だったところに問題がある。
   優秀な日本人(私は固くそう信じている)の能力をフル回転できない、そして、貴重な人的資源を浪費し続けている日本の教育の現状を、長い海外経験で痛いほど見せ付けられているので、何時もそう思っている。

   教育を考える時に注意しなければならないのは、学校も重要だがそれを取り巻く総ての環境が与える影響も重要である。
   人材の優劣を決定するのは、遺伝的な素質、環境、勉強の三要素だと考えられているが、孟母三遷と言われるように、孟子の母さえ孟子の教育環境を変えざるを得なかったのである。
   身一つ故に経験範囲は限られているので、最も影響を受けるのはIT時代におけるマスメディアで、特にTVなどの影響が大きい。
   私は、ニュース番組以外はNHKのBS放送やCSの外国ニュース、WOWWOWの映画が主だが、NHKの総合もひどいが、民放の朝から晩まで延々と続く俗悪番組のオンパレードを考えれば、日本の政治がポピュリズムにハイジャックされてしまうのも当然だと言う気がする。

   たった一人の偉大なエリートが国家を建て直し、たった一人の優秀な技術者が企業を起死回生させる知識と技術がキーファクターとなった知識情報化社会。世界の大学は、叡智と優秀な人材を求めて熾烈な争奪戦を展開しており、ハーバードなど留学費用丸抱えでエリート中国学生を引き抜いていると言う。
   サムソン電子がここまで突出したのも、東芝など優秀な日本人技術者を破格の条件でゴボウ抜きしたからだと言うが、既に、世界は、コンピューター一つあればインターネットで世界中から最高の叡智を学ぶことが出来、最新のビジネスにアクセス出来る時代に入っており、知識情報、技術ノウハウ、エリート人材の移動などには国境がなくなってしまった。
   
   閉鎖的で外資を毛嫌いし、外人学者や研究者の自由な参入を拒否し続けており、日本人の大半が東大を叩き潰そうとしている悪平等主義の日本の島国根性を変えない限り、日本の教育の将来像は暗いと思っている。
   日本の教育問題については、このブログで何度も書いているので、蛇足は止めるが、榊原教授の指摘には賛成である。
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