熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ビル・エモットの中国論は正しいか

2006年11月22日 | 政治・経済・社会
   過日の日経ホールでの経済シンポジュームで、ビル・エモットは、中国は、日本やアジアから材料や部品を輸入して組み立てて工業製品にして外国に輸出する、言わば、最終組立国家であると強調していた。
   インドのハイテクやアウトソーシング輸出と対比させていたので、聞き方によっては、中国経済の躍進と実力には驚異的なものがあるが、実質的には組立しか脳のない恐れるに足らない工業国だと言っているような印象を受けてしまう。

   確かに統計上の数字から言えばそうかも知れないが、ビル・エモットの見解は、貿易統計や国民所得統計からのマクロ経済的な判断からのもので、もう少し実際の企業や工場などミクロの実体経済的な側面から中国の工業力を見ると、かなり違うでのではなかろうか。
   今回、テッド・C・フィッシュマンの「CHINA INC.」を読んでみて、中国の工業技術の急速な向上と躍進には注目すべき数々の兆候があることが分かったのである。

   その前に、アメリカ経済の驚異的な競争力についてだが、その生産性の向上の6割は、工場を運営して調整する役割を果たしたソフトウエアやコンピューターや電気通信網の向上などIT関連技術の向上に負っていたと言う。
   しかし、現在では、世界の極めて生産性の高い企業が、拡散したハイテク技術を導入・駆使して、アメリカの得意とする電子機器の価格を引き下げ、大量に製品を世界中に出荷している。
   時の経過と共に、世界の製造業者の世界が益々効率化され、相互に連結され、小さくなってきており、中国は、この武器を選択することが出来、一方では世界のライバルを低賃金で攻撃し、もう一方では、次第に手に入りやすくなったハイテクノロジーを導入した生産性の上がった工場で攻撃してきているのである。

   フィッシュマンの指摘で非常に興味深い点は、より多くの製品をより豊富な種類と価格で供給している中国が、アメリカ企業の選択肢を減らしている、と言っていることである。
   即ち、中国の巨大さは低コスト生産を可能にするだけではなく、低コスト生産を強制している。
   中国の企業や消費者が自分達の為に行った選択、即ち、中国製品の価格と品質がグローバル基準となってしまって、アメリカ経済の動きを次第に支配するようになると言うのである。

   部品などの製品価格については、ウォルマートを筆頭にして、中国本土で収集した内部情報が世界の総ての納入業者の頭上で振り回されるハンマーになる。
   GMやフォードなども、毎年、納入業者に大幅な値下げを要求する。世界のどのメーカーよりも安いと考える価格を提示できるまで30日の猶予が与えられるが、その価格が実現出来なければ、即刻、契約が打ち切られるのである。

   自動車産業については、ホンダの全量輸出と言う条件で認めた例外を除いて、中国でビジネスを展開する為には国営の企業と手を結ばなければならない。
   提携相手が事業計画に提供した特許などの知的財産は、提携相手の中国企業も同等に所有出来ることになっているので、中国の企業は様々な優秀な外国企業から得た最高の技術を導入して自社製自動車を生産出来る。
   海外の提携先から経営と技術を学んだ中国の強力な部品メーカーを傘下に組み込んだ外国自動車メーカーが、世界規模の最適供給システムを確保した途端に、実際は、強力な中国のライバルを自らのシステムに抱え込んでしまったことになるのである。

   知財保護については、官民こぞって、コピー製品を大量に世界に放出している名うての海賊版国家であるから、その製品の品質は、極めて高く、GMがモーターショーで発表しようとした新車が、図面とスペックが裏情報で流れて、その直前に中国製が出現すほどであると言う。
   ウインドーXPの中国製海賊版の方が、本物より安定性もセキュリティも高いし、アドビ・クリエイティブ・スイートなど本物より優れた機能を持っていると言うし、中国製の名もなき会社の超安値のコンピューターには同時にもっと多くの海賊版ソフトが搭載されて売られている。
   また、フィリップス、GE、シーメンスなどが最高の技術を駆使して製造した機器に匹敵するようなMRIを、60%程度の価格で開発中であり、今日、海外から携帯電話メーカーと部品納入業者、ブロードバンド通信業者の膨大な投資が入り込み、バイオテクノロジー、半導体、インターネット開発、等々ハイテク関連の世界一流の技術主導型企業との提携が進んでいるのだと言う。
   ハイテク技術をはじめ最新の知識と頭脳を持った多くの中国人学者や技術者を安価に大量に投入できる中国では、どんなものでも開発可能であり、近い将来中国の挑戦を凌ぐ技術などなくなるのだと極論して心配する欧米人まで出てきている。

   殆ど真偽の見分けのつかないほど精巧な偽札スーパーダラーを発展途上国が製造する今日、途中の経済的挫折があるとしても、ハイテク工業製品の分野で中国が日本や欧米に追いつくのは時間の問題であろう。
   ビル・エモットの言う組立国家の汚名の返上も時間の問題であると言うことである。
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